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「・・・おじゃましまーす。」
つぶやくような小さな声で、「どうぞ。」と開かれた扉をくぐる。
この部屋を訪れるのは数時間ぶりなのに、昨日とは全く心持ちが違っていて、何だかおかしな気分だ。昨日は「じゃーん!」なんて買い物袋掲げてウキウキの気分の僕だったのにな。予想外の展開に心がついていってない。
今日も若井の家にお邪魔するなんて全くの予想外。
今日は若井のことを意識しすぎてまともに会話ができなくて、若井が近くにいるだけでそわそわとした気分になるし、こっそり盗み見た顔はいつもの数倍はかっこよく見えて落ち着かないし。昨日の話を持ち出されるのがなんだか恥ずかしくて、「そうだ!みんなでゲームの話をしよう!」と元貴やマネさんも巻き込んでおしゃべりしてたのに、誰も会話に乗ってくれなかった。ツレナイひとたちだよほんと。
そんなおしゃべりな僕を優しい眼差しで見てる若井に、更にアワアワしちゃって。外を眺めたり、無意味にカバンをごそごそしたり、スマホを熱心に眺めてるフリしたり。いつもは車でぽけ〜っとしたり、うとうとと寝ていることも多い僕が、慣れないことをしたのが悪かったのかもしれない。車の揺れがだんだんと気持ちの悪さを助長させていって、あ、まずいなと思ってスマホを閉じたけど、時すでに遅し。完全に車酔いをしていた。目を閉じて必死に気分の悪さを紛らわせようとするけど、波は凪いでいかなくて。
「涼ちゃん・・・、もしかして酔った?」
若井がそんな僕の様子に気付いたようで、彼の自宅付近にいたのもあって、あれよあれよと一緒に車を降りることになった。「いいよ、」と遠慮したけど、「なんで、ちょっと休んでから帰りなよ。顔色めっちゃ悪いよ。」と返されて、拒否する元気も気力もなかった僕は、彼の後をそろそろ着いてマンションに入ったのだ。
「ここ座ってて?横になってもいいし。」
部屋に入って、僕をソファに座らせた若井が、キッチンの方から「なんか飲む?」と聞いてきた。「ううん。」と小さく首を振ったけど、若井はお茶を出してくれた。それからそっと僕の顔を覗き込むように見て「・・・まだ顔色悪いね」と、なんだか困ったような、でもあったかくて優しい眼差しで僕を見た。
なんかめっちゃ情けないな僕。勝手に若井のこと意識して、から回って、気遣ってもらって。挙げ句の果てにこんなふうに迷惑かけて。でも心配してもらって嬉しくて。あぁ、好きだなって気持ちがブワッと溢れてきて、言葉の代わりに鼻がツンとしてきて、目頭がじわっと熱くなる。
僕が涙を流すのは割と日常茶飯事だけど、今急に泣くとは思っていなかったようで、若井はぎょっとした顔で「え”ッ!!!そんな気持ち悪いの!?吐く!?」と僕の背をさすってくれた。ちがう、と首を振るけど、涙がついにポロポロ溢れてきてしまって。若井は動揺した様子だったけど、ずっとその暖かい手で、優しく背中をさすり続けてくれた。
「・・・もう大丈夫!ごめんね、なんか、涙腺おかしくなっちゃったみたい。」
しばらくして、やっと涙が落ち着いて、えへっとおどけたふりをして彼に笑いかける。まだ目が赤いかもしれないけど、優しい彼をこれ以上困らせるわけにはいかない。そう思って、にへらっと笑って見せたのだけど。「・・・涼ちゃん、昨日俺、なんかしちゃった?」と困った顔で若井が問い掛けてきた。
「涼ちゃん今日ずっと様子おかしかったし。昨日、俺ん家来てからだよね?・・・泣くくらい嫌なことしちゃった?ほんとごめ、」
「ッちがう!!」
慌てて否定して、若井の言葉を遮る。若井の誤解を解きたくて、でもなんて言ったらいいのか分からなくて、「ちがう、ちがうの、」と口をついた言葉がそのままこぼれ落ちる。
「っちがくて、あの、若井は昨日何にもしてなくて、いつも通り優しくてッ・・・!!」
そう、若井は優しい。
いっつもあったかい目で、僕のこと見てくれるよね。
「そんで、いつも通りかっこよかったしさ!」
見た目ももちろんかっこいいけどさ。すっごく真摯にギターと向き合うよね若井って。そこが一番かっこいい。
「あ”っ!でも、昨日はなんかすっごく可愛くてね!!」
そう、そうなのだ。いつも優しくてかっこよくて、歳下ながらとても頼りがいのある彼が昨日は可愛く思えて。それで、
「そう、それで!!好きだなぁ若井のこと、って思ったんだよね!!」
あぁ、よかった〜。やっとちゃんと説明できた。
久しぶりに頭をぐるぐる働かせたよ。若井の誤解を解けたのかしらん。
・・・・ん?
