⚠️
・設定等
rt(ヒーロー軸)✖️tt(ヴィラン軸)
若干のvta時代の描写あり
怪我/暴力表現あり
SAN値がお互いに低めです。
普通の価値観とか倫理観とは外れてます。
10000字近くあるのでお時間ある時に。
ジジッ
『緊急、緊急要請。ただちにx区にいるヒーローは駆けつけるよう。繰り返します_____』
「最近物騒な事件おおいね〜」
「せやなぁ…まぁ、いこか」
「……」
「.…?リト?」
「…ぇ、あ……急いでいかねぇとな!」
「……そうやね」
「あんま無理すんなよ?」
「.……わかってる」
ドカンっとあるとあらゆるところで爆発が起き、こざかしーが人を襲い、それは地獄絵図とも言えるぐらいには酷い有様だった。
すでにディティカも揃っており、こちらの戦闘体制は万全だと言うのに、敵は微塵も衰えない。
最近連続的にこの事件が起きており、被害者もおおくヒーローたちも疲労に暮れている。そんなのをお構いなしに敵はただ魂を狩ろうとするばかり。
「あーーーもぅ、…!!ぜんっぜんおわんないんだけど!!!」
「ライ!後ろ!!」
「あいよっと!!!」
「ウェン!ありがとう!」
「これぐらい余裕〜!」
ウェンが大剣を振り回し、ライが残りのこざかしーたちをハンマーでやっつけ、サポートでマナをレイピアで一掃する。
他にも、カゲツと星導と小柳。とチーム体制で戦っており、着々と減ってはいるがこちらの体力も尽きるのも束の間。ほぼ消耗戦と化していた。
周りは火の野原で微かに聞こえる助けを求める声、悲鳴、ヒーローたちの連携をとる合図、ジジッとなるデバイスの機械音。
すべてが恐怖の一部の飾りになり、それはあまりにも敵の思い通りにしか思えなかった。
一方、リトは一人で離れたところに行き、電気を使うので周りに人がいたら少なからともくらってしまう可能性が高い。加えて今回はこんなにも大きい事件。必ず黒幕がいる。
大抵の大事の主犯格は小柳かリトに毎度任されており、経験の長く、尚且つ一度の攻撃性が高い者がとっちめる。今回もそのくだりだ。
タッタッとこの地獄が見渡すことができるところ、きっと今回の黒幕は憶測だがこの絵をみて楽しんでいるハズだろう。
そして、誰かも予想できている。だが、それは違うと自分を洗脳するように語りかけ、なんとかその不安と焦燥感を薙ぎ倒すように保たせていた。
ようやくテッペンが見えてきたところ。そこにはリトが憶測であった、いて欲しくなかった人物がいた。
だがその姿を見た瞬間、今まで失われていた何か。その感情が一気に灯りを灯し、体が熱くなるのがわかる。
「は、っ___________、…テツ、…」
「……おや、……やぁ久しぶりじゃぁないか!」
「リトくん…?笑」
そいつは口角を釣り上げ、ゴーグルの画面にはニコニコとした記号が写されており、その中にある目は何も見えなかった。
ただ、こいつが楽しんでいるのは一目瞭然だった。高揚したような頬、うっとりしたような笑み。それらはテツがあの時していた顔と同じだったから。
「……何、してんだよ」
言葉をポツポツ並べるが、今はそれどころではない。またテツに会えた幸福感と、テツのことを今すぐにでも自分の檻に閉じ込めたいと言う欲に溢れてしまっている。
「なんで、こんなことすんだよ」
表上では、ヒーローらしく。長年やってきたヒーローの経験と、アカデミー時代に習った演技力でなんとか取り繕う。
「…それ前も言ってたよね…??てか俺この前言ったろ?…忘れん坊かい?リト坊」
「っ、…ぉれは…お前を殺したくない、…。」
嘘だ、本当はこいつを殺してどんな顔をするか、どんな声をあげるか、みたい、すごく見たい。テツの全てを知り尽くしたい、知り尽くして骨の髄まで完璧にお前のことを理解して、それを俺だけのものにしたい、なんて言えば俺はテツにひかれるかな。いや、そもそも人間じゃあないかもな。
