若井はソファに腰掛けて、何気なくスマホをいじっていた。
そこへ、元貴がふらりとやってくる。どこか所在なげな顔をしていて、
目が合うと、何も言わずに若井の膝の上にそっと座った。
「……どうしたの、元貴」
問いかけに応える代わりに、元貴は静かに頭を預ける。
薄いTシャツ越しに、若井のぬくもりがじんわりと伝わってくるのが心地よくて、
思わず深く息を吐いた。
「……ちょっと、さみしくなっただけ」
ぽつんと落とされたその声は、泣きそうなほどかすれていた。
若井がそっと背中を撫でると、その指先に反応するように元貴の身体が小さく震えた。
それだけでじんわりと、お腹の奥が熱くなる。
喉の奥が詰まる。視線を落としながら、
元貴は若井のシャツの裾をきゅっと握った。
「……なんでもない」
でもその声は、もうちょっと甘えてもいい?って言っているようで。
若井の指先が、ふわりと元貴の髪を撫でた。
──その少し前。
元貴は、スマホの小さな画面を見つめていた。
今までと違って、自分達も有名になりネットも発達して色んな人達に届けれれようなバンドになれた証拠。
こういうのはこれからも着いて回る、はず。
冷たくて、無関心で、誰のためにもならない言葉たち。
「今月の締切出来てる?そろそろだからね」
あ、やばい…
画面を閉じようとしたいのに、指が止められなかった。
胸の奥がきゅうっと締めつけられて、普段はスルー出来ていた誰かの何気ない言葉が刺さって離れなかった。
リビングからは、小さくテレビの音が聞こえる。
ソファには若井がいて、のんびりとスマホを眺めていた。
その姿を見た瞬間、身体が勝手に動いていた。
足音を立てずに歩いていき、そっと膝の上に腰を下ろす。
若井が驚いたように目を瞬いたが、すぐに穏やかに笑った。
その声が、やさしかった。
一気に心の奥がほどけていく。
でも、ほどけたら、涙が出そうで。
「……なんでもない」
そう言いながら、若井の胸元に額を押し当てた。
呼吸が浅くなる。
背中をそっと撫でてくれるその手に、
思わず、ぴくりと反応してしまった。
だめだ。
こんなつもりじゃなかったのに。
ただ、温もりがほしかっただけなのに
「……若井、」
小さな声で名前を呼ぶ。
でも、続く言葉が出てこなかった。
言ったら、終わってしまいそうで。
若井の指先が、髪をふわっと撫でた。
若井の胸元に顔をうずめたまま、元貴は小さく震えていた。
さっきの言葉がまだ喉の奥に引っかかったままで、吐き出せずに、ずっと苦しくて。
若井の手が背中を優しく撫でてくれる。
そのぬくもりが、ますます涙腺を刺激する。
「……元貴、何かあった?」
そう訊かれても、やっぱり答えられなかった。
答えたら、泣いてしまいそうで。
代わりにぐっと顔を上げた。
そして、そっと若井の顔を見つめたまま、
「……キス、してもいい?」
そう囁いた声は、震えていた。
でも、確かに求めていた。
「してほしい」じゃなくて、「自分からしたい」
それくらい、心が飢えていた。
若井が少しだけ驚いたように目を見開く。
でもすぐに、やわらかく頷いた。
次の瞬間、元貴はそっと唇を重ねた。
最初は浅く、ただ触れるだけのキス。
けれど、すぐにその小さな唇が動き出して、
ゆっくりと舌を差し込んだ。
――あぁ、やばい、こんなこと、するつもりじゃなかったのに。
そんな思いが頭をよぎるけど、もう止まらなかった。
舌を絡めながら、呼吸が乱れる。
身体が熱を帯びていくのがわかる。
欲しくてたまらない、でも言えない。
だから、こうやって――キスに全部を込めて、伝えてしまう。
「……んっ、……若井……」
キスの合間に漏れる声が、段々と大きくなる。
唇が離れた瞬間、糸を引くように舌先が名残惜しそうに動いた。
少しだけ開いたままの元貴の口元から、甘く湿った吐息が漏れる。
目の縁は赤く滲んでいて、息も荒い。泣いたあとの子どもみたいだった。
「……元貴、こっち向いて」
若井がそっと抱き寄せると、元貴はただ黙って、頷くかわりに小さく啜り泣いた。
静かな部屋に、くぐもった嗚咽が染み込むように響く。
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、それでも若井の胸元から離れようとしない。
若井はゆっくりと背中を撫で続けた。
何も言わず、ただそこにいてくれるぬくもり。
それが、今の元貴には何より必要だった。
しばらくそうしていたのに。
ふいに、元貴がそっと顔を上げた。
涙と熱に濡れた瞳が、若井を見つめる。
そして、遠慮がちに、でも確かな意志を込めて
若井の手を、そっと取った。
細い指が、若井の手の甲をなぞる。
そのまま、ゆっくりと自分の太ももへと導いていく。
