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昼食後、私たちは武器屋に向かった。
ミラエルツは同業のお店が集中することが多かったけど、ヴェセルブルクは商店街みたいな感じで、多様なお店が集まっている場合が多いとのこと。
欲しいものがあって、比べて探すならミラエルツ。
一度に色々なものを買いたいならヴェセルブルク。
……そんな感じかな?
好みは分かれると思うけど、それも街の特色のひとつだろう。
「――とはいっても、これから行くところには武器屋が3軒ありますからね。
お店に無いものがあっても、他のお店を紹介してもらえると思いますよ」
「へぇ……。お客さんを融通しあってるんですね」
「お店ごとに得手不得手がありますし、武器は一点ものも多いですからね。
それに紹介するときもあれば、されるときもあるでしょうし」
「なるほど。お互い様、というわけですか」
餅は餅屋、って言うくらいだもんね。
得意ではないものは他に譲って、その分得意なものを譲られれば良い……っていうのは納得かな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……なるほど、確かにいろいろなお店がありますね」
武器屋に、服屋に、アクセサリ屋に、雑貨屋に、八百屋に……って、本当にいろいろあるなぁ。
実際のところ、元の世界で見掛ける商店街のような感じだ。
「冒険者に良し! 住民に良し! の場所ですよ。
冒険者で且つ住民なら、冒険の準備と一緒に夕飯の準備もできてしまう優れものです!」
うん、確かにそうだけど……。
でも武器屋の隣に八百屋があるっていうのも、何だかシュールだなぁ……。
「アイナさん、『武器屋の隣に八百屋があるっていうのも、何だかシュールだなぁ……』って顔をしていますね!?」
「えっ!?」
まずい。一言一句、言い当てられた!?
凄いけど、何だか怖い……!!
「実は、あそこはですね……。
お父様が武器屋で、息子さんが八百屋を営んでいるのです!!」
「な、なるほど……!」
それは納得!
でも、どうでもいい情報だった!! ……それにしても、そんな情報まで知っているものなんだ?
まぁ、それはそれとして――
「便利そうですけど、私はミラエルツの方が好きですね。
専門のお店がずらーっと並んでいるのは、やっぱり見ていて気持ち良いですし」
「アイナさんは職人さんですからね。
あそこは職人の街ですし、きっと水が合うんでしょう」
「おお、なるほど……。今、凄く納得しました! ちなみにルークはどっち派?」
「私ですか? 私は飾りっ気の無いほうが好みですので、ミラエルツですね」
「ふむふむ。それではエミリアさんは?」
「それじゃ、ミラエルツで」
「……それじゃって、なんですか……」
「これで仲良し3人組です!
よーし、折角ですし1軒くらいは入ってみませんか?」
「そうですね、入ってみましょう」
エミリアさんの元気な声に釣られて、武器屋に三人で入ってみることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ!」
武器屋に入ると、店員さんがすぐに声を掛けてきた。
それなりに広い店内の壁には、武器がいくつも飾られている。
剣や槍、ハンマーや斧、星球武器……いわゆるモーニングスターなんかも置いてあった。
「はぁ……、いろいろありますね」
「はい! 当店は近接職の方向けに、様々な武器を取り揃えてございます!
今日はどんな武器をお探しでしょうか?」
「私は剣を使うので、どんな剣が置いてあるのかと思い――」
「はい! 剣はこちらでございます!!」
ルークの答えをすぐさま拾い、店員さんは流れるように、私たちを剣のコーナーに誘導した。
「いかがでしょう!
当店の専属鍛冶師が、心を込めて鍛えた品々です!」
「なるほど、なかなかのものが取り揃えてありますね。
これ以外のものはありますか?」
ルークが飾られている剣を一通り眺めてから聞くと、店員さんは眉をピクリと動かして言葉を続けた。
「何と、|一瞥《いちべつ》しただけで、これ以上のものをお求めになられるとは……!
