「こら、動くな」
青年が弟の頬をそっと撫で、優しく咎める、撫でられた頬は微かに赤くなっていた。
「ん、だって染みるんだもん、、、」
弟が添えた手の上にまた掌を重ね、私を見上げる。愛らしい子だ。気弱そうに潤んだ目の下をそっと親指で撫でてやる、安心した様に細められた琥珀は、いつだって綺麗だ。
「ね、まだ?」
不安げに聞いたその顔は、齢16の青年にしては幼かった。
「もうすぐ終わるから」
ふわっとした髪を撫でてやると、私の手に掌を重ねて、きゅ、と琥珀を閉ざす。もっと触れてはいたいが消毒をしてやらなければならない、触れ合った手と手を外し、そっと顎に指先を添える。消毒液で湿ったガーゼを極めて丁寧に、優しく頬に擦り付ける。ぴくりと震える様が私の中の何かを掻き立てた、背徳と似た、ナニカを。嗚呼、駄目だ。この子の前ではいつもこうだ、少し触れ合うだけでドクリと胸が上下する、綺麗な琥珀色に見つめられるだけで腹の中で何かが疼く。分かってるのに、兄弟に抱いてはいけないものだと言う事は、分かってるのに。ふと溜息を吐く、顔に落ちた呼吸に反応してオサムがはたりと薄く目を開いた。
「シグ兄?なんでそんな顔してるの?」
徐にオサムが口を開いた、ぱちりと瞬き、眉を顰めた。
「どう言う事だ?」
オサムが私の頬に手を添える。
「なんで、悲しそうな顔してるの」
頬から唇へと、オサムの細い指の先が滑る、酷く優しい手つきだった。心配そうに下がった眉に、胸が締め付けられた。
「今日は嫌な事があってな、少し思い出しただけだ。」
あながち間違ってはいない、今朝も昼休憩の時も、この子を見たらドクリドクリと胸が上下したし、息苦しくなった感覚を、また思い出しただけ。
「そうなの、大丈夫だった?」
「嗚呼、平気だよ」
だからそんな顔するな、心配しないでくれ。お前の綺麗な顔が悲しそうに歪む事が一番嫌なんだよ。
「大丈夫だから」
そう言っても、弟は眉を下げたまま兄を見上げた。見兼ねた兄はそっと弟の顎に指を添え、唇の柔らかさを共有した、宥める様に、安心させる様に。弟は恥ずかしげに濡れた声を漏らす。
「あ、んぅ、、、」
ふにふにと唇を押し付け合う、舌を入れてしまいたい、口内を掻き乱してしまいたい、だがそんな事をしてみれば二人の兄が黙っていない、きっとすっかりやきもちを妬いて、オサムにまで被害が及ぶだろう。なにより、この子から嫌われてしまうかもしれない、気持ちが悪いと思われる可能性が否めない。そんな思いに耽る、ふと唇にナニカ濡れた物が触れた。
「ん、、、っ!」
オサムの舌だった、驚いて目を開くと酷く官能的に潤んだその琥珀色が見えた。慌ててオサムの肩を掴み、重なった唇同士を引き離す。
「あ、、、」
びくリと肩を弾かせ、目を見開いたオサムがおどおど視線をおよがせる。
「やっぱり、駄目?」
ぽつり、呟いた声が、耳を掠めた。
「否、どうしたんだいきなり」
「だってシグ兄ってば、何回やっても深いちゅうしてくれないんだもん」
何度も繰り返された唇への愛撫も、口内を犯してしまう前に終わらせていた。兄弟同士でしてはいけないと、オサムが望んでいないと、思ったから。だが
「シグマと、したい」
杞憂だった様だ。
濡れて震えた声が紡いだ音に、シグマは笑んだ。うとりとワインレッドの瞳を細めて。期待に濡れた琥珀を、ばちりと射止めて。
「そうか」
たったの三文字を吐き出して、無防備に薄く開かれた口に噛みつく。いつになく乱暴に、獰猛な狼の様に。
「んんっ!、ん、、、ふ」
ビクリと震える様など気にもせず、舌で、口を、上顎を、ぐぢゃぐちゃに掻き乱す。
「あっ、、ん、ぅ、ひゅ」
「ん、は、、、っ」
苦しそうに甘く喘いだ弟の嬌声と、兄の咀嚼音とが混ざり合う。部屋の狼の食事時を、二人の兄は微笑ましそうに、羨ましそうに眺めていた。
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