触れてほしい、って言葉にする代わりに、震える手で伝えてくる。
「……ねぇ、もっと..触ってよ」
掠れた声が、喉の奥から洩れた。
若井は一瞬、戸惑った。
でも、繋がれたままの手の温度と、元貴の切なげな目がすべてを語っていた。
「……元貴、」
名を呼ぶ声に、ふるふると細かく肩が揺れる。
そして、元貴はまた一度、若井の胸元に顔を埋めて――
「だめ、我慢できないの……」
絞り出すように吐いたその声は、限界まで抑えていた心の奥からこぼれ落ちた、
本当の“欲しがり”の声だった。
元貴の指先に導かれるまま、若井の手がそっと太ももへと触れる。
服の上からでもわかるほど、火照っている。
ぴくりとわずかに脚が震えた。
「……どうしたの。」
若井の低く優しい声に、元貴は恥ずかしそうに頷く。
耳まで真っ赤になっていて、けれどその目には“もっと欲しい”という光が宿っていた。
「ごめん……ね、っ、なんか、うまく言えなくて……でも……」
「……言わなくていいよ。ちゃんとわかる」
若井は、そっと唇を重ねる。
今度は元貴から舌を差し出した。
少しぎこちなく、でも自分から求めるように、若井の口内を探る。
その動きに、若井は驚いたように目を細め、受け止めながらゆっくりと応える。
優しく太ももに触れた手を、少しずつ滑らせていく。
じんわりと伝わる熱に、元貴の喉がかすかに鳴った。
「……ん……」
わずかに声が漏れる。
それだけで、若井の中の理性が少しずつ溶けていく。
目の前の元貴は、濡れた瞳で見上げながら、
自分からキスを求めてきた――
その唇を、若井は再び塞いだ。
今度は深く、舌を絡めるように。
元貴は一瞬息を飲んだものの、すぐに受け入れ、
舌先で若井の動きをなぞるように応えた。
ぴちゃ、という水音が、薄暗い部屋に微かに響く。
キスだけで、肌が火照っていく。
服越しに触れているだけなのに、下腹部の奥がきゅうっと疼いて、呼吸が乱れた。
若井の指先が、ゆっくりと太ももを撫でる。
その柔らかな動きに、元貴の身体はびくびくと敏感に反応していた。
「……んっ、や…っ」
小さく漏れる声が、リビングの静けさに吸い込まれていく。
ズボンのスウェット越しに触れる熱に、もう思考が曖昧だった。
それでも、若井の顔を見上げて、目を潤ませながら囁いた。
「……やだ、ちゃんと、したい……」
その一言に、若井の手が止まる。
「……ここじゃなくて、ってこと?」
頷く代わりに、元貴は若井の首に腕を回した。
そのまま、そっと身体を預けるように寄りかかる。
震える身体を抱き上げると、元貴は顔をうずめて、耳元でか細く呟いた。
「……ちゃんと、優しくして……」
その声がたまらなく愛おしかった。
――ベッドにゆっくりと下ろすと、元貴は名残惜しそうに若井のシャツを掴んだ。
「離れないで、お願い、もう…やだ……」
涙まじりの声でそう言いながら、脚を絡めてくる。
細くてしなやかな脚が、若井の腰に巻きつくように。
その動きは、無意識なのか、それとも――
「……元貴、ほんとずるいよ、そういうの」
囁きながら、若井はそっとキスを落とす。
唇が、首筋を這い、鎖骨に触れる。
そのたび、元貴の指先はシーツを握りしめ、小さな吐息が零れる。
「やっ…やだ、もう……」
そんな言葉とは裏腹に、絡めた脚はさらに強く、若井を引き寄せていた。
「……もう、お願い……早く、して……」
声が震えていた。
頬を赤く染め、潤んだ瞳で見上げながら、元貴は懇願するように唇を震わせていた。
でも、若井は焦らない。
その声に胸がぎゅっと締めつけられながらも、そっと元貴の腰を撫でる手に力をこめる。
「焦らないで。ちゃんと気持ちよくするから」
「……でも、もう……っ、やだ……」
その言葉とは裏腹に、元貴の太ももはかすかに震えていた。
触れられるたび、身体が反応してしまうことに、自分でも驚いているような、でももう抗えないような――そんな表情。
若井は静かに指先を下着の中へと滑り込ませる。
触れた瞬間、びくん、と元貴の腰が跳ねた。
「……っ、ん……!」
「ちゃんと、力抜いて。……怖くないよ、俺がするから」
声をかけながら、若井は濡れた蕾をそっと撫でるように触れていく。
一度、二度、少しずつ慣らすように撫でていくと、元貴の呼吸が熱を帯びていった。
「や……やだ、変な声出ちゃう……」
「大丈夫、かわいい声。俺しか聞いてないから」
そう囁いて、ゆっくりと指先を押し入れる。
ぬるりと中が迎え入れて、元貴の肩がピクリと揺れる。
「……っ、ん……っ、は……ぁ」
最初の一本に慣れるまで、若井は丁寧に、少しずつ動かす。
くちゅ、と濡れた音が空気の中に混ざっていく。
やがて、二本目。