「.…っ、ぶ、っ.……く、はっ、…ははははッッ、…ははっ…はぁーーーー……」
「…ッ、?…なにわらって、」
愉快そうに肩をカタカタ上下に揺らし、大きく口を開き鋭い八重歯と、紅い口内を見せるように笑う。声が大きく、でもそれでいてすごく愛おしくかわいい声。俺にはそう聞こえてしまうのだ。
「いやぁ…君はいつまでもおもしろくて滑稽なままでいてくれてるとは!!」
「最高だよリトくん……!!!」
「…」
どうやら気づいてないのか。俺の恋心に。こいつは。俺がどれだけお前のことが好きか、どんだけお前を思って生きてきたか。まぁいい、そのうち俺が捕まえて俺のことしか見られなくなるようにするだけだし。
「ねぇ、君は俺を殺さなきゃいけないだろう?じゃないと……君のその麒麟児の肩書がガタ落ち、仲間との築き上げた信頼は0…あ、いやちがうか君の仲間の場合…同情か」
「ぃやぁ…大変いい友情だ!!なんてあまりにも素晴らしく、美しく、惨めなんだろうねぇ……」
なんともまぁ非人道的なことばをつらつらとならべる。ヴィランだからこんなもんなのかと思うが、コイツの場合狂気がそこらの奴らなんかよりも狂っており、もはや人間の思考をどこかに捨ててきたらしい。
______________あぁ、俺ならそれすらも受け止めてやれると言うのに。
そんな気持ちを心のうちで留め、なるべくヒーロー、または元友人との最悪の決別のような映画のワンシーンのように、テツの中での最高で完璧な俺を振るまう。
「テツ、…?」
「ほら、リトくん」
近づいて何かと思えば自身のナイフを俺に持たせてきた。まさか、____気づいてしまえば俺はこいつをすぐにでも殺してしまうだろう。
気づかないように、気づかれないように、なるべく声を荒くし、汗も、テツに縋るように演技をする。
「っ、…?!なんで、ナイフなんか、」
そういうとテツは熱い視線をこちらに送り、流し目で俺のことをちらりと見る。艶めかしい声に、顔に、肌に、全てが反応してしまう。細胞の底から歓喜が叫び出しそうなくらいだ。
「ちゃんと教えてあげるから.…心配いらないよ」
俺の手にナイフを持たせてその上からテツのグローブをつけた黒い手がこちらに重ねてくる。やばい、今すごい顔してないか俺、ちゃんて演技できてる…?と思うほど、内心はとても興奮しており今までにないくらいに幸せに満ちている。
今すぐこいつの薄くて、白く、ゴツゴツして、ナカはあったかくすべてをも包み込んでくれるようなあの紅い腸や、臓器が全てつまっている腹。あの愛おしいナカを掻き出してすべてを見たい、五臓六腑見落とすことなくこの目に焼き付けたかった。
「な、ぃ、いやなんなんだよ、…いやだってば、」
口角が自然と上がってしまい口で途端に隠し、なんとか演技を通し切る。やばい、心臓がどくどくうるさい、耳元でなっているかのようだ。それでもテツの手は止まらず俺の手をいじったりナイフの切れ味を確認するかのような仕草を続ける。
俺、今からテツを殺すんだ。
その実感がやっと湧いてきた可能で、夢のような心地に浸かる。やばい、俺今日命日かな。
「いや、……ふぅん、まだまだお子様だなぁ……君はそう言うところ大人になった方がいいよ?」
そうやって俺を諭すように、それでいてもそのチャームポイントと言える笑顔の形を保つ口は妖艶に、怪しげに嗤っている。
最高だ、ほんとうに夢なのだろうか。
「ちょ、…っ、まじ、やめろ、!!」
演技をほったらかすところだったが、俺の冷静な部分は意外にも生き残っておりなんとかヒーローとしての、人間としての宇佐美リトを演じきっている。
