「確かに、それは一理あるかもな。まあ何にしても、向こうが厄介な弁護士を雇って来た事で裁判までスムーズに事が運ぶとは思えない。相手は金で何でも解決出来ると思ってるクソ野郎だ。何かして来るかもしれねぇしな」
「…………」
啓介さんのその言葉に、私は少し不安になる。
「大丈夫、何かして来ても俺が璃々子さんを守るから、心配しなくていいよ」
「由季くん……」
そんな私を安心させようと、由季くんは自分が守るから心配しなくていいと言ってくれた。
「そうは言うがな、由季、お前は璃々子さんの事になると周りが見えなくなる事が多いからな、彼女が不利にならないよう、とにかく気を引き締めて生活しろよ?」
「分かってるよ……」
「ならいいけどな。さてと、それじゃあ俺は少し外に出てくる。戻りは夕方になるから、それまで留守番頼むな」
「あれ? 今日は出掛ける予定無かったはずでしょ?」
「その予定だったが、さっき打ち合わせが途中になっちまったから先方にその詫びと残りの打ち合わせをして、ついでに銀行やら役所にも行きてぇから纏めて済ませてくる」
「そっか、分かった、行ってらっしゃい」
啓介さんが出掛けてしまった事で私と由季くんの二人が事務所に残り、遅めの昼食を取っていた。
そんな時、私のスマホに電話が掛かってくる。
「璃々子さん、どうかした?」
ディスプレイを確認した私の様子がおかしいからか、心配そうな表情を浮かべた由季くんが声を掛けてきてくれた。
「……貴哉から、電話が掛かってきたの…………出た方が、いいかな?」
電話の相手は貴哉からで、スマホの画面を見せながら出た方がいいかを問い掛けると、
「うん、ひとまず出て、何の用か聞いてみた方がいい。大丈夫、ここにアイツは居ないし、俺が付いてるから」
「……分かった」
出てみて、用件を聞く方がいいと助言をもらった私は由季くんに見守られながら電話に出る事にした。
「……もしもし」
『お前さ……本気な訳?』
「え?」
『離婚だよ。本気で考えてんのか?』
電話に出ると、貴哉は挨拶どころか前置きもなくいきなり話を始めてくる。
「……そうだよ。冗談でそんな事言う訳ないでしょ?」
『……はぁ、あのさぁ、お前きちんと考えた上で言ってるのかよ?』
「勿論」
『いや、何も考えてねぇよ、お前。俺らの結