さては名の通った剣士様でしょうか! そうですね、これ以上のものになると、本店に行った方が良いかもしれません!」
「本店、ですか?」
「本店はここから1時間半ほどのところにございます!
馬車を使えばもっと早く着くことができますが――」
……1時間半って、ちょっと遠いなぁ。
ルークもそう思ったのか、その提案はさっさと断っていた。
「それでしたら結構です」
「それは残念。ではここにある分だけでも見て頂けますと幸いです!
店の奥には、試し切りのブースも設けてありますので!」
「ほう……」
あ、ルークの心に引っ掛かったみたい。
何だか興味深そうなつぶやきを漏らしていた。
「ささ、いかがでしょうか?」
「……すいません、今日はあまり時間がありませんので。
明日は時間が取れると思いますので、改めてお邪魔することにします」
「それではクーポン券をお渡ししますので、ぜひ明日もお越しください!」
そう言いながら店員さんは、ルークに小さな紙きれを渡していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さっきのクーポン券って、どんなやつ?」
武器屋から出てすぐ、ルークに聞いてみた。
「何だか記念品がもらえるらしいですね。詳しくは分からないのですが」
「記念品……? 何だろう?」
元の世界ではクーポン券なんてよく見掛けたものだけど、こっちの世界では今日初めて見た。
そもそもクーポン券という概念があること自体、驚きだったかもしれない。
「明日また武器屋に行きますので、もらって帰りますね。楽しみにしていてください」
「うん、分かったー」
「わたしも楽しみです!
……さて、次は装飾魔法を教えてくれる場所を探してみましょう!」
「えぇっと……?
魔法を教えてくれる場所って、そもそもどういうところなんですか?」
「魔術師ギルドが定期的に開催している勉強会もありますし、個人で教室を開いている方もいますね。
あとは使える方の元を訪ねて、直接教わるとか」
「なるほど。それで、心当たりはあるんですか?」
「はい。実は信徒の方で、魔法の教室を開いている方がいらっしゃるんです。
今日はその方にお話を伺いに行こうかな、と」
「おお、さすが顔が広いですね」
「それほどでも♪ では、早速行きましょう!」
「「はい」」
私たちはエミリアさんを先頭にして、その信徒さんが住んでいるという家に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――まさか引っ越してしまわれたとは……」
宿屋の食堂で、絞るように声を出すエミリアさん。
あのあと信徒さんの家……魔法の教室を訪ねたのだが、何でも3週間ほど前に引っ越してしまったらしい。
方針転換をして魔術師ギルドの勉強会の日程も調べてみたものの、装飾魔法の勉強会はやっていないようだった。
「まぁ……、引っ越しではどうしようもありませんね……」
「そうですね……。
でも、それならそれで、最後にご挨拶をしたかったです……」
3週間前に王都に着いていたら、挨拶をできたかもしれない――
……そう考えると、ガルーナ村やミラエルツで滞在させてしまったことが申し訳なくなってくる。
「すいません……」
「あ、いえ! そういう意味では無いですよ、アイナさん!」
「もしかして、大聖堂に聞いたら分かったりしますかね?
個人教室を開くような方でしたら、大聖堂でも活動をしていたり、知ってる人がいるかもしれませんし」
「……あ、そうですね! それでは明日、大聖堂に行ったついでに聞いてきます!
そこで分かったら嬉しいんですけど……」
「私も引っ越し先が分かるように、お祈りしておきますね」
「お祈り? それってもしかして――」
「もちろん、我がご神体に!」
タアアアアアンッ!!
そう言いながら、そして良い音を響かせながら、すでにお披露目済みのガルルンの置物をテーブルに出す。
「ああ、その熱意がルーンセラフィス教に向かっていたら良かったのに……。
……でもこれはこれで嬉しいので、お祈りの方はよろしくお願いします!」
「はい!」
……それでは祈りましょう。
引っ越した信徒さんの行く先が分かりますように――
あ、それと、ジェラードが早くここに来ますように――
……もう、21時ですよー?