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柔太朗をといる仁人が心底嫌いだ。
俺を見つめる目とは毛色が違うからだ。
楽しそうにうわずった声が耳障りだからだ。
俺がいないと何も出来ないくせに、偉そうに愛嬌を撒き散らしている。
俺だけに見せればそれだけでいいのに。俺だけが、この器を汚していいのに。
仁人は俺に抱かれに、毎週馬鹿みたいに時間通りに家に来る。
玄関を開けて、目も合わせずに「勝手に入れば」とだけ告げて背を向けても、こいつはキラキラした目で俺の後ろをついてくる。
単純で、馬鹿で、どうせ、俺のことが好きなんだろ。
なのに。
「あのね、はやとくん。今日ね、柔太朗から聞いたんだけどね……」
今 お前が口にしてる名前は、今1番心の底から聞きたくない名前だよ。
イラつく。お前のくせに。
「きもちわりぃ…」
「え、…?はやとく、…ごめん、なさい…」
俺の名前を呼ぼうとした仁人が、俺の表情に気づいたのか、途端に俯いて謝り始めた。
どうせ、何に怒ってるかも、自分が何をしたのかもわかってないだろうな。俺の機嫌ばっかり伺いやがって。ごめんなさいっていえばいいと思ってる。
イライラする。誰にでもしっぽ振りやがって。
無性に胸が焼け付くように苦しくなって、言葉よりも先に手が動いた。
「…っえ」
乾いた音が、静かなリビングに響き渡る。
衝撃で、仁人の顔が大きく横に流れる。 ビンタされたことが理解できないのか、仁人は頬を押さえたまま、呆然と床を見つめて固まっていた。
「い、たい、ごめ、んなさい、はやとくん、はやとくん」
「俺の前で他の男の名前出すんじゃねえよ。」
俺がどんなにこの体を蹂躙し、恐怖を刻みつけても、仁人の心の奥底にある純粋な気持ちだけは、俺の手には入らないんじゃないか。
いつかその光に導かれるように、こいつは俺の腕をすり抜けて、あいつの方へ行ってしまうんじゃないか。
仁人の目にはみるみるうちに涙が溜まって、呼吸を忘れたかのように蒼白な表情で俺を見あげている。
そんな顔が可愛くて、自分の中の加虐性と、仁人への苛立ちが自分を突き動かしているのを感じた。
「脱いで。」
この時間だけ。仁人を抱いている時間だけが、俺ものだって認識できるから。
予想以上に無機質な声がリビングに響く。
「ぁ、え 」
怯えきった顔には薄らと涙が浮かんで、シャツのボタンを外すのもままならないほどに、手はふるふると震えている。
「ごめ、なさい……はやとく…、もう、しないから、……おこらないで…っ」
わかってない。
仁人は縋るように俺の足元に抱きついて、子供みたいに泣きじゃくっている。俺は突き放すふりをして、そのまま強引にベッドへ引きずり上げた。
「ひ、っ…!……やぁ、だ!…はやとくん!」
今の俺が口を開けば、出てくるのはきっと、情けないほどに震えた「行かないで」という懇願だけだ。
それが自分でも反吐が出るほど理解できているから、俺は黙り込むしかない。
「…なんっで、なんで!」
うるさいから首を後ろから掴んでキスした。
「……ぅ、ぁう…ぅ…」
仁人は苦しそうに眉をひそめていて、少しの隙間から舌を入れた瞬間、表情が緩くなるのがわかった。
「…下脱いで、挿れる。」
「っ、…ぅ…う、ううぅ…、っ」
仁人はさっきのビンタを思い出したのか、泣きながら素直に脱ぎ始めた。嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる仁人が、どうしようもなく可哀想で、それ以上に愛おしくてたまらない。
こうやって恐怖で支配すればすぐ言うことを聞く。従順で俺だけが壊してもいい。
「う゛っあ、ッ…う、…はゃとくん、」
あんな目に遭ったっていうのに、一つ覚えみたいに俺の名前を呼んでいる。仁人は、救いようのないアホなんだと思う。
近くのローテーブルから、潤滑油を取り出して、仁人の内側に塗りたくる。
「ぅ゛、ぁ゛ああ!ゃ゛…あ!は、やとく゛ん゛!!」
「…いれる。」
「や゛ぁ!!やだ!!ぃ゛た゛い、のゃ゛、!は、はやとくん、!」
拒絶するように暴れて泣き喚く仁人がうるさくて、俺は仁人の足首に体重をかけて抑え込み、逃げ場を奪うように腕を頭上で固定した。
