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吉田おいちゃん
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Hayato×Jinto
Jinto side
コンクリートの縁に背を預けて、ただぼんやりと空を眺めた
風の音がする
かすかに街の喧騒を
時々カラスの鳴き声を
緑のかさつきを
運んでは持ち去っていく
「…居た」
声の主は呆れたような、少し不安なような、複雑な顔をして立っていた
「お前、スマホまで置いてくなよ、心配するじゃん」
「あ、ごめん」
スマホを置いてきたのはわざとだ
諸々面倒に感じるもの
すべて楽屋の机に置いてきた
みんなと居るのが嫌なわけじゃない
ただ、なんとなく一人になりたくなっただけ
「なんで、屋上ってわかったの」
「…匂い」
「…え、そんなんわかんの?犬なの?」
「…仁人の匂いしかわかんないよ」
「…ちょっと、気味が悪いかも」
「うるせえな」
どこまで本気かわからない事を言いながらも
勇斗は言葉遣いとは裏腹に心配そうな瞳で俺の顔を覗き込んだ
「…俺、居ていい…?」
「…ああ」
一人になりたくて来たはずなのに
勇斗がいなくなるのは違う気がした
「…なら良かった」
勇斗は少し笑うとコンクリートに背を預け
俺が見ているのと同じ空を見た
一人の時と同じように
今度は二人でただぼんやりと空を眺めた
「…なんか、落ち着くな」
「…そうだろ」
「…お前には、世界ってどうやって見えてるの 」
瞳は、変わらず雲の動きを追っている
「お前はどう見えてる?」
この空を
この空間を
どう見ているのだろう
「そのままだよ、ああ、カラスだ、雲が動いてるな、ってそれだけ」
「俺も同じだよ」
「…そっか」
「そうだよ」
人間の目に見えているものなんか、せいぜいそんなものだ
ある人はカラスが何羽いるかを数え
ある人はカラスがどこに行くかを気にして
ある人は雲が何の形をしているか考えて
ある人は風速を測ろうとする
せいぜい、そんなものだ
「仁人はもっと詩的なのかと思った」
「俺中二病じゃない 」
その言葉に勇斗は笑って
「ポエムとは言ってない」
と返してきた
「仁人がどういう目で世界を見て、どう感じているのか、俺の目でも見てみたい」
…俺も、見てみたいと思ったことはあるよ
でもさ
見る目が違うことに
別の人格であることに
意味があるんじゃないかって考えたんだ
「秘密道具とかでありそうだな」
「俺四次元ポケットないからさー」
「奇遇だな、俺もないよ」
気が付けば二人で笑っていた
「そろそろ行くか」
「ああ」
なんでもない会話が
時に誤解を生んだり
衝突したり
気疲れすることもあるけれど
視野が広がったり
積み重なった何かがほぐれたり
心に余白が生まれることもある
「…ありがと」
「…うん」
階段を降りる後ろ姿を見つめながら
ああ、やっぱり俺は勇斗が…
「…好きだよ」
不意に振り返り言う勇斗に少し驚いた
心を透かされたのかと思った
言おうとしていた言葉は
直接は言えなかったけれど
「…俺も…」
俺の答えを聞いて満足したらしい勇斗は
立ち止まってしまった俺の手を引いてまた先を行く
風がやんで今度は階段を降りる足音だけが響く
勇斗の香りがほのかにして
引かれた手の体温
捕まれた俺の手の熱さ
なんでもないことかもしれないけど
なんとなく
ずっと覚えてるんだろうなと思った
fin.