ぐっと深くまで挿し込まれた瞬間、元貴は声を上げた。
「っ、あ……ん、やっ……そこ、だめっ……!」
「ここ?……気持ちいい?」
「やっ……気持ち、よすぎて……っ、や、だ……!」
涙がぽろぽろと零れていた。
快感と恥ずかしさが混ざって、声にならない声が喉の奥で詰まる。
脚はまた若井の腰に絡みついて、無意識に引き寄せるようにぎゅっと締める。
「……若井、もう……入れて、ほしい……」
懇願の声が、耳にやさしく響いた。
それでも、若井の指はゆっくりと動きを止めて、ふっと額に口づける。
「……よく頑張ったね。ちゃんと、慣れてきた」
その一言に、元貴ははにかむように笑って、でもまた瞳に涙を浮かべる。
元貴の身体をそっと仰向けに寝かせると、若井は上からそっと覆いかぶさる。
まだ呼吸が少し震えている元貴の髪を撫で、優しくキスを落とす。
「……じゃあ、ゆっくり、いくよ」
「……ん、うん……来て……若井……」
ぬるんと音を立てながら、自分の中へ入ってくる感覚に、元貴の喉からかすれた声が漏れた。
最初の侵入に、息を呑んで目を閉じる。
眉を寄せて、小さく呻くように肩を震わせながら――それでも、逃げようとはしなかった。
「……っ、ん……っ、あ……」
「元貴……大丈夫……?」
「うん……怖いけど、……若井が、いいの……っ」
震える声の奥に、確かな欲求があった。
痛みと熱がまざりあって、身体の奥がきゅうっと締め付けてくる。
若井はゆっくりと腰を押し進めるたびに、元貴の額に、頬に、唇を重ねた。
一番深い場所まで届いたとき、元貴は喉を鳴らして泣きそうな声を漏らした。
「っ……ぁ……ん……んんっ、ん、や……」
「無理しなくていいよ、……苦しい?」
「違う……気持ちいい、……すごく……でも、なんか……涙止まんなくて……」
快感と安堵と、さみしさと、愛しさが混ざってあふれ出す。
涙を流しながらも、元貴は腰をそっと持ち上げるようにして、若井を求める。
「……ねぇ、動いて……若井の、ちゃんと感じたいの……」
耳まで赤く染めて、潤んだ目で見上げながらそんなことを言うなんて、
反則すぎて、若井の理性はギリギリだった。
「わかった……じゃあ、ゆっくりいくね」
腰を引いて、またゆっくりと押し込む。
それだけで、元貴は喉を震わせ、つがいのように足を絡めてきた。
「……っあ、そこ……っ、んんっ、もっと……もっとして……」
音が響くたびに、身体が跳ね、肌が擦れ合い、呼吸が重なっていく。
きつく絡みついてくる脚に、抱きしめ返す腕に、
「離れたくない」って気持ちが全部にじんでいた。
ーーー
「んっ……あぁっ……わかい……っ」
目には涙が溢れ、濡れたまつげの間から零れ落ちそうになる。
その表情は、苦しさと快感が入り混じった切なさで満ちていて、呼吸は浅く、胸の鼓動が激しくなった。
「もう、イっちゃう……」
元貴の身体が小さく震え、若井の胸に顔を埋める。
足は若井の腰に絡みつき、まるで溶けるみたいに甘えて、強く求めていた。
「……っ、あ……ああっ……ん……ぁっ!」
熱く深く満たされて、身体の中からじわじわと溢れ出す快感に、元貴は思わず声を震わせる。
震える唇から漏れる細かな吐息は、切なさと愛しさに溶け合っていて、まるで涙のように脆くて温かい。
胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚に耐えながら、まだ若井の身体に絡みつき、呼吸を整えようとする。
「元貴……大好きだよ。ちゃんと繋がってるよ、俺たち」
「ふぅっ..ん、、若井……大好き……大好き、っ」
若井はゆっくりと腰を抜くと、そっと元貴を引き寄せた。
汗ばんだ頬が触れ合い、温もりが身体中にじわじわと広がる。
「大丈夫だよ、離れない」
そっと元貴の髪を撫でながら囁いた。
元貴はまだ涙をこらえきれずに、小さく震えている。
声が震え、切なさが滲み出た。
若井はふっと笑い、元貴の背中を抱きしめながら、
「今日はなんだか甘えん坊さんだね」
涙が零れ落ち、元貴の体が少しずつ力を抜いていく。
若井の胸に顔を埋めて、元貴の呼吸はゆっくりと落ち着き、いつの間にか啜り泣きは止まり、穏やかな寝息に変わっていた。
若井はそのまま動かず、元貴をぎゅっと抱きしめたまま目を閉じる。
「元貴が安心できるなら、俺も幸せだよ」
二人の呼吸がゆっくりと重なり合い、夜の静けさに溶けていった。
コメント
9件
おとかさん久しぶりです💓お話し書いたんですね! 優しい表現で繊細でこういうおはなしメッチャ大好き💙❤️ また読みに来ます こちらにも時々読みにきてね👍
でぇぇ好きです。
わー幸せな空間…… 💙さんの❤️さんを大切にしたい思いが行動で伝わってきます💕