「早く歩けよ、チクショウッ…!」
「…ハァ」
両手に手錠をかけられ、後ろからは苛立って仕方がないといった様子で悪態をつく刺青の男。
らだおくん達の目がなくなった途端この状態…俺の事だけはまだ下に見ているらしい。
「おい、お前…あのお方への報告を終えたら覚悟しろよ…?」
「…」
「自分から死を願うほど苦しめてやるよ」
下品な笑みを浮かべる男を無視して歩き続けていると、前髪を雑に掴み上げられた。
「イ”ッ……!」
「聞けよ、オマエのせいだぞ」
「…俺ノ……?笑ワセルナヨ、自業自得ダロ」
「〜ッ!!」
地面に投げつけられて咳き込んでいると、腹部を思い切り蹴られる。
息が詰まるような感覚の後、込み上げる不快感をそのまま吐き出す。
今日だけは朝食を食べなければよかった。
「ゲホッ、ゥエ”……ケホッ…!」
「殺す殺す殺す殺す殺す……」
あーあ、壊れちゃった。
ひたすら繰り返される痛みに耐える。
まだ反撃するな…まだだ、今は耐えろ……
「ァ”、ゥ”…ガッ、ン”…!」
「死ね死ね死ね…ッ、オマエのせいだ……」
ラダオクン達が顔を歪めながらつけた最低限の傷じゃあすぐフリだと気付かれる。
遠慮なくつけられた傷跡と、遠慮されてできた傷跡では明確な差がある。
「ゲホッ…ケホッ……ヒュー、ヒュー………」
「ハァッ、ハァ……ザマァ見ろ!!」
すっかり汚れた服の襟元を掴まれて、ズリズリと地面を引き摺られていく。
思ったよりも長い間痛めつけられたせいか、意識が朦朧とする。
いざという時のために帰り道くらいは覚えておきたいのに、それすら出来ない。
「…クソクソクソ」
こんなやつの悪態を最後に眠りにつくなんて…地獄でしかない。
……上手くやれたら、ラダオクン褒めてくれるかなぁ……
あ…フォルムチェンジ、だっけ…しておかないと…散々練習した甲斐あってか、この状態でも簡単にできる。
「…………」
次に目を覚ました時には、何故かふかふかのベッドの上に横たわっていた。
「……?」
ベッドの周囲には薄いレースが垂れている。
天蓋付き巨大ベッド…ここ、何処?
というか、何この格好?
ネグリジェ…ひらひらしててすごく心許ないんだけど…えぇ?
「エェ…?……!」
ぐるぐると状況理解に苦しんでいると、ヒタリヒタリと誰かの足音がした。
「あぁ…本当に美しい……」
「…………」
え…誰よ。
咄嗟に狸寝入りしてしまったせいで、正体の知れない誰かさんはすぐ目の前にいる。
ヒヤリとした指先が頬を滑るように触れて、気持ち悪さに目を開いてしまった。
「おや…起きたのか……」
「ァ”ッ…!?」
ドン、と首元に圧を感じてすぐに頭がクラクラして手足が痺れた。
女の手にはラダオクンを毒殺しようとした時のそれと瓜二つの機械…でも、中身が違う。
「ナニ…ス、ル……ッ、〜ッ?」
「…お人形は話したらいけないのだよ?」
次第に声も出せなくなってハクハクと金魚のように口を動かしていると、ズレたレースの背後に見える異様な光景に目を瞬かせた。
等身大の…ドール……?
ひとつ、ふたつ……数えきれない。
まるで本当に生きているかのようなにめらかな凹凸に寒気を感じる。
「あぁ、気がついたのだな…あれらは妾のお気に入りよ、美しい物は美しい姿のままにあるべきなのだ」
つまり、この人形達は……
「この子らは、妾の厳選した愛い者達よ」
コイツ、狂ってる。
人体実験と称された数々の情報は全てコレだったんだ。
「愛い…そなた、実に愛いぞ……」
妖艶に笑った女は俺の元からスッと離れ、部屋から出て行った。
「……ッ…ッ……!」
声が出ないし、指一本も動かせない。
これじゃあ敵国を崩すどころか、ラダオクンへ報告すら出来ない…いや、なんなら俺の命が危機的状況下にありすぎる……!
あの女!俺の事人形にする気満々だった!!
このまま大人しくしてたら人形にされる!
「……ッ」
どうする?どうすればいい?
魔法だって姿を変える魔法があったら楽だな、なんて考えていたらたまたま出来ただけだから、他にどんなことが出来るのかなんてわからない。
ヘタなことをして取り返しのつかないことになったら……
「……!?」
ミドリゴースト!?
ふわりと壁を抜けて現れた見覚えのある姿に心が幾分マシになった。
どうやってここに来たのか、とか。
ラダオクン達は大丈夫か、とか。
いろいろ聞きたいことはあったけど喋れないし…と困っていると、ミドリゴーストは俺の首元に腰を下ろした。
もっとも、ゴーストに腰なんてものがあるのかどうかはわからないけど。
「……ァ…!?」
声が出る!
それに手足も…まだまだ動かしにくいけど。
「ミ…ッ、ゴ…スト……ラダオ、ク…ニ、報告ヲ…!」
力強く頷いたミドリゴーストに後のことを任せて、俺は室内の探索を始めた。
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