テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
数日前に、アザミからメッセージが届いた。
〖兄がミアレに来てるから、少し話そう〗
アザミ曰く、施設のことを事細かに知っている為兄なのは間違いないという
ただ、自分の判断だけではなんとも言えないところもあるため、兄妹だけで話し合いたい
──そう書いてあった。
『兄なんか生きてたの…?それ本物…?
いやでも、アザミが言うってことは本物なのかな……』
シオンはスマホの画面を見つめながら、胸の内で呟いた。
兄や姉たちと会ったのは、数回だけ。顔もぼんやりとしか覚えていない。
私たちとは違う部屋に隔離されていたし、何より上の兄妹たちは全員、死んだものだと信じていた。
生きているなんて、思いも寄らなかった。
それでも、兄妹という響きだけで、ほんの少し、温かなものが胸に広がる。どんな人だろう。
きっと実験のせいで、ホーズキのように感情が枯れ果てているはずなのに……それでも、気になって仕方がなかった。
───待ち合わせは、ミアレの小さなカフェの個室だった。
シオンがドアを開けると、既にアザミとホーズキが向かい合って座っていた。アザミの隣に、シオンもそっと腰を下ろす。
『アザミ、仕事は大丈夫?』
「うん。ジプソさんが『兄妹の時間は必要』って言ってくれて」
『へー! 良かったじゃん!!……ちなみに、カラスバさんは?』
あれから、カラスバはたまに帰ってくるものの、夜遅くに帰宅しては早朝に出かけてしまう。ほとんど顔を合わせていない。
「ずーーっとパソコンと向き合ってるよ」
『えー……ちゃんと休むように言ってね』
「言ってるんだけどね。『早く終わらせて姉さんとの時間を作る』って聞かなくて」
『!そうなんだ……』
その言葉に、シオンの胸が小さく高鳴った。
あんなに冷たく突き放すようなことを言っていたのに、本当は一緒にいたいと思ってくれているんだ──。
ほっと胸を撫で下ろすシオン。
それからアザミと少し話し込んでいると、カランカラン……と小さな鈴の音が響いた。
「あ、来た」
『!』
三人の視線が、一斉にドアへ向く。
特にシオンとホーズキは初めて会う相手に、好奇心を隠せずに見つめた。
───ガチャッ。
「ごめん、迷子になっちゃって〜!!」
「だと思ったよ。タクシー使いなよ」
「お金ないもん〜!」
アザミに突っ込まれ、アンヴィはえんえん、と大げさに嘘泣きのような仕草をする。
実験の影響で感情が死んでいるはず──そう思っていたシオンは、思わず口をぽかんと開けたまま、男を見つめていた。
そんなシオンに気づいたアンヴィの目が、さらに大きく見開かれる。
「えっ!?髪色紫じゃん!?染めたの!?」
「姉さんは染めてるよ。意外だったの?」
「てっきりアザミちゃんと同じ髪色だと思ってたからさ〜……でも、すっごく可愛いね!」
そう言うなり、アンヴィはホーズキの頭を優しく撫でた後、シオンの手を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
『きゃっ!?』
「ずーーーっと会いたかったんだ。会えて嬉しいよ」
『ちょっ!? は、離れて!!』
慌てて離れ、アザミの元へ逃げるように戻るシオン。
アンヴィはきょとんとして、
「あれ、距離感ミスったかなー?」
と、悪びれずに笑った。
「まさか兄妹に会えるなんて思わなかったよ!」
「アンタ、ほんと元気ね」
コーヒーを啜りながら、人懐っこい笑みを浮かべるアンヴィ。アザミは冷ややかに見つめつつも、どこか楽しげに口元を緩めている。
『アンヴィ兄さんって呼んだらいいのかな?』
「今更兄さんって呼ばれるのもあれだし、アンヴィでいいよっ!」
話せば話すほど、明るくて無邪気だ。
でも、施設を出ているということは、私たちと同じく暗殺者として数年を過ごしてきたということ──
その話題だけは、誰も触れようとしなかった。
いや、触れたくなかった、が正しいのかもしれない。
ぴかわど
258
217
360
「皆、ミアレにずっと居るつもりなの? イッシュには帰らないの?」
「私は分かんないけど、少なくとも姉さんはミアレに残るでしょ」
『うーん、そうだね〜……ミアレが好きだし、何よりカラスバさんのこともあるしね』
「カラスバ?」
その名前に、アンヴィの眉が小さく動いた。
「姉さんの彼氏。因みに私はその人の下で働いてる」
「……へぇ〜……彼氏かァ。まぁそりゃ、彼氏のひとりやふたりいる年頃だもんね!」
アンヴィは笑みを崩さずに続ける。
「僕も会ってみたいなぁ〜!」
「あの人は今忙しいし、また今度ね」
「へー、忙しい人なんだね〜」
その言葉に、シオンの胸が少し痛んだ。
『(……やっぱ忙しいんだな、カラスバさん)』
「………」
視線を落とし、落ち込むシオンを、アンヴィは横目で静かに見つめていた。
「今日はありがとー! また兄妹で集まろうよ!! 今までこんなこと出来なかったでしょ?」
「まぁ悪くなかったしいいよ」
『(元気な人だな……アザミもそれなりに心開いてるし……)』
アザミは仕事があるからと先に帰り、ホーズキもそれに続く。
『私もそろそろ帰らないとな……』
「えっ? もう帰っちゃうの?」
『ポケモンたちお留守番させてるし……カラスバさん帰ってくるかもしれないから』
「同棲中なんだ」
『うん、まぁ最近帰ってこないけどー』
にへっ、と笑いながら、スマホロトムでメモ帳を開き、今日の晩御飯の具材を眺めるシオン。
「帰ってこないのはやっぱ仕事で?」
『うん。忙しい人だから仕方ないよ〜』
アンヴィの眉が、わずかに吊り上がる。
「…こういう時こそ、お兄ちゃんの出番って訳か! 待ってて! 一発絞めてくる!!」
『いや待って待って待って!!』
今にも駆け出さんばかりのアンヴィを、慌てて引き止める。
『大丈夫だから! とりあえず変なことはしないで』
「え〜……まぁ、シオンちゃんがそういうなら……けど寂しくない?一人ってしんどいでしょ」
ポンポン、と優しく頭を撫でられる。
『大丈夫、相手は私のこと絶対好きだし!』
「ぷはっ、そっか。それなら安心だね」
笑うアンヴィの表情が、すぐに少し眉を下げて柔らかくなる。
「無理はしちゃだめだよ。辛くなったらいつでも頼ってね」
その言葉に、初めて「兄」というものを感じた。兄がいれば、こんな感じなんだろうか──少し、心強い。
『そろそろ帰るね。ポケモンたち家で待ってるから』
「うん、気をつけてねー」
手を振り、店を出るシオン。
彼女の姿が見えなくなると、アンヴィはゆっくりと手を下ろし、ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「……やっぱ、覚えてないか」
まぁ、仕方がない。大事なのはこれからだ。
にしても、まさか彼氏がいるなんて。
髪を染めているのも、その彼氏に合わせたものだったり?
「お兄ちゃん、妬けちゃうなぁ〜……」
小さく呟きながら、ミアレの街を歩く。
『(……まぁ、それくらいどうとでもなるか)』
そう思いながら、ゆっくりと路地裏の闇へ姿を消した。
コメント
2件