正直、今すぐにでも理性というダムは今にも決壊しそうだが。
「そ、ちゃんと握ってて.…そうそう、…んふ、…笑」
「ほら、笑って?笑っておけば少しは君の善良な心を保ちながら、罪は軽くなるはず。違うかい?」
「なら、笑ってごらんよ。…少しだけ、僕の悪戯に付き合ってくれ」
優しげに微笑むと、テツが少し俺から離れ己の腹をナイフの刃をめがけて貫通するように穿ってきた。
「えぃっ!」
「ひゅ、っ_____」
ザシュッッと奥までザクリとテツの腹に勢いよく刺さったナイフからはテツの鮮血が勢いよく流れていき、テツの白いコスチュームがどんどん赤に染まっていく。
ナイフ越しから伝わるのはテツのナカの柔らかさや血、血管のようなものを千切る音、またその感触。五感を伝って全て感じる。
_______やっべぇ、……すげぇしあわせ………
もう一度刺してしまおうかとも思考がよぎったがそこまで悪趣味な部分は出せないのでその実感をじわりじわりと惜しむことなく浸っていると、テツがまた後ろに倒れ込むかのように一気に腹から刺し抜いた。
その瞬間テツの腹から出血大サービスが起き、俺の顔やヒーローコスチュームにかかりテツの生ぬるい温度が全身を包み込む。
「ッ゛っ、……ごほ、ッ…….…っっぁーーー…゛」
ドサっと勢いよく倒れたテツは口からもその愛おしい血が流れ出ており、アメジストにひかる目はもう焦点を定めてはいないよだった。俺はそのテツを見て身動きが取れなくなった。生唾をごきゅっと音を立てて飲み込むのがわかる。
_____美しい、そう思ってしまった。
慌てて我に帰り、テツに身を寄せ、その薄い体を抱き寄せる。
まさに親愛なる人を無くすように。大事に大事に、………俺の場合はまた違う意味で大事に。
「て、てつ、…テツ、テツ…っ、…?!?!」
必死に声をかけるもテツの体温はどんどん冷たくなっていき、息も荒くなっていった。
一方で血は流れ続けテツと俺の周りにはテツの鮮血で美しく、彼岸花が咲き誇るように染まっていく。それはもはや芸術品のように美しいモノだった。
「ん、…ふふ……愛してるぜ、くそったれなマイハニー…」
小悪魔のようにニヤと口角をあげ、俺に皮肉を込めたのだろう。そういい意識を手放した。
「っ、……」
普通このタイミングなら普通の人間なら涙をボロボロ流し、顔が枯れてしまうのではないかと思うぐらいにはびしゃびしゃに濡らして泣き叫ぶか、またはその人に対しての生を、いるはずもない神に縋る、その二択がご定番のものだ。
だが俺はちがった。そのテツを笑ってしまった。それはもう人生で1番、どひきり嬉しそうで、なんとも多幸感に満ち溢れてますよと言わんばかりの顔で。
俺は見逃さなかった、最期まで。多分、俺がとんでもないぐらいな笑顔に驚いたんだろう。一度少しだけ目を見開き、静かにそのいいたげなアメジストを閉じた。
でも俺は知ってる、こいつがまだ生きれることを。こいつは生に執着する。だからなのかそれが理由でなのかもさっぱり知らんが、残機があるらしい。
すなわちもう一度蘇れるとのこと。そんなの…俺にとって利点しかない。まぁあまり人を殺す趣味はないが、でも度がすぎた俺のキュートアグレッションは働いてしまい、テツを、テツの身体すべてを欲しがってしまう。
テツのナイフをもう一度刺そうとした時だった。
テツの体からは煙が出て、サラサラと今までのが幻覚だったものかのように消えていく。多分これがテツが生き返る工程の一部なのだろう。
死んで少し経った頃、新しい肉体を生成するためにもう使い切った肉体は破棄となるため煙となって空へ帰る。その魂はどうなるかは…見てからのお楽しみだな。こういう理屈なのだろう。ほんと、人間の範疇をとびきり超えやがって。
