第5話:「親友の定義」
《The End Talk – 最終ステージ 配信会場》
広大なホールの中央。
光のリングが一人の男を浮かび上がらせていた。
田中蒼。
彼は“スピーカー”として、ついに最終ステージへと立った。
満員の観衆、スクリーン越しの数十万人の視聴者、
そして――ステージ脇には、狐面の男と、笑みを浮かべた山本蓮の姿もあった。
「これは、僕の真相だ。三年前、何が起きたのか。そして……なぜ、僕は“黙っていたのか”。」
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《3年前の夜――回想》
翔から渡された録音データ。
そこには、悠斗と誰かの会話が録音されていた。
悠斗:「蒼のやつ、騙しやすいんだよ。正義感強いくせに脆い。
あいつに罪をなすりつけて、あとは“翔を黙らせる”。
誰も気づかねぇよ」
蒼は、その音声を聞きながら、
握ったスマートフォンをゆっくりと閉じた。
翔は言った。
「悠斗はもうだめだ。あいつは俺たちを“利用”してるだけだ。
でもな、蒼……“お前だけは信じたい”。」
蒼は、言葉を失っていた。
(……やめろ。やめてくれ。
俺の中の“親友の定義”が、崩れる……)
翌朝、蒼はデータを削除した。
証拠を消したのだ。
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《現在》
蒼は、壇上で告白する。
「僕は、親友を選んだ。
翔じゃなく――悠斗を。
……その選択が、翔の死を生んだんです」
重い沈黙のなか、誰かがつぶやいた。
「お前は最低だ」
だが別の誰かが言った。
「いや、違う。
これは――誰にでも起こり得る、普通の“弱さ”だ」
観客の間に、揺れが広がる。
「正直に言ったあんたは……少なくとも嘘つきじゃない」
その声に、蒼は小さく目を閉じた。
画面の端に、“リアルタイム投げ銭”の表示が現れる。
1万、5万、10万――
そして100万を超えた時、
ステージの照明が再び暗転し、次のスピーカーの名が告げられた。
──小林悠斗。
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《舞台裏・配信準備室》
狐面の男がぽつりと呟いた。
「“真実”を話した者が、報われるとは限らない。
だが――“話す勇気”を持った者は、選ばれる」
蓮が、笑った。
「さて、蒼さん。次は悠斗の番です。
彼が何を語るか……楽しみですね」
蒼は言った。
「今度こそ、全部暴く。
“親友”って言葉を、俺はあいつにぶつけるためにここに来たんだ」
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