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悲鳴が聞こえたのは、少し経った後だった。甲高い悲鳴だった、おそらくあの泣き虫なやつの悲鳴だろう。よりによって、なんでアイツが。ギリ、と歯を食いしばりながらも、あの部屋へと足を進めた。なるべく音を立てて。
部屋へ向かうと、ドア付近の壁にあの毒舌の物体が立っていて、こちらに気づいたのか目が合った。
「遅かったね、多分、一番最後じゃない?」
無言を貫くと、まるで面白くないとでもいうかのようにため息を吐かれた。そして、正面を向くと再び口を開いた。
「あれ、見てみなよ。まさに地獄絵図って感じでしょ?佳は死んでるし、ブス女はずっとあそこで泣いてるし、アホは無言だし、柳はまたキメに行った。」
チラリと周りを見る。確かに隣のが言うように、地獄を表したような現状だった。
「・・・とりあえず、全員を呼んで戻ったほうが早そうね。」
そう呟くと、同意と言いたいのか深く頷かれた。そうして、面倒くさいがあの物体が男の方を引き受けると申し出てくれたので、私はあの泣き虫に近づいた。対象に近づく5歩手前で、私はアイツの1番の面倒事を押し付けられたのだということに気づいた。
「・・・ねぇ」
小さく、それでも端的に声をかけると、目の前のそれはビクッと肩を揺らして目をこちらに向けた。すると凄まじいスピードで首に手を当てられた。ドンッと背中が床に押しつけられ痛みが背中に走るが、それよりも首の締め付けられる痛みのほうが強かった。だが、別に抵抗はしなかった、どのみちコイツは私を殺さないし、殺せないと分かっていたから。
「なん、なんなのよ…ここ、もう嫌、ここから出して、出してよぉ…!!ぁ、あ貴方ここにすす住んでるんでしょ!?は、早く教えないとこ、こ、ころ、殺す、殺すわよ!!!!」
時計の音と目の前の物体の歯がカチカチと音を立てて震える音だけが響く。その間も私の首はどんどん締め付けられて、少しずつ意識が遠のく。空気が入らない、視界がだんだんぼやけてきた。まさか、本当に殺す気か?誰が?こいつが?誰を?私を?本当に?嫌だ、嫌だ、嫌だ。
そう思ってももう遅いようで、力を入れることすら難しくなってきていた。そうしてもう無理なのかもなと諦めかけた瞬間に、首の締め付けられる感覚が消えた。息を素早く吸って、噎せる。周りを見ると、先ほどまで私に乗りながら首を絞めていた物体が頬を抑えながら座り込んでいた。そして、私の直ぐ側には、
「柳」
「なぁ〜んか危なそうだったからさ、きちゃったぁ、えへっ!」
キメた薬が続いてるのか、喋り方があのときのようだった。足が片方だけ上がったままだから、恐らくアイツの頬を蹴ったのだろう。
「それでぇ?お前、何してくれちゃってんの?」
まるでゴミを見るかのような目に、見つめられている対象は私ではないのにも関わらず震え上がるような感覚がした。
「ねぇ、生きてるよね?」
声のする方を見れば、先ほどの毒舌野郎がこちらを見ていた。
「あのブスのことは柳がどうにかするって言ってたから、放っといて向こうにでも行かない?多分、見ててもいいものは見れないよ」
チラリと泣きじゃくる物体を見れば、会話が聞こえていたのか怯えた目でこちらを見てきた。
「ぁ、あ、ごめ、ごめんなさい」
小さく謝罪の声が響く。あの声が無駄にうるさいバカも擁護しきれないのか、もうするほどの気力も残っていないのか、興味が失せたのか、もう何も言わない。柳と目の前の毒舌野郎は、私がどう判断するかを見守る。
「・・・そうね」
そう一言言うと、あの物体は赦されたとでも思ったのか、顔を緩ませた。
「私たちだけで先に戻っておきましょう」
その一言で、また顔を青くさせた。
どうやらオツムが弱いのは、あの声量バカだけではなかったらしい。