なぉんとその煙は猫の形になり、まるでテツがつけていたゴーグルやベルトをつけている。これがテツの残機というやつなのか。こいつはそもそも物理的に存在しているのか。多分体のみを削除し、魂だけは存在しそれを猫と化したものをがテツのまた新たなる命になる。そういうことなのか。
すると、残機がたったったっと走っていき、それを追いかける。くそ、もうちょっと蘇生が遅ければ…なんて最悪な考えもするがやめておこう。それより、どのようにして蘇るのか気になる。ある意味これもヒーロー活動としては完璧だろう。摩訶不思議な相手の一部を調査してるし。
先ほどの町を見下ろせるような景色とはいっぺん代わり、海が見える閑寂とした静かなところについた。残機がまたなぉんと鳴き走っていく。こいつ、煙のくせに消えねぇのすげぇな。物理のくそもねぇ。
すると同じような猫が八匹ほどおる場所に辿り着いた。俺が追いかけていた猫は我が家下のようにそいつらに駆け寄りなぉんとしゃべりかけてるいるかのようだった。
しゃがみ込んでそいつらと視線を合わせるとじとりと見つめられ警戒心が一向に解けない。触れるのだろうかと手を伸ばせばもちろんのごとく俊敏な動きで避けられる。かわいいもの好きなのにな。
「なぁ 〜 …お前らの飼い主サマどこにいんの?」
「ここだよ」
ため息をつきながら猫たちと視線を合わせていると後ろから低くて聴き心地の良い声が聞こえてきた。
振り返れば凛とした雰囲気を醸し出すテツがその形を保っており、またその沈黙は海の波で消し去られた。
「…テツ」
昔のように呼び、近づこうとした。
「お前………もとからこうするつもりだったな」
ドキッと心臓が跳ね上がり、テツの持っていたナイフが俺の首にツーーッ…と当てられる。一歩でも動いたらその首を抉られるだろう。まぁでもテツにやられるんだったら万々歳だが。
テツはその綺麗な柳顔を凄むくらいに形を歪めて、それでいても笑顔は崩さず、その瞳の奥にはメラメラと怒りが今にも沸騰しそうだ。
「…震えてるよ」
あまりのテツの殺気と狂気、またテツが生きている嬉しみとその欲に抗うように働く理性、全てがぐちゃぐちゃになって身体はまともに自分の思考どうりには動いてくれない。
その間もテツはゴーグルでニコニコして、笑い声は耳によく通り自分をより高めてしまう余計なノイズになる。
それでも、まだヒーローであるためまだ、まだ演じる。もしこれをテツにバレてしまったら、いやバレているのだろうけど。
こいつなら世界に報道することも目に見える、その途端俺はテツに縋るか、一人孤独に生きていくことになる。だったら今のようにテツの玩具にされているほうがよっぽどましだ。
「……なぁ、て____」
「もう演技はいいよ、疲れただろう?君も」
「っ、____」
やはり、バレていた。テツはよく俺のことを理解しており、なんなら同期の誰よりも1番の理解者だと思っていたから。己でもそう思うぐらい、鉄の洞察力は高く、また俺への執着も垣間見えていた。
また沈黙が続く。海の波もほぼ聞こえないぐらいに静かになり、まるで今存在しているのが俺とテツ、二人だけの世界のように感じた。
「……君の恋心には気づいていたよ。昔っからね?」
俺より身長の低いテツは少し傾いて俺を覗き込むように俺の視線を受け止める。恍惚の表情を曇らせると、ぽつりと告ぎはじめた。
「それで………なんでこんなことするのかってだっけ」
「ホントウはね……_____」
テツが一歩、一歩、50センチ、30センチ、1センチ…ジリジリと近づいてき、俺の頬を1番大事な玩具を愛でるようにすりっと撫で、存外心地良さそうな笑顔で
「見たかったんだよ、君がどこまで俺を欲しがるか。どこまで己を壊せるか……ね」
