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数ヶ月前に余命宣告をされた。
元から体が悪く、しっかり元気と言える日は少なかった。
けどそれがここ最近じゃ悪化してきたなと思い病院へ行ったらこういう結果を渡された。恋人である治にはまだ伝えていない。
伝えてはいないが、彼ならもう知ってるかもしれない。どこかで悟ってるのかもしれない。けど言わないでいてくれているだけなのかもしれない。
でも今日。ちゃんと伝えようと心が追いついた為、彼が帰ってきてご飯を食べて自由な時間を過ごす時に言おうと思っている。いつもよりどこか緊張した強ばった声になっちゃうかもしれない。でも今日ちゃんと伝えると決めたから、いつかは言わないといけない事。それなら早めに言った方がいいはず。…そうだよね。
そうこうしているうちにそろそろ彼が帰ってくる時間帯になった。ご飯を作って彼が帰ってきたらすぐ食べられるように準備をする。
料理が出来上がる10分程前にちょうど彼が帰ってきた。タイミングは、まあばっちしみたいなもんだろう。まずはいつも通り彼を出迎える。日頃のこう言うことが最近は特に大事にしている。だからこそやはり彼にはバレているのかもしれないな等と感じるところはあるが。
「おかえり もう少しでご飯できるからちょっとまってて」
『おや、ちょうどいいタイミングで帰ってこれたみたいだね。いつもありがとう。私は大人しく待っておくとするよ』
彼はいつも通りの声のトーンだった。
でもそれが今日は特に心に染みた気がした。
数分後 ご飯が出来た為コート脱いでハンガーに掛けたりとしている彼を呼びに行った
「ご飯出来たよ〜 今日のメインはコロッケだよ〜」
『本当かい?私○○ちゃんのコロッケ好きなのだよ。まぁ○○ちゃんが作るものは全部美味しいけれどね』
少なくとも嘘では無いような気がした。
確かに彼はよく冗談やジョークを言うけどこういう所でこんな嘘をつかないのは知っていたから。
彼が席に座って一口食べるのを見てから私も食べ始める。味見はしたけど彼の好みに合うかどうかは実際に彼が食べないと分からない。そういう不安がこういう所で出てきてるんだろうなとは感じる。
『ん、これ前作った時より少し甘みが多い気がする。何入れたんだい』
こういう細かい所にも気付いてくれる彼が私はやはり好きだ。ちゃんと見てくれてるんだなって。実感して嬉しくなる。
「よく気づいたね〜!なんかね蜂蜜入れたらいい感じの甘さ出て美味しくなるーって聞いたから入れてみたけど成功したみたいだね」
いつも通りの日常だった。
こんな風に二人で話して、笑って 何気ない日常が楽しいというのはこういうことなのだろう。
『ご馳走様。今日も美味しかったよ いつもありがとうね』
「ううん。治さんだっていつも頑張ってくれてるんだもん。私も頑張りたいからさ。」
『ふふっそれは嬉しいね。先にお風呂行ってごらん。洗い物は私がやるから』
「え、本当?ありがとう。じゃあお言葉に甘えて先行ってくるね」
数分後私がお風呂から上がったら直ぐ治さんもお風呂に行く。
そして、治さんがお風呂から出てきたら私は言わなきゃいけない。そう思うとやはり緊張してきた。大丈夫だろうか。
失望されたりしないだろうか
心配になってくる気持ちを少しでも落ち着かせてその時を待つ。
頭の中が焦りと緊張でいっぱいになっていたからかいつもより上がってくるのが早く感じた。
シャワー室の扉を閉める音を聞いてゆっくり深呼吸して落ち着かせる。
そして、脱衣所の扉が開かれまた少し緊張が出てきた。けど今日は少し頑張る日。 大丈夫落ち着いて話せばきっと大丈夫。自分にそう言いかけて口を開く。
「おかえり。ねぇ、今ちょっと時間ある、?話したいことあって」
