テラーノベル
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南雲監察官室の扉がノックされた。
現在、部屋の主は六駆と2回戦の模擬戦についての議論が白熱しているところであり、来客になどかまけている余裕はない。
「山根くん! 出てくれる!? 適当に相手しといて!!」
「へーい。……うわぁ」
南雲はコーヒーを飲みながら「逆神くんは今回お休みにしなさい! 絶対に譲れないぞ!!」と激論を交わしている。
そんな南雲の肩を、山根が控えめに突つついた。
「なんだよ、やーまーねぇー!! 今、私すごく忙しいんだぞ!!」
「ほう。私の来訪を無視するとは、偉くなったものだな。南雲監察官」
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「危ない! 『空盾』!! 広域展開!!」
南雲がこれまでのコーヒー噴いて来た歴史を振り返ってみても、恐らく滞空時間、飛散距離ともに最高記録を計測した瞬間であった。
「ヤメてくださいよ、南雲さん! 顔面目掛けてコーヒー噴くのは反則ですよ!」
「いや、失敬。……じゃないよ! も、申し訳ありません!! 少し立て込んでおりまして!!」
南雲は流れるように土下座した。
その動きには一切の無駄がなく、山の湧き水を思わせる清らかさを感じられたと言う。
「南雲さん、この女の子はどなたですか?」
「さ、逆神くぅん! 口を慎め! この方は、五楼京華上級監察官だよ!!」
「ああ、偉い人だ! こんにちは! 僕は逆神六駆と言います!」
「やめろぉぉぉぉ!! RPGの村人みたいに話の流れ無視して自己紹介するな!!」
五楼京華。40歳。
8人在籍している監察官を統べる2人の上級監察官の片割れであり、探索員協会本部の意思決定機関である。
若くして上級監察官の席に座るだけの実績は山のようにある。
かつてはSランク探索員として国内国外問わず活動し、攻略したダンジョンの数は30を超え、20代の頃にはその先の異世界で武者修行に明け暮れた。
後進の育成にも熱心であり、五楼上級監察官室から毎年優秀な探索員が輩出されている。
昨年も1人のSランク探索員を育てた。
戦闘においてもその実力は比類なきもので、異世界で習得した『皇帝剣』の使い手。
実力、知略、人望の全てを兼ね備えた、協会本部のトップである。
「タンプユニオールに派遣している遠征部隊からサーベイランスを追加して欲しいとの要請が届いた。可能か?」
「はい! 可能です! 2時間で5つご用意できます!」
「1時間で8つ用意しろ。それまでここで待たせてもらう」
#現代ダンジョン
夜鐘
922
裏五条
17,148
#学園
大正
4,624
#コメディ
ウサギ様
431
「えっ!? 五郎丸さん、ここにいるんですか!?」
「逆神くん! 君ぃ!! いよいよ私を殺しにかかってきたな!? くそぅ!!」
山根が速やかにこの部屋で1番良い椅子を五楼へ差し出す。
「うむ。すまんな」と言って、五楼はその椅子に座る。
なお、それは当然だが南雲の椅子であり、南雲はと言えば地べたに座ってサーベイランスの調整を始めていた。
その瞳には決死の炎を宿しており、「早く帰ってもらおう!!」と言う気持ちが前面に溢れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「しばらく見ないうちに、南雲監察官室は賑やかになったものだな」
「五楼さんって若く見えますけど、上級監察官になって長いんですか?」
「モルスァ」
「南雲さん、意識失ってる余裕ないっすよ! 頑張って! 自分、コーヒー淹れるっす!!」
探索員をやっていて五楼京華を知らない者はいない。
それだけ上級監察官は有能であり有名、絶対的存在なのだ。
ただし、コミュ力を戦闘力に変換し続けた結果、出涸らしになったおっさんは例外とする。
「ほう。貴様は私に物怖じせぬのか。面白い。名は?」
「逆神六駆です! さっきも言いましたよね? 聞いてなかったんですか?」
あまりにも堂々とした態度に、パーティーメンバーにも変化が現れる。
「わ、わたくし、逆神さんの事をまだ何も知らなかったようですわ……。この強靭なお排泄物的精神力はどこから湧いてくるんですの!? ご、五楼上級監察官ですわよ!? ああっ! もう逆神さんに逆らえる気がしませんわ!!」