「動くんじゃねえよ。」
「ぅっ、うう…う、」
仁人は涙か汗か分からなくなった顔面で、横に振っている。
「……」
俺は躊躇を捨てて、仁人に自分のものを突き立てた。
「ぅ゛、うぅ! や゛ッあ゛!!ぁ゛ッあぁ゛ぅ゛ 」
内側が悲鳴をあげるように痙攣して、仁人は逃げ場のない快楽と、苦痛に体をうねらせている。
こいつの頭を俺だけにしたかった。俺だけ見て欲しかった。
そのどろりとした思いが募る度に、容赦なく腰を叩きつけた。
「ん゛ッあ゛!ひっ…ぅ゛、…は゛、ゃと…くん、…っ、ごめ、ぇ゛…っ、なッさ、ぃ゛!」
頭をふるふると横に振りながら、許しを乞うその姿、絶望に染まったその顔が、たまらなく、残酷なほどに可愛かった。
「っ、……くそッ!」
ずっと、ずっと、
自分から出てくる言葉は、重いとは裏腹に毒ばかりで、暴力でしか繋ぎとめられない不器用で無能な自分に苛立っていた。
欲しいのは支配じゃないのに。
苛立ちをぶつけるように夢中に腰を動かした。
「、ふ゛ッぅ…き」
抵抗していた仁人も中を擦られた途端に大人しく声を上げている。体をうねらせて快楽に耐える仁人がかわいくて、仁人の体が痙攣しはじめるのを感じると、いつも喜ぶところを執拗についてやった。
「ぃっ、く゛、…く゛ッる!いく!はゃ゛ッと、くん、」
「いッぐ、ぅ゛ぅ…、ぁ゛!」
「…っ」
高まった熱が一気に流れ出た。
仁人はうつろな目をして、俺の下でビクビクと激しく震え、やがて力なくシーツに沈んでいった。
静かな部屋に俺の呼吸の音と仁人のかすかな啜り泣きが響く。
俺は、ぐったりと横たわる仁人の顔を覗き込んだ。
真っ赤に腫れた頬。涙で濡れた睫毛。指の形が残るほど強く掴んだ手首。
全部、俺がつけた消えない暴力の痕跡だ。
(……俺は、何をしてるんだ……)
さっきまでの猛烈な独占欲が潮が引くように冷めていき、代わりにどす黒い自己嫌悪だけが残った。
こいつを壊したかったんじゃない。ただ、俺だけのものにしたかっただけなのに。それなのに、俺がこいつに与えたのは、愛の言葉でも柔らかな抱擁でもなく、逃げ場のない恐怖と痛みだけだ。
「……じん、と……」
名前を呼ぶ声が、惨めなほどに震えていた。
これ以上何かを口にすれば、喉元までせり上がっている醜い独占欲が、涙と一緒に流れ出してしまいそうだった。
けれど。
「……っ、……う」
視界が、急に歪んだ。
喉の奥が焼け付くように熱く、せり上がってくる感情を抑えきれない。
(行くな、どこにも行くな。俺を一人にするな)
そんな子供じみた本音が、頭の中で何度も何度も繰り返される。
素直になれない。優しくできない。
あいつみたいに、こいつを笑わせることもできない。 俺にあるのは、こうして傷つけて繋ぎ止める不器用な執着だけだ。
嫌いだ。
俺をこんなにも惨めにさせ、狂わせるお前なんて、大嫌いだ。
嫌い、嫌い、嫌い。
「……っ、……すき」
ずっと言えなかった。
俺に必要なのは、この一言だけだった。
それなのに、なんでずっと言えなかったのか。こんな暴力だけで支配し無ければ。俺も、もっと、普通に手を繋いで、笑い会えたのに。
そんな自分への苛立ちと、情けなさが、まぶたを突き破った。
ポタッ、と。
仁人の白く細い肩に、熱い滴が落ちる。
「……え、……はやと、くん……?」
仁人が、戸惑ったように弱々しく瞳を開けた。
見られたくない。こんな情けない顔、絶対に。
俺は逃げるように、泣き疲れて震える仁人を痛いほど抱き締めた。
「……動くな、見んな。」
掠れた声は、もう完全に制御を失っていた。
一粒溢れた涙は、一度決壊すれば止まらなかった。
「扱いやすい」なんて嘘だ。俺の方が、ずっと単純で、こいつがいないと生きていけない欠陥品だった。
「……っ、……ふ、……っ」
嗚咽を漏らさないように必死で奥歯を噛み締める。けれど、仁人の肩を濡らす涙だけは止められなかった。
「……どこにも、行くな。……」
涙でぐちゃぐちゃの声を絞り出し、俺は救いを求めるように、仁人の柔らかな体温を貪り続けた。
「……っ、ごめん」
それは愛というにはあまりに重く、祈りというにはあまりに醜い、俺だけの、たった一つの執着だった。