第1話たくさんの方に閲覧して貰えて感謝です。
センシティブ付いてますが、そういった描写は今のところは御座いません。
部屋に俺だけを残して出て行く奴を見届けてからアイツにボサボサにされた髪をある程度整えて立ち上がる。
その時に少し痛んだ背中は見ないことにした。
試しにこの部屋から出れないかと一縷の望みを賭けて扉を開けようと試行錯誤したが、生憎そんなことは無く、開く気配は全くと言っていいほどない。
大人しく扉から離れて部屋の中を見て回ることにした。
「…この服動きにくいんやけど」
無理矢理着替えさせられた服の裾を持ち上げる。ノースリーブの長砲の上にシースルーの袖先がふんわりと膨らんだ上着。装飾や柄を見ればそれは完全に女物で、急遽仕立て直したような。その証拠に、下の裾は俺の身長と合っておらずとても不便だ。
それでも部屋を把握しようと何度も転びそうになりながら、探索した。
結果は、良い方には転ばなかったが。
部屋の窓であろうところは丈夫な竹の格子があり、外に出れられそうになかった。そして部屋の奥の存在感のある天蓋のついたベッドは1人分にしてはやけに大きい。そして、シーツ等は全て絹やシルクで出来ていた。部屋の細々とした装飾も豪華で、今まで生きてきて初めて見た高級品ばかり。
扱いがイヤに丁寧で、逆に怖いとはこの事だろう。
「はあ、なんなん。いきなりマフィアがなんたらって連れてこられたと思ったら、こんな部屋に軟禁とか」
部屋に置かれた椅子には座らず、部屋の隅に蹲る。
あんのクソマフィア。
そう心の中で悪態を吐くも、それは気持ちを落ち着けようとする為の処置。
それでも尚、このだだっ広い部屋に1人閉じ込められたという事実がのしかかってきて、不安は晴れることがない。
「俺どうなるんやろ」
つい零した言葉は誰にも拾われることなく、宙に溶けた。
数日前。
ここ一帯をシマとする国で1、2を争うであろうチャイニーズマフィア『ラグーザファミリー』のボスである葛葉は巷で有名になっている、踊り子を見に、街へと繰り出していた。
まあ、敵マフィアの刺客だったら困るしなァ。
その可能性がある為に葛葉は自ら街に行く選択肢を選んだ。
出店の商品を眺めながら街を歩き、情報収集を始める。
そうしてかき集めた噂を整理すると、こうだ。
その踊り子はなんでもいきなり街に現れて、広場で夜の8時に踊り出す。 溶けてしまうような甘い声で歌いながらしなやかに踊るその姿はまるで天女だとまことしやかに囁かれている……。
「天女、ねェ」
そうして路地裏に背をもたれて腕を組み、目を細めて、空を見上げる。
今日は満月か。そう何となく見ていれば、ワァ!と上がる歓声。
月から視線を外して広場へ向けると、舞台に立つ踊り子の姿があった。
フェイスベールをしていて顔の全貌を伺うことは出来ないが、アメジストのような瞳が輝いていて、瞳の色に合わせたのか、 衣装は菫色で統一されている。
そして何より目を引くのは派手な差し色の入った白銀の髪。それが月光に照らされ光り輝いていて、まるで地上に降り立った女神のようだと思った。
…これは天女と言われる所以も分かる。
視線が釘付けになって踊り子を見るのを辞められない。引力のある不思議な魅力を持った女だ。そう関心していた葛葉は、 踊り子が歌い出した直後に耳を疑った。
「は、男?」
そう、踊り子の歌声は男のものだったのだ。
天女だと言われていたが故に女だと思い込んでいたが、男だという事実がまた葛葉の興味を更に惹いた。
それから暫くは、夢中で舞台を見ていた。
甘くて、蕩けそうな艶のある声。その 誰もを魅了して離さない声で歌を奏で、手先から全てに妖艶さと色気を兼ね備えてふわりふわりと自由に飛ぶように、舞う。
その姿に己の口角が上がっていくのが分かる。
嗚呼、コイツが欲しい。
手に入れて、どこにも飛んで行かないように籠に閉じ込めてしまいたい。
極上の餌を見つけた高揚感からか、思わず舌なめずりをしていた。
「おい、あの服を男用に仕立て直せ。今すぐにだ」
控えさせていた部下に指示を出す。
___さて、どうやって俺のものにするかな。
路地裏には、紅いルビーが爛々と輝いていた。
next → ♡×500
コメント
2件