『いいけど、どうしたんだいそんなに緊張しちゃって。』
いつもの口調に聞こえたがどこか真剣さを帯びた声だった。
緊張していることもバレているし私のことを安心させようとしてくれているのか。そういう気遣いもやっぱり好きだった。
「…えっとね、まあまず、私の体が元からあんまり良くないのは知ってるでしょ?そこでなんだけどね、」
そこまで言った途端口が止まってしまった。
怖い 余命宣告されたことを言うのはこんなに勇気がいることだとは思わなかった。
先程何回も落ち着いて深呼吸したはずなのにまた恐怖と緊張が出てきてしまって上手く話せなくなる。
『大丈夫。ちゃんと聞いてるから、ゆっくり話してご覧。』
そう言われながら軽く抱き寄せられ安心感で泣いてしまいそうだった。
けどそれでも何とか口を開き伝えた
「…率直に言うね。
余命宣告された。 あと5ヶ月」
そう言った途端少し心が軽くなったような気はした。まだ何も言われていないのに。でも言えたという事実が私をどこか安心させた。
それから彼は少し低い声で
でもどこか私を安心させようとしてくれる声で話してくれた。
『やっぱりか。なんとなくそう思っていたよ。
最近特に1人で外に出るし、何よりずっとどこか緊張したような張り詰めた感じだったもの。
でも、伝えてくれてありがとう。』
そう言ってから抱きしめてくれた。
想像していた悪い結果にはならなくて良かったという安心感と治さんの体温がじんわりとこちらに伝わってくる事が先程までの恐怖と緊張感を全て追い払うようにしてくれて涙が出た。
いつまでそうしていたかはわからないがずっと
この状態で治さんが 大丈夫だよ と言ってくれたことだけは覚えていた。
大丈夫 、 大丈夫だった。
それだけですごく安心できた
私が泣き止んでから治さんは抱きしめたまま優しくこういってくれた
『○○ちゃん
私といくつか約束をしてくれるかい?
1つ目 何かあったらすぐ私に言うこと。
体調の事でも気持ちのことでもなんでもいい。何かあったらすぐ私に言って欲しい。
2つ目 1人で思い詰めないで欲しい。今回もきっとそうだったんだろう?こうなるまで思い詰めてちゃ悪影響だからね。それに私が嫌なのだよ。
3つ目 これが最後だよ。その5ヶ月間、楽しく過ごそうじゃないか。出来れば私と一緒に。
それだけ。 なんなら半年でも3年でも10年でも私は君と楽しく過ごしたい。
約束してくれるかい?』
そう言ってから私に向けて小指を出してきた。
もちろん その約束を承認し差し出してきた小指に自身の小指を絡めた。 約束の合図だった
それからはこれまでの日常と共に水族館に行ったり遊園地に行ったり楽しく過ごした。
時には彼が勝手に仕事を休んで私を外に連れ出した時もあったっけ。その後彼の同僚にしっかり怒られたみたいだけれど。
そういう話を聞くのも好きだった。楽しかった。
けどやっぱりそう長くは続かないんだなと思って寂しく感じる時もあった。
そういう時は治さんがそばに居てくれてそのまま泣いた。
とにかくこの数ヶ月間彼はずっと私に尽くしてくれた。いや、今までも尽くしてくれたけどそれがもっと多くなったような気がした。
そして今日は定期検診の日と同時に入院の日だった。残り1ヶ月と少しな為いつ具合が悪くなってもおかしくないと言われ入院することになった。
もう今までみたいに自由に色々な場所へ行くことも難しくなると思うとやはり寂しくはなるがなるべく前を向いて行こうと気分だけでも下げないようにした。
入院しても治さんは時間がある時にはお見舞いに来てくれた。それだけで嬉しかった
けど現実を見ると少しずつ痩せていく自分が居てやっぱり長くは無いんだなと思い知らされしんどくなる時もあった。
それでも、前に比べて彼と会う頻度も少なくなってしまったためなるべく彼の前では笑顔でいたいと思って心配させないようにしていたつもりだったが、やはり彼は気付いているだろう。