テツの顔が己の鼻とぶつかるぐらいに近くなり、唇にちゅっと今の状況とは似合わないかわいい音が鳴った。
「っ、?!?!」
「ん、…はは、なんて面してんの君…笑」
「君は存分に面白いものを見してくれた、本当に感謝するよ!退屈な人生が明るくなった、流石太陽だ」
太陽、なんて自分にはそぐわない言葉を言われて顔を顰めるが、それ以上にテツが俺のことを褒めてくれるのが嬉しかった。ましてや俺のおかげでこいつの人生を彩ってやれた。その事実が嬉しくてその細い腰に腕を巻きつけた。
どうしても、そうでもしないとまた、もう2度と会えない気がして。
「…ちょっと、触れていいなんて一言もいってな、_____」
テツの後頭部を掴み、また自身の唇へとくっつける。テツは精一杯の力で俺のことを離そうとするが、そんなものは俺にとっては少しの刺激。なんならより気が昂ってしまう。
薄い唇を喰むようにくっつけたり、すこし甘噛みしてその感触を楽しんだり。テツってこんなに柔らかいんだと思うとより腹の奥が唸る。
テツの唇を舐めるとびくっと跳ね上がり、次こそはやめろと言わんばかり睨みつけられたが関係ない。
そうして、無理やり開けたテツの口内はあまりにも熱くて、甘かった。そこには甘美に溢れていて、キラキラと光る歯や、赤く、熟れている薄くて短い舌。俺の脳内ではすべて誘惑に変換され、もうすでにテツの口内を自分の舌で弄んでいた。
「ん、…っ、はん、ぅ………ン、んっ….…♡♡♡」
「は、……ん、フ、…」
気持ちいいのか、どんどんテツの足が力が抜けていき、体制が崩れそうになったのを咄嗟に自分の腕で支える。
そろそろ息が続かなくなったのか、だんだん顔が赤くなっていき、目には涙がたまっていてそれがどうにもうまそうで、可哀想で。テツの全てが見たくなった。
すると、腹部にズキズキと鋭い痛みが走った。途端に全身の力が抜けて、テツがバッと俺から距離をとった。
テツの右手には自身のナイフが持たれていて、そこには血がポタポタと先端を辿って落ちていた。
テツはとてつもなく顔を歪めていて、俺を心底嫌ったような表情をしていた。こんなことをされても愛おしいと思えるのは俺だけだろうか。
「君には絶望したよ。もう2度とそのひどい面を見せないでくれ」
キッパリと言われ、嫌われたことを実感する。不思議と嫌な気はしなかった。
「そろそろ君のお仲間サンたちも戻る頃だろう。その前に帰らせてもらうよ」
遠くからマナとウェンの声がかすかに聞こえてくる。テツのその判断力は黒豹と言われるだけの野生の感なのか、どこまで俺らの作戦を知ってるのか。多分全部筒抜けなんだろうけど。
「テツ」
「…何」
そっけない、でもそんなとこもかわいい。黒豹ではなく、黒猫にした方がよっぽど似合う。首輪にオレンジ色のをつけてやったらどれだけかわいいことか。
「愛してる」
やっと言えた。こんな状況で決して言う言葉ではないが、不思議と口からでてしまった。
「は、そりゃど ー も。そんじゃ」
また素っ気なく、淡白な返事をされ、テツは残機猫を率いり、背筋を立てて気品のあるような佇まいをした。
「さよーなら、哀れな麒麟児」
最後にそう言われ、テツは煙となりどこかへ消えてしまった。そんな能力もあるのかと感心していると、急に先程までそう感じなかった腹の痛みが全身へと走った。
どうやら致命傷はギリギリのところで避けているらしい。多分これもテツの優しさか、残酷さだろう。
マナとウェンがこちらへ急いで駆けつけ、二人とも目から涙が溢れていた。
「何してんねん、こんのドアホぉ…!!!」
「ほんっとぉに、…通信をできない挙句、急に消えて…バカじゃないの?!」
「は、、…ごめんって、…」
力無く笑うと二人は眉をハの字にかえて苦笑していた。