熱弁してた僕は気付かなかったけど、若井の方へ向き直して顔をうかがい見ると、そこには真っ赤な顔をした若井がいた。あれ。ぼく、あれ?
「・・・好きって、さ、言った?涼ちゃん?」
「・・・ん?言った、よね?僕。あれ?!好きって言っちゃったよ!!」
ぎゃーっ!!と今度は僕が顔を赤くする番。
「そうなんだ、涼ちゃん、俺のこと好きなんだ・・・」
「いや、あのねっ!ちがうの!いや、違わないけどね!すきだけど、若井を困らせる気は全くないの!!口から出ちゃっただけなの!これからも仲良くしてね、よろしく、ありがとうございまーす!さよならー!!」
「いや待て待て待て、」
慌てて立ち上がって逃げ帰ろうとしたけど、若井が僕の腕を引っ掴んで離してくれない。でも恥ずかしくって、いたたまれなくってぎゃーぎゃー騒いでみたけど、やっぱり全然離してくれなくて。それどころか「もう!」と痺れを切らした若井がぎゅう、と体ごと僕を引き寄せてきてソファに逆戻り。
「なんで逃げようとすんの!」
「だっだだだだってさ!僕さ!結構色々考えてたんだよ!若井に好きってばれたら困らせちゃうな、迷惑かけちゃうなって!なのにすぐバラしちゃった!え、僕あほすぎない?」
「・・・涼ちゃんが隠しごとなんて慣れないことするもんじゃないよ。」
若井は俺を抱き寄せた体勢のまま離してくれなくて、それどころかぎゅうぎゅう力を強めてくる。
「今日だってさ、ずっと挙動不審だったよ?俺のこと避けてたでしょ。あれ地味に傷つくからやめて。でもチラチラこっち見てきてさ。一人でから回って、そんで車でも落ち着かなくて、結局車酔いしたんだ?もうアホすぎでしょ。」なんて僕のことをからかってくる。うぅ、恥ずかしくて死にたい。
「でもさ、涼ちゃん。涼ちゃんより俺の方が、ずっと前からね、・・・・。」
若井の優しい声にのって耳元に届いたたくさんのナイショ話は、僕の心にゆっくり染み込んでいった。うれしくって、あったかくて、愛しさと幸せでいっぱいな気持ちになった。でもやっぱり恥ずかしくて、
「若井・・・僕のこと、めっちゃ好きじゃん。」
と照れ隠しに顔を逸らしたら、
「今知ったの?」
という言葉にぐうの音も出ず黙らされた。
「好きで好きで堪んないよ。ちょっとアホなとこもひっくるめて、愛してる。」
耳元に落とされる、蕩けるような甘い声。
「ぼくも、」
そう、小さな小さな声で囁き返して、きゅう、と彼の首筋に縋り付き、抱きしめ返した。
コメント
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初めまして!とっても可愛いりょうちゃんとスパダリ若井さん、楽しく拝読しました✨ 思いが通じ合ったお2人の続きのお話も期待しちゃいます…🥰大森さんに激しくいじられてほしいです笑