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魔物が襲って来るとされる港町キーリジア。戦士ばかりのギルドにも驚いたが、海を背にしてわざわざ魔物を待ち構える何とも不思議な場所だ。
ウルシュラに手を引かれ外に出ると、まだ昼間なだけあって陽射しが眩しい。呪符でキーリジアに来たから気付かなかったが、なだらかな地形の丘が続く見晴らしのいい景色だ。
「ルカスさん、どうしましたか?」
「いや、こんないい景色のところに魔物が来るなんてちょっと信じられないというか……」
魔物がしょっちゅう来てる割に大地は荒れてもいない。地面がえぐれているでもないということは、魔法を使う魔物はあまりいないのだろうか。
「ルカスさんは帝国の指示を受けて、宮廷魔術師として魔物を討伐してましたよね?」
「え、うん」
「こっちは冒険者パーティーこそ多いですけど、魔物が活発なので追い付かないんですよ~。だからどうしても小さな町までは手が回らなくてですね……」
「だから魔物を待ち構えて毎回討伐を?」
「ですです!!」
魔物が活発……なるほど。数の多い宮廷魔術師が討伐していたとはいえ、ラトアーニ大陸の魔物は土地に留まる魔物ばかり。魔術師が多かったからというのもあるが、町を襲う魔物はほぼいなかった。
一方で、ウルシュラはこういう環境で生きてきた人間。園芸師というジョブにも驚いたがスキルは本物だった。そんな彼女を追い出すここのパーティーは一体どれだけの実力があるのか。
「あっ、姉が来ました! もうそろそろ魔物が現れるはずです」
町から出て来たのはギルマスであるアルシノエと、それに従う屈強な戦士が多数。立て掛けていた大剣を手にしているということは、やはりあれで戦うようだ。
「あっはっはっは! 待たせたねえ! ウルシュラから話は聞いたかい? ルカス」
「まぁ、一応は」
聞いたといってもこの町での心構えみたいなもんだけど。
「あんた、帝国から来たんだろ? だったら今さら魔物にビビることなんて無いんじゃないのかい?」
「いや、そういうのではありませんよ。こんな逃げ場の無い場所で戦うのが不思議だと感じただけで」
「あぁ、それもそうだねえ。海と町を背にする戦いはそうは無いからねえ!」
見た目と態度で判断するに強さにかなりの自信があるか、ただの命知らずかのどっちかだろう。それに屈強な戦士たちを控えさせているということは、ギルマスが前面に立つことに意味がある感じか。
「……それで、魔物の種類は何です?」
「慌てなくていいぞ、ルカス。ここを襲う魔物に種類なんざ無いんだ。向かって来る奴らをとにかくぶっ飛ばすことだけ考えりゃあいい!」
せめて魔物の種類が分かれば効率よく討伐出来るはずなんだが。そう思っていると、後ろにそびえる山の辺りから黒い影の集団と土煙が舞い始めた。ゴブリン、オーク、巨人族、バッファロー族といった魔物の大群が向かって来ている。
俺が見る限り魔物自体に強さは感じられない。だが、大群が一斉に襲って来るとなると並の強さでは太刀打ち出来そうにないとみるが。
「――ふん、お待ちかねの魔物どもが来たようだね。ルカス、あんたはあたしらの戦いぶりを見てから実力を見せな!」
「え、でも……」
「魔術師が出来ることは予想出来る。だがあたしらのような戦士の戦いっぷりは見たことが無いだろう? ウルシュラとともに、後ろで見物でもしてるがいいさ!」
大した自信だな。しかし魔術師を弱い者として見ているのは気に入らない。
「ギルドマスターの言うとおりだ。魔術師の兄ちゃんは、そこでオレらの戦いっぷりを眺めているといい! ガハハハッ!」
「……」
アルシノエは大剣、屈強戦士たちは両手剣と片手剣。効率が悪そうだが……。
「ルカスさん。気を悪くしないでくださいね」
「うん?」
「ここでの戦い方は、誰が最強なのかを決めるものでもありまして! 単純に魔物を追い返すのが目的じゃないので、総出で待ち構えるのが醍醐味といいますか~」
「うん。そのようだね」
魔物討伐よりも強さを見せつけるのが目的か。それならどんなものか見せてもらうとしよう。