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魔法の小瓶

18 - 第18話 「『貴方が忘れたもの』」

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2024年11月25日

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あの子は家の地下に繋がれた。

湿った石と、カビの生えた食べ物を投げつけられる悲惨な生活だと女中が噂話しているのを聞いた。


「…私のせいだわ」


あの子がどうやって人攫い達を殺したのかはわからなかったけれど、きっと普通の人とは違う何かを持っていたのだ。

そしてその平穏を壊すきっかけは私にあった。


…せめてもの償いとして。

…あの子をここから逃がしてあげよう。


「…食事、それから…お金も持たせないと、服もきっとボロボロで寒いわ……」


今度こそ惑わされない。

今度こそ…


「裏切ったりしない…約束するわ……」


滲む視界の中、私は地下への道を辿った。

蝋燭の僅かな光を頼りに進むと、正面に頑丈な鉄格子が見えた。


「!」

「オネェ、チャン……?」


私に気が付いたのか、ゆるゆると顔を上げたあの子は心身ともに疲弊していた。

食事に何か盛られていたのか、声はカタコトで体も痩せ細っている。


それでもやはり美しく思えるのは、あの子が持つ何かが影響しているのか…


「ごめんなさい、もう貴方を裏切ったりしないわ…約束する……」

「…ウ、ンッ」


ポロポロと泣きながら頷いたあの子と、鉄格子を挟んで手を取り合う。

涙を拭って、外套の内側に縫い付けた物入れから鍵束を取り出した。


「あの男の書斎から盗ってきたの、あの女は書斎に行くことなんて滅多にないから、今日中にバレることはきっとないわ」


一つ一つ鍵穴に合わせて、数を絞っていく。

途方もなく長い時間に感じたのは、きっとあの子も同じだったと思う。


あと五つ……

あと四つ…

あと三…


鍵が残り二つとなった時だった。

不意に、胸の真ん中が焼けるように熱くなった。


「…ゴプッ………ッ?」

「オネェチャン…!!!」


口から赤い液体が滴り落ちる。

ズルズルと体から抜けていくそれは、蝋燭のほのかな光でもキラリと白銀の光を放った。


「お前がこの悪魔に魅入られているのは知っていたよ、だからこの銀のレイピアを特注で買いに王都へ向かっていたのさ」


ズルリと刀身が体から抜けた瞬間に頭の中に火花が散った。


「ぃ”、ぁあぁぁああ”あ”あ”……!!」

「オネェチャン!!…オトウサ、オ願イ!ヤメテ!!」


胸を押さえて絶叫する私を見下ろす男の顔は冷たかった。


いつのまに…いや、最初から潜んでいたの?

そんなの今はどうでもいい、とにかく手を動かすの。


「全部お前のせいだ!!お前さえ生まれてこなければッ!!」

「ハァッ…ハァッ……」


男の言葉に目を見開き、服の裾を握りしめて苦しんでいるあの子へ震える手を伸ばした。


「だい、じょーぶ…あなた、は……わた、の……じまんの、おとー、と…よ」


最後に合わせていた鍵が回って、錠が外れた軽い音と共に鉄格子が開く。

どんどん目の前が真っ暗になって、あの子の表情も見えなくなっていく。



「……絶対ニ、助ケルヨ」


優しく力強い言葉にもう大丈だと体の力を抜いた。




この優しい弟がいつか過去の痛みと向き合う時…その時に、優しい誰かがこの子に寄り添ってくれますように。


私の、最期の願いだった。





怒りでいっぱいになった。

目の前が真っ黒に塗りつぶされて、命をただただ目の前から消していった。

優しいあの人が助けてくれた命を無駄にはしない。


「…大丈夫」


絶対に、助けられる。

俺には普通じゃない力があるから。


昔から可笑しいと思っていた。

自然物は全て俺の所有物だった。

その気になれば大洪水や土砂崩れだって起こせた。


喋るのは好きじゃなかった。

だからすぐに気味悪がられた。

皆んな離れていった。


困りはしなかった。

でもすぐに孤独を感じた。


そんな時、カノジョがやってきた。

明るい、太陽みたいな人だった。

コスモスの花が咲いたみたいに笑うカノジョの笑顔に、心がポカポカと暖かくなった。


そんなカノジョが、俺を見て怯えた。

力を使って、他者を殺めたから。


父は激怒し、母は異端児として俺を憎んだ。


地下に繋がれ、毒を与えられた。

苦しかった。助けて欲しいと願った。

カノジョが来てくれた。

“助ける”と言った。


そんなカノジョが殺された。


人の魂は、器に一つしか宿らない。

魂が空へ流れてしまったら、カノジョとは二度と会うことができない、話すことができない。


だから、自分の器にカノジョの魂を宿らせることにした。


魂を宿らせるには血が繋がっていないといけない。

体格も似ていないといけない。

この術は制約が多いけど、一番安全な方法。


「ン…グ、ヴ……ヴッ…!」


器にヒビが入るような音が聞こえてもやめなかった。

いつか、カノジョに笑って言いたいのだ。


貴方に助けられた私は、昔よりもさらに自慢できる良い弟になりました、と。





暖かい場所へ落とされた。


現実と夢の狭間のような場所。

あの子の体験した出来事を私も一緒に体験した。


泣くのも、笑うのも。

喜ぶのも、悲しむのも。


悲しみのあまり心が壊れそうになった時は、私が代わりとなってその痛みを受け入れた。


仲間に裏切られて殺されかけた時。

野党に襲われて友人を亡くした時。

人間に襲われて人外の大きな友人が怪我を負った時。


そうじゃないと器が壊れて、私だけじゃなくあの子の魂までもが空へ流れてしまうから。


あの子と私が同じ器に宿ってから、あの子は力を…魔法を使えなくなった。


使い方を、忘れてしまった。


目の前の小瓶の中に、いくつものひし形の結晶が貯まっている。

優しい光を放つものもあれば、酷く濁った恐ろしい光を放つものもある。


全部、私が宿った反動によって忘れらてしまった小さな記憶と知識と経験のカケラ。


いつか、全てをあの子に返したい。


今回の事は、臆病な自分を吹っ切るのには良いタイミングだった。


ここのところ、器がこれ以上は保たないと警鐘を鳴らしている…だから、もうあの子の側に居ることは出来ない。



貴方が頑張っている事は知ってるよ。

自信を持って、胸を張って生きてね…みどり。




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