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鶴松(つるまつ)はいわゆる「ノネコ」だった。「ノネコ管理計画」で捕獲され、マイクロチップなど、飼い主の証明がない猫は殺処分される。
鶴松もその一匹だった。筆巻由墨(ふでまきゆすみ)と、仲間たちが、センターから引き出した。鶴松も一緒に引き出された。鶴松という名前は、由墨がつけました。由墨たちが頑張って活動してきたので、今まで殺処分はゼロだ。
鶴松を預かるのは、基藤誠(きとうまこと)と、基藤ひなの夫婦。保護猫を預かるのは鶴松で四回目、保護犬を預かるは今で8回目だ。鶴松は、案の定、シャーシャーと威嚇した。そして強烈猫パンチ、噛みつき攻撃を出した。「鶴松〜大丈夫だよ」そう言ってひっかかれ防止の棒に餌をつけて出すと、シャー!っと言って隕石が落下させるように叩き落とした。それでも、辛抱強く話しかけてくると、シャーシャー言わなくなり、その1ヶ月後、鼻チョンができるようになり、2ヶ月後、普通に少し触らせてくれるようになった。特に夫の誠は、デレデレ。「鶴松〜」と言って、近くによっては警戒されるようになった。しかし、すぐに触らせてあげるのでとても優しい。
ただ、鶴松には問題があった。基藤夫妻は、あくまで預かりボランティアであって、家族ではないのです。そして鶴松は、右目が無かった。そして猫エイズ陽性。完璧に里親が見つかりづらい条件が揃っていた。来週の奄美ノネコ譲渡会にデビューするとサイトで宣言すると、由墨から電話がかかってきた。「基藤さん、譲渡会頑張ってください!うちも預かっている子猫5匹を譲渡会に連れていくんですよ。鶴松は里親が決まりにくい条件かもしれませんが、絶対家族が見つかると信じてます!」そう言ってくれた。
そして当日。緊張気味の鶴松をケージに入れて車で譲渡会場へ向かった。その間、なおーなおーといつもは鳴かない声で鳴き始めた。「気づいてるのかな?」
会場はたくさんの猫で溢れかえっていた。指定された位置にケージを置き、水と少量のご飯とその上におやつを置いた。初めての場所で緊張しているのか隅っこで鶴松は固まってしまいました。
しかし、誰からも声はかかることはなかった。見られることすらなかった。
一年九ヶ月たっても見られなかった。基藤夫婦の保護猫、チビタは、鶴松を拒絶。もう誰からも必要とされていないと言ってもよかった。でも二人は諦めなかった。「右目が無くても生活に支障はない」「猫エイズ陽性の子は、血が出るぐらいの喧嘩をしないかぎり、大丈夫!人には移らない!」など、譲渡会の紹介文やSNSに書いた。そしてちょっと触らせるようになったけど、怖がりで人見知り。ケージからでたのはひなも誠も3回くらいしか見たことないという。「鶴松…」
鶴松は譲渡は無理かもしれない。そう思っていた矢先、「鶴松に会いたい」という声がかかった。
鶴松とお見合いを希望したのは一人暮らしの高山誠子(たかやませいこ)誠子は、四年前、由墨から、マミオという猫を譲渡されていた。マミオは今は、秀吉(ひでよし)と名を変えて暮らしている。歴史人物、豊臣秀吉は側室の茶々(淀殿)との間に生まれた最初の男子が、鶴松だった。しかし、実在の鶴松は数えで三歳で病死した。
これに運命を感じた誠子は基藤さんたちに鶴松のお見合いを希望した。しかし、絶対に実在の鶴松のように病死はさせたくない。と決めて。また、由墨に、「もしよかったら二匹目も考えてみてくださいね」とほがらかに言われた言葉も胸に残っていた。秀吉と鶴松。元ノネコ同士で仲良くやってほしいと誠子は心から思いました。
鶴松は一年以上も里親が決まらなかった。そして右目がなく、猫エイズキャリアだったからなおさら里親は見つかりにくいだろう。せめて保護猫の一匹、迎えようと、電話をかけた。でたのは誠だった。全然里親が見つからないので、会いたいという知らせが会った時のみ、譲渡会へ連れて行くと言うのだ。
会いに行くと、鶴松はケージの奥で固まっていた。久しぶりの譲渡会。緊張しているのだろう。誠子が、「鶴松くん」と呼びかけても無反応だった。でも、この子を迎えようと決めた。
由墨の団体はトライアルは2週間だ。しかし、ケージからでてこないような怖がりなので2ヶ月に延長した。だが、誠子は、次の週に、「正式譲渡申込」を出した。
鶴松は数日で誠子の手に慣れた。先住猫、元マミオの秀吉は、興味津々でケージに手をかけて、鶴松に誘いかけるように小さく鳴いて呼びかけた。
二匹はとても仲が良くなかった。しかし、鶴松は秀吉にマウントを取り始めた。しかし、それもすぐ収まった。誠子は、まるで、鶴松がどれだけ秀吉は自分をかわいがってくれるだろうと試しているようだと思った。
とにかく鶴松は秀吉が大好きだった。父息子のように、兄弟のようだった。いつも秀吉に甘えては毛づくろいしてもらう。でも秀吉は実在の秀吉とは違い、おっとりとした性格で鶴松を受け止めた。とても甘えん坊の鶴松と、とてもいいお兄ちゃんの秀吉。
誠子は、別室にいる秀吉を撫でる。すると、なぜか鶴松もすっ飛んできて、撫でて撫でてと猛アピール。秀吉は、「はいはい。どうぞどうぞ」と優しく弟に譲ってくれるのだ。
基藤夫婦の家には「すえ」という名前の新しい猫が人馴れを進め、家族を見つけるべくやってきたのだった。