塚地小鳩、なんだか知らないうちに六駆に屈する。
「にゃははー。芽衣ちゃん、あたしのお尻にしがみつく力がいつもの5倍くらいあるにゃー」
「みみみみみみっ。危険は危ないです。危ないのが危険です。みみみみみっ」
さすがの莉子も、この六駆のご乱行には思うところがあるはずである。
先ほどから静かなのも彼を一喝するタイミングを計っているのだろう。
「……六駆くん。さすがだよぉ。協会本部のトップと対等に話してるー!!」
手遅れであった。
「逆神……? おい、貴様。まさか逆神大吾の関係者ではあるまいな!?」
「全然知らない人です!」
「おおい! 嘘つくな!! 逆神くんのお父様です! 関係者です!!」
五楼は実に苦々しい表情をする。
南雲のコーヒーが口に合わなかったのだろうか。
「あ、あの痴れ者の息子だと……。と言うか、あの痴れ者は結婚していたのか!? 信じられん!! 逆神、貴様の母君は何か弱みでも握られていたのか?」
「僕が小学生の頃に別居し始めたんでよく分かりません! 五楼さんってうちのクソ親父の知り合いなんですか?」
五楼の表情がさらに苦くなった。
南雲のコーヒーに漢方薬でも混ざっていたのだろうか。
「……思い出したくもないが、あの痴れ者は私の。くっ……。剣の師匠のようなものだ。かつて、若い頃に行った異世界で何故かあの痴れ者は平然と暮らしており、何故か強大な力を持っていた。酷い1年半だったよ……」
「でも、五楼さんってどう見ても親父の50倍くらい強いですよね?」
「当たり前だ! この痴れ者が!! 自己の研鑽を怠る者と、勤勉に努力を重ねる者がいつまでも同格でいて堪るか!!」
「南雲さん、南雲さん。なんか驚愕の事実が次々に明らかになっていってますよ!」
「聞こえない。聞きたくない。逆神くんちって何なん? どうしたらこうも色んなところに顔出せるん? 子供の頃にいたよ、友達のお父さんにこんな人」
南雲は仕事の速度を上げた。
そうすることで精神の安定を図るのだ。
彼の動きは、そのうち音を置き去りにしたとか。
「……逆神。あの男の息子だと言う事は、貴様も無茶苦茶なスキルを使うのか?」
「あらら、五楼さんご存じなんですか!? やだー! 言ってくれればいいのに!!」
「……やはりか。ここに断言しておく。貴様が協会にとって害であると私が判断すれば、即刻処罰を与える。探索員憲章の違反。スキルの不法使用。最悪、実刑もあると心得よ。南雲、まだできんのか?」
「南雲さんは胃が痛いと言って倒れました。こちらが用意できたサーベイランスっす。7基ですが、足りますでしょうか?」
「ふん。相変わらず、技術屋としては一級品だな。ご苦労だった。ああ、それから」
五楼はうずくまって魂が口から抜けかかっている南雲に付言した。
「逆神の存在を報告していなかった事に関しては、とりあえず私の心に留めておく。……が! 逆神の行動の責任は上官である南雲。貴様も連座すると心得よ!!」
そう言うと、「サーベイランスは助かった。感謝する」と丁寧に頭を下げて、五楼京華は退室して行った。
「南雲さん! つまりどういうことですか!?」
「恐れていたことが現実になったんだよ。首に縄が掛かった状態で、足場が今にも崩れそうなの。君と私」
「じゃあ、縄を掴んで懸垂する感じで脱出すれば良いじゃないですか!」
「君は本当にアレだな!! もうヤダ! 逆神家って本当にアレだよ!! ああああっ!!!」
こうして、なんだかよく分からないうちに逆神六駆の秘密が漏洩した。
果たして六駆の身に危機が迫るのか。
それとも、予想外の結果が待っているのか。
未来の献立はまだ決まっていない。
けれども、それが南雲の胃に優しいものであることを願ってやまない。
コメント
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うわあ、ついに上級監察官・五楼京華さんが登場ですね!あの飄々とした六駆くんが、まさかの逆神大吾の息子ってだけで既に大注目されてて、しかもお父さんが五楼さんの剣の師匠だったなんて…設定がどんどん深まってて興奮しました。南雲さんの胃が心配になる展開も、笑いと緊張が絶妙で面白かったです。続きが気になります!