テラーノベル
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美しい人を憎む醜さと
美しくない自分を憎む醜さが
憧れと軽蔑のあいだで繰り返され、
鏡の中の自分が浮かべる見慣れた表情に
崩れた魂が体の中に宿っているのを見る。
手の届かない美しさ、そして与えられない機会。
享受できない美しさの儚さと、その前でみすぼらしくなる魂。
美しさと醜さは、幾重もの層に現れる。
◇
手についた油が洗っても落ちなかった。
石けんを足してこすった。手のひらが赤くなるほどこすっても、手のしわには黒い線が残った。昨日までは気づかなかった場所に、小さな傷もあった。水を止め、手のひらを開いた。今日一日を見せてほしいと言われたら、これを差し出せばいい気がした。だから、今日一日を知りたがって、「見せてほしい」と言ってくれる人がいればいいのにと思った。
◇
依の体はまだベッドに横たわっていた。目覚ましが二度目に鳴ると、肘をベッドにつき、腰に力を入れた。上体を起こしたら、次は足を下ろさなければならなかった。足の裏が床に触れてようやく、壁の黒い輪郭も戻ってきて、作業靴の先に引っかかった。行く支度はとっくにできていたのに、連れていくものが多すぎた。腕も脚も、一晩のうちに空になってしまった腹まで。
老女の助けで若い女性の体を手に入れた依は、毎朝その体を起こすために奮闘していた。バスの時間までに、体を洗い、食べさせ、服を着せなければならなかった。初めは、一度覚えれば次の日からは体が勝手にやってくれると思っていた。昨日は時間どおりに起きたのだから、今日も起きるだろう。昨日パンを食べたのだから、今日は少し減らしてもいいだろう。けれど朝になるたび、目はなかなか開かず、腹は減っていた。眠っているあいだは何もしていなかったのに、心臓はずっと動いていたらしかった。
舌が上あごに貼りついて、まず水を飲もうとした。取っ手をつかむ前にコップに手をぶつけ、水をこぼした。黒い輪郭は濡れた床を避けて、もう壁へ退いていた。あれは濡れていない場所へ行けばそれで済むが、床はこちらで拭かなければならなかった。人前に立ちたくて手に入れた体なのに、いざ手がかかるときには見ている人が誰もいなくてよかった。依はコップを立て直し、タオルを探した。
「バスの時間は見ているのかい?」
ドアの外から老女が尋ねた。人はどうやって遅刻もせずに暮らしているのだろう。ほかの人が出てくるドアの前で待っていたときには知らなかった。その人が靴を履いて出てくるまでに、どれだけのことを片づけなければならなかったのか。
鏡の中には、まぶたの腫れた女がいた。顔にかけた水が耳の中に入り、肩をすくめた。体のこんな小さなところにまで気をつけなければならないなんて。外で見た人たちは、顔を洗うときにこんな表情はしないだろう。きらびやかな服を着て、夜の街を闊歩する女たちはどんな顔をするのだろう。この地味な顔では想像できなかった。洗って服を着るのに時間がかかり、食卓に座ってからようやくシャツのボタンを留めた。老女がその前にパンと水を置いた。
「わざわざ用意してくれなくてもいいのに。どうせ誰も見てないんだから」
「見ていないあいだだって、お腹はすくだろうに」
依は鏡を見ながら、まず笑う顔を作ってみたかった。笑うことが起きたのに、顔の準備ができていなかったらどうしよう。みんなが手をたたいて笑っているとき、自分だけがきょとんとした顔をしているほど恥ずかしいことはないだろう。でも、この顔の持ち主は、そんなふうに顔を使ったことがなかったはずだ。自分の言葉に誰かが笑ってくれたことなど、なおさらなかっただろう。かわいそうに。
