テラーノベル
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春の空気がまだ少し冷たい教室で、僕は自分の席が書かれたプリントを見つめていた。
「……隣、atくんかぁ……」
atくん。それは僕にとって、名前は知っているけど話したことがないクラスメイト。成績もよくて、運動もできて、無口で、表情があまり変わらない。
女子たちがよく「氷の王子」って呼んでるのを聞いたことがある。
──でも、正直、ちょっと苦手かもしれない。
無口で、目が合ってもすぐ逸らされるし、笑ったところなんて一度も見たことがない。
僕には、絶対関わることないような人だと思ってた。
けれど、席について数分後、そのイメージは崩れる。
「おはよう。ktくん、だっけ」
「……え、うん、そう!お、おはよう……!」
第一声が、やさしかった。静かだけど、冷たくない。目も、ちゃんと見てくれてた。
「…ね、ktって呼んでもいい?」
「え、あ、うん!もちろん!
じゃあ僕は… aっちゃんって呼んでも…いい、?」
「…、なんでちゃん付け?笑
ま、いーけど」
──あれ、もしかして、怖くない……?
そのあとも、僕がノートを落としたらすぐ拾ってくれて、プリントがどっか行ったときも、無言でスッと渡してくれた。無口だけど、気が利く。
「……優しいな、aっちゃんって」
その日の帰り道、気づいた。atくんのこと、少し気になってる自分に。
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