「致命傷、…じゃなさそうやな。こっちに援護班呼んでるから、その間は我慢しいや」
「ん、ありがと」
「まったくだよ、ねぇマナ?」
「んまぁ…傷治ったら説教やな」
「はっ、嫌すぎる……」
マナとウェンに傷の止血や応急処置をしてもらい、一旦は死から遠ざけられた。
傷を見ると、鮮血にあたりは染まっており、本当に綺麗に致命傷を避けたなと思う。あいつの刺した時の顔が今にも思い浮かぶ、憎悪なのか昂揚なのか、はたまた愛情なのか。
俺は今のテツのことをまったく知らないし、全然理解もできない。けど、テツにとってのも俺も同じだ。それを思うとなんだか心が温かくなり、自然と口角が上がる。
傷を見るたびに、テツの顔が思い浮かぶ。そのことが嬉しくて、テツに呪いをかけられたようで。とにかく、テツがつけた傷ができたことが嬉しかった。
逆にテツはナイフを持つたびに、刺すたびに、触れるたびに俺のことを思い出す。いやでも彼は絶対的悪。ナイフをまた握る日はさほど遠くない。
そう思うとマーキングみたいで、それもそれで興奮する。
傷を撫でるとウェンからは引かれたけど、これは俺とテツだけの話。二人だけの世界。特別な証。
きっと、なかなか深い傷だから、古傷としてこの体に一生残るだろう。
「は、……さいこうじゃん」
「…リトお前頭打ったんか????」
「お?なんだ??大剣でぶっ叩く???」
「やめろ、死ぬわ」
はっ、はっ、と自分の走る声が聞こえる。息が続かなくて、苦しくて、でも胸は一生ドキドキと耳元でなってうるさくて。
体の全てがしっちゃかめっちゃかになって、もうわけがわからない。
なんとか震える手でライターとタバコを取り出し、やっと口に咥えて、煙を肺に取り込み、口から吐き出す。
いつもやっている仕草なのに、何故か違和感がある。どうにも口が熱い、腹の奥がかゆい。耳の奥がムズムズする。腰あたりに何かまだ巻きついているような変な感覚。
「っ、……なんなんだよ、」
あいつだ、あいつのせいだ。あいつに口を好き勝手されて、あいつが耳元であんな息を荒くして、あの太い腕で俺の腰に抱きついてきて。
全部、全部あいつのせいだ。なぜ、何故俺がこんなにも取り乱すことがある?あいつに執着しているのはあいつの正義に惹かれただけ。
あの正義をどん底に落としたかっただけだ。それなのに、それなのに…
ぐるぐると思考がまわり、めまいを起こしそうになる。ドサっと草原に倒れ込むと、空にたくさんの星が輝いていた。
なんでそんなに眩しい?なんでそんなに輝く必要がある?夜だろう。暗いのが当たり前だ、なぜ、なぜそこに光が差し込む必要がある?
あいつだって、あいつだってそうだ。あの正義とあいつの眩しさ。僕の悪と暗闇。そこにあいつが邪魔をしてきた。
あのとろんとした蜂蜜のような目、爽やかなオレンジと色素の薄い水色のふわふわの太陽の匂いがする髪の毛、逞しくそれは正義を象徴する恵まれた体格。
いやで脳裏に焼きつき、いやでも思い出してしまう。
不思議と、また唇をふにふにと触っていた。
あぁもう!この手を切り落としてやろうか!
「っ 〜 〜 〜 〜 ……!!!く、そ.……ッ.…」
顔が赤い、目頭に熱が集まる。耳まで赤いのではないか。考えても考えても、あの顔と声と匂いが思い出させる。最悪だ、あーーもう…最悪だ。今日は死ぬほど嫌な一日だ。
どうやら僕はいつまでもあの太陽に勝てる日は来ないのかもしれない。
コメント
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そういうことでしたら安心しました。 いつも素晴らしき作品をありがとうございます。今後も応援しております。

もしや支部の方にも投稿なさってます?同じものを先ほど見かけた気がしまして…