老女はパンが乾くから先に食べなさいと言った。依はパンをちぎって口に入れた。大きくちぎりすぎたパンがうまく飲み込めず、咳が出た。老女は水の入ったコップを握らせた。一度に飲まないようにと言った。依はコップを持ち、少しずつ飲み込んだ。パンが喉を通ると、もう食べるのをやめたくなったのに、腹はまだ減っていた。
老女は皿の横に入館証を置いた。自分の顔と工場の名前が並んでいた。そこにある顔は、食べていてむせたりしない人のように笑っていた。
二つ目のパンは小さくちぎった。舌の上で転がすと、外側が先に崩れ、中身は長く残った。一つの塊の中に感じる二つの感触。人として生きたいと言ったときには、パンをゆっくり食べればこんなことがわかるようになるとも知らなかった。もう一口食べたかった。次のパンを買うお金は工場で稼がなければならなかった。
工場への道は三日前から覚えておいた。塀や建物のあいだの隙間はよく覚えているが、出入り口が別にある工場では何の役にも立たなかった。顔を上げて入館証を見せなければならなかった。忍び込める道は見えたが、入っていい道は一つしかなかった。名前が変だと人々が笑うと、依は足元を見た。自分の足元の黒い輪郭に、人々が気づいたのかと思った。顔を上げたときには、声をかけてきた人は次の人の入館証を見ていた。名前を聞いただけだったのか。遅れてでも笑ってみようとしたが、もう誰もこちらを見ていなかった。
初日の作業靴は足より大きかった。中で折れ曲がる靴下を数歩ごとに直しながら、部品の表と裏を覚えた。真っ黒な油まみれの小さな金属板を受け取り、溝を確かめ、きちんと積み重ねた。違っているものは隣の箱へ送った。最初の一時間は、手袋越しにも端の違いがわかるのが面白かった。二時間が過ぎると肩が重くなり、三時間目には、どちらに腰を伸ばせば楽になるのかさえわからなくなった。一枚を置くと、次のものが来ていた。昼休みを知らせるベルが鳴っても、依は手を下ろせなかった。次の板が来るあいだは休んではいけないと思い、まだそれを待っていた。
工場で働く人たちは、ときどきくだらないことを言ってくすくす笑っていたが、結局は体を養うために体を疲れさせ、その疲れた体を回復させるために稼いだ金をまた使う人たちだった。続けているうちに腹が減ってきた。
◇
そんな日々が続いた。朝はバスに乗り、夕方には作業靴を脱いだ。一か月ほどすると、かかとの皮膚が硬くなり、手のひらにたこができた。以前はもう一度聞かなければならなかったことも、今は一人でできた。給料を受け取った後も、工場には通い続けなければならなかった。体を維持するには、思ったよりも金がかかった。
昼休み、向かいの男が携帯電話をこちらに向けて見せた。
「この前投資したやつ、あれでちょっと儲かったんだ」
隣の人がいくらかと尋ねると、男は声を低くした。依も顔を近づけた。画面の数字の後ろには、いくつも零がついていた。聞き間違えたと思ってもう一度尋ねたが、男は笑って同じ金額を言った。さっきまで依と同じ手袋をはめ、同じベルを待っていた人だった。依はおめでとうという言葉をまねして言った。それを口にするまでは、本当によかったことのように思えた。
何か月かかったのかと尋ねると、男は三か月くらいだと言って日付を確かめた。依はそのあいだに受け取った給料を頭の中で足した。家賃と食費を引く前の金で計算しても足りなかった。あと何か月分を足せばいいのか数えているあいだに、男は携帯電話をポケットに入れ、残ったご飯を食べた。彼が工場の外にいるあいだにも、あの金は増えていたのだろうか。どうやるのか尋ねかけて、スプーンを持った。教えてもらっても自分がすぐにできるとは思えなかった。来月工場に出なければ、まず家賃を払う金にも困る。その金を、減るかもしれない数字に入れておくわけにはいかなかった。