打ち明ける時も何となく察していた彼だ。
こういうことも気づいているのだろう。
でもどうするのが正解なのか分かんなくてずっと笑顔で過ごした。
本当はちゃんと話した方がいいのだろうけどわからなかった。怖かった。なかなか話出せなかった。
でもそういうのも察したのか、彼から話し出してくれた。
『○○ちゃん。無理してるだろう?私との約束覚えているかい。』
そう優しく問いかけてくれた。
『1人で思い詰めないで。そういう約束。
私は怒っている訳じゃあないんだ。
でも君は無理してひとりで抱え込んでしまうだろう?私がそうさせたくないのだよ
本気で好きになった人すら幸せにできないなんて私が嫌なのだよ。だから言っているんだ』
そう言ってから彼は泣きそうになっている私を慰めようとしてくれた。
「ごめんなさい…でも、どうしたらいいかわかんなくて、せめて笑いあって過ごしてたいなって、」
『謝らなくていい。私にも責任があるからね。』
そう言って過ごした日もあった。
そして遂にあと1週間という所まで来てしまった。
お医者さんによるとこの一週間はいつ何があってもおかしくないと。そう事前に聞かされていた為いつもよりもこの一週間は彼が隣にいる時間が多かった。
いつもの日常の笑い話やたまに二人でする深い話
出会った頃の話 色々な話をした。
余命宣告なんて嘘で本当はめちゃくちゃ元気なんじゃないか?そんなことも頭のどこかで考えた。けどそんな一方的な願いと希望のようなものは叶わず、その時が来てしまった。
何となく頭がぼーっとした。
でもそれはいつものぼーっとした感じじゃなくてどこか違う。本当に別の場所に行くような、そんな感じだった。ちょうど隣に彼もいた時だった。だから、軽く手を握ってからこう伝えた
「ねえ、治さん。もう少しかもしんない。」
曇ったような口調だっただろう。
でもその一言を放った瞬間自分の中の何かが切れて涙が出てきた。
「んね、楽しかったよ私。治さんと居て笑いあってた日々が好き。ずっと好き」
彼は穏やかな表情だった。でもどこか何かを思い出しているかのような表情もしてた。
そうして私の手を握り返してから
『私もだよ。本当は君一人で行かせたくないのだけれどね。そんな願いは叶わなかったようだ。』
「ねえ治さん。 好きだよ。ずっと好きだよ。
あたしずっと好きだよ」
そういう私の顔は崩れていただろう。いざこうやって直前になると自然と涙は出るもので、いくら事前に覚悟を決めていてもやはり出てきてしまう。
『私もだよ。○○ちゃん
来世というものがあるなら、またその時出会いたいものだね』
段々と意識が薄れていく。
ああ、もう時間なのだな。そう思いながら意識を手放した。最後に聞いたのは彼の小さな声で愛してる という声だった。
1年後
『○○ちゃん。元気にしてるかい
最近はまた国木田くんが煩くてね 暇さえあればすぐ私に仕事をさせようとするのだよ。ほんとひどいと思わないかい。』
そういいながら墓にエーデルワイスの花を添えて独り言だけれど誰かに話すような口調で少し喋って帰っていた太宰の姿があった。
コメント
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うわ……これ、読んでるこっちも息が詰まるようなエピソードでした。余命を伝えるあの緊張感、彼が「やっぱりか」って受け止めてくれる温かさ、全部が丁寧に描かれていて、すごく引き込まれました。特に「約束の小指」のシーンは涙腺にきましたね……「楽しく過ごそう」って言える強さが、逆に切なくて。ラストの「最後に聞いたのは彼の小さな声で愛してる」ってところが、もう本当に胸に来ました。素敵な物語をありがとうございます。