考え事をして上の空の私を押すように改札を抜ければ、懐かしい香りが鼻をかすめる。
帰ってきたんだ。名古屋に。
金時計側には変わらず人がごった返しており、あちこちで人を待っているであろう人間がスマホ片手に佇んでいた。
「ウシ、俺らの部屋行くぞ。つっても俺の別荘みたいなモンだけどなァ。」
駄べりながら少し歩みを進めればタクシー乗り場へ出る。相変わらずそこにも人が多く並んでおり、大半がスーツを着たサラリーマンが暇そうにスマホを眺めながらタクシーを待っていた。
てっきりタクシーに乗るもんだと思っていた私は気が滅入るな、とそちらに向かおうとすれば
「お前さ、マジで目ついてる?俺そっちにいねぇケド?」
そう吐き捨てれば面倒くさそうに別の方へ体を引っ張る。
白い名古屋ナンバーのトヨタ車に乗るよう催促され乗り込めば、待ちくたびれたように部下と思われる男性がアクセルを踏んだ。
「高級車じゃないんですね。」
純粋な質問を三途さんに投げかける。トヨタの普通車などこの街に居ればごまんと見かける。
「おう、お前追われてるし。高級車じゃすぐ足つくだろ。」
馬鹿じゃねーの?と最後につきそうな勢いで含み笑いで告げられる。少し腹は立つが、私を思っての行動なのだろう。でも、一体なぜ私が追われるのか。聞かなければ話は進まない。
「え、追われる?なんでですか?」
「え?」
期待してた答えとは真逆に素っ頓狂な声が二つ重なる。
運転している男性に至っては、バックミラー越しに私の顔を見ては、有り得ないと目を見開いている。
「はぁぁぁ、お前さァ。“ウチ”と間接的に関わったンだよ。自覚しろや。理由はそれだけじゃねー。」
瞬時に脳が理解する。
ただ_____
「じゃあ、2つ目の理由は?」
目を閉じている三途さんが少し眉間にシワを寄せる様に生唾を飲み込む、聞かない方が幸せなのだろうそれでも聞かなきゃいけない気がした。
「灰谷兄弟。」
瞼を閉じたまま答える三途さんは、ふぅ。と溜息を吐いては背もたれに体を委ねる。
シートが軋む音がした。
「お前の行方を追ってる、安心しろ。1ヶ月の辛抱だワ。彼奴らは執拗いが飽きるのも早い。矛盾してるがそんな奴ら。だから俺がお前を守ってやる、条件付きで。」
片目を開けてはコチラに視線を落とす。
慈悲深いのか愛憎か分からない青い炎が三途さんの瞳の奥で確かに揺れていた。
そんな不穏な空気を知ってか知らずか運転手が着きましたよ。サイドブレーキを上げる音と共に彼がそう告げれば、そそくさと三途さんが車を降りた。
「ボケっとすんな、早く行かねーと置いてくぞ。」
そうぶっきらぼうに言うクセに扉を開けて待っててくれる三途さんに頬が緩む。
彼が狂犬と比喩されるのも頷ける。
素直に降りれば目の前にはセキュリティ万全なタワマンが私たちを見下ろすように建っていた。
オートロックを通る前に三途さんが歩みを止めて振り向く。
「条件を呑まなきゃ、匿うことはできねーなー。」
悪戯にいつもの如く笑う三途さんのはずなのに瞳には影が落とされる。本気だ。
「3つある
1つ身の回りのモンは俺が用意した物を使う
2つその堅苦しい敬語をヤメるのと今後俺の決めたルールに従うこと」
ニヤリとこれでもかと口角をあげる彼に多少の恐怖を覚えてしまうのは、彼のような狂気に触れなれてないからなのだろう。
それでも条件はあの三途さんなのに案外マトモなのが幸いだろう。
「3つ目は、なに?」
ためる三途さんに痺れを切らし問いかければ、待ってましたと言わんばかりに顔を近づける三途さん。心底楽しそうだ。
「んは、3つ目はなァ_____」
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