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『風のポスト』
そのポストは、もうずいぶん前から誰も使っていなかった。
町の外れの坂道の途中に立っていて、赤い色もすっかり薄くなり、どこか寂しそうに見えた。
ある日、近くに住む少年が、ポストの前で立ち止まった。
手には、しわくちゃの紙切れ。
そこには拙い文字で「おばあちゃんへ」と書いてある。
おばあちゃんは去年の冬、遠くへ行ってしまった。
どこに送ればいいか分からない手紙だったけれど、少年はポストの目の前で小さくつぶやいた。
「天国にも届くかな?」
ポストは何も言わない。
けれど、その日の夕方、いつもより少し強い風が吹いた。
木の葉が舞い、ポストの赤が夕陽に照らされて、ほんの少し輝いた。
少年は笑った。
そして思った。
――たぶん、届いた。
おしまい🌙