午後の作業まであと10分あった。男は次は一緒にやってみようと言った。依はうなずいたが、彼が携帯電話を入れたポケットを見ていた。あの中では今も金が働いているのだろうか。自分はベルが鳴れば、また手袋をはめて立たなければならない。明日も明後日も。残ったご飯を口に入れたが、さっきのように温かくてうれしいとは思わなかった。ご飯が必要なのはあの男も同じなのに、なぜ自分のほうがより多く必要としているように思えるのだろう。
男は立ち上がりながら腰をたたき、あくびをした。依もつられて立ち上がった。あの人も疲れるのだ。それを見て少し楽になった。自分にも金の稼ぎ方を教えると言ってくれた人だった。それなのに、疲れた姿を見て初めて安心した。これ以上見ていたらそんな気持ちまで顔に出そうで、依は先に作業場へ歩いていった。
給料をもらうと、洗濯代と家賃を先に取っておいた。食べることも、体を洗うことも、眠ることも、服を乾かすことも、一度済ませたからといって次の週まで放っておけるものはなかった。欲しいものは残った金で買えるものの中から選ばなければならなかった。先に気に入ったものを見つけて計算すると、たいてい諦めることになった。コンビニのガラスに映った顔も、朝見たときより疲れていた。依は左右の目を交互に大きく開いた。後ろの人にどいてほしいと言われ、パンを持ったまま横に退き、またガラスに顔を映しているうちにバスを逃した。一人で食べる夕飯なのに、誰に見せようとしたのだろう。
バス停へ向かう道で、並んで歩いていた二人のうち一人が靴を履き直した。もう一人も立ち止まった。依は二人がまた歩き出すまで見ていた。自分が手袋をはめ直すあいだ、生産ラインもバスも待ってくれなかったのに、あの人は相手が靴ひもを結び直すまでそばに立っていた。そんなに長くかかったわけでもなかった。少し立ち止まって、一緒に歩けばいいだけのことだった。
仕事帰りにちらりと見た携帯電話の画面には、自分が行ったことのない場所で、ほかの人たちが一緒に撮った写真が載っていた。男の腕に顔をうずめている人、海の前で一緒に笑っている人。何がそんなに楽しいのだろう。すでに幸せそうな顔ばかりが見えた。今の自分の姿からは、あの遠くに見える幸福の島にはたどり着けなかった。初めからその島で生まれた住民でなければならなかった。体を手に入れてまだ間もないのに、自分の青春はもうすり減ってしまった気がした。物には値段があるだけましだった。いくら貯めればいいかわかった。自分も誰かとあんなふうに立ってみたかった。先に行く人を呼んで立ち止まらせるのではなく、顔を上げたとき、まだそばにいる人と。画面を消して、黒く映った自分の顔を見てから、またつけた。
その日、依は老女の前で手を開いた。初めて工場に行ったときにはなかった跡が手のひらに残っていた。老女は濡れた手袋を長くはめたままにしないようにと言いながら、その手首を返してひび割れたところを調べた。依は腕に力を入れて引き抜いた。傷つかないようにという意味はわかった。けれど、自分の体をきちんといたわれなかったと叱られに来たのではなかった。こんな手を見れば、今日もよく頑張ったと言ってくれると思っていた。
爪の長さはまちまちだった。不安なときに噛んだ右手の爪の端は、たこよりも見苦しかった。工場の外で夜の街を歩く女たちは、あのきれいな手で飲み物を持ち、ストローで飲んでいたのに。自分の手は差し出した途端、ひび割れたところから目に入った。何もできなかったころより多くのことができるようになったのに、誰かが握ってみる前から、痛そうだと言われる手になった。
「これだって私が手に入れた手だよ。朝起きてバスに乗って、間違えたらやり直して、わからなければ聞く。昨日より早くできるようになったこともある。でも今日、投資で稼いだお金を見せてくれた人がいた。その人も私と一緒に働いてるのに、工場に来ない日にもお金が増えるんだって。私はこの手を一日中使わなきゃいけないのに。そうして稼いだお金でご飯を食べて家賃を払ったら、また働きに行かなきゃいけないのに」
老女が手の甲のほうへ手を伸ばすと、依は自分の手を引っ込めた。つかんでくれないのが寂しかった。つかまれたらまた引っ込めたはずなのに、老女が手を止めたのも気に入らなかった。何と言ってほしいのかはわかっていた。ただ、自分から先にその言葉を教えて聞かせてもらっても、意味がない気がした。
「頑張ったね。だからひび割れたところから見たんだよ」
「ほかの人の手はきれい。爪に何をしても似合うし。私の手で触ったら嫌だよね。こんな姿じゃ、誰も私を好きにならない」
依は手を裏返して、手の甲も見せた。工場に来る前にはなかった跡が、もう二か所あった。こんなところまで見せればわかってもらえるだろうか。一生懸命やってきたと言いたいのに、差し出せるものが傷しかないことにも腹が立った。うまくできるようになれば、少しはよくなると思っていた。もっと早くできるようになったのだから、同じ仕事をしても余る時間ができると思っていた。
「長く働けば、もっとよくなるんでしょ。もっと早くできるようになれば、少しはやらなくて済むと思ってた。そしたら同じ時間にもっとたくさんやれって。手はこんなになるし。それでも今日やったことはあるのに。これを見て痛そうだとばかり言われたら、誰によくやったって言ってもらえるの?」
老女はまた手袋の話を持ち出そうとするように口を開き、別の言葉を選んだ。
「誰が、お前の手を見てそんなことを言ったんだい?」
依は答えなかった。誰が言ったかを話せば、老女はその人がなぜそんなことを言うしかなかったのか説明してくれそうだった。自分のための説明は、最後にはいつもほかの人をかばう言葉になった。そんな話を聞こうとしてここまで来たのではなかった。依が話さないので、老女も誰だったのかもう一度は尋ねなかった。
「今日は何があったのか話しておくれ。手は見たから」
遅くなる日には、誰かが窓の外を見て、自分がいつ家に帰ってくるのか気にかけてくれればいいのに、自分を待つ人のいる家があればいいのに、と言いたかった。今日は何があったのかと先に尋ねてくれたのだから、もう答えればよかった。けれど、依は来月の工場の稼働予定から話した。手まで差し出して、ただ誰かにそばに座っていてほしいと言ったら、老女は誰にいてほしいのか尋ねるだろう。まだそんな人もいないのに、もう寂しいと言うのは少し恥ずかしかった。話せる名前ができたら、そのときに言おう。その日も、老女に話したのは仕事のことだけだった。
結局、そういうことだ。人生というものは、愛される人だけが楽しい暮らしを送り、自分は画面の向こうの他人の人生を羨み、憧れながら、彼らが優越感を満たすための餌食になる。苦しい。満たされることのない満足感と、空しく生きた末に捨てられるという運命への恐れ。自分は決められた枠の中で、この不幸の島に生まれてしまった。そして、ただ運がよかったというだけで向こう側の島に生まれた人たちを羨む。
はしごは、初めから上へ登るために作られている。横へ移ることはできない。とりわけ、もっと立派でいいはしごには、もう大勢の人がしがみついている。そんな愚痴を抱えたまま、こうして消えていくのだろうか。
今日も一日が終わった。
依は部屋の明かりを消した。
◇
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読んだよ……「依」の、誰にも見てもらえない日々と、差し出せるものが傷しかない悔しさがじんわり沁みた。手のひらのひび割れを見せたシーン、頑張ったねと言ってほしかったのに「痛そう」と言われたときの胸の詰まり方、すごくわかる気がした。あと、投資の隣の人の話と、靴ひもを結び直すのを待ってくれる人がいる光景の対比が切なくて。老女に「今日は何があったか話しておくれ」と言われて仕事の話しかできなかったのも、寂しいのに名前を言える人がいないってのが哀しかったよ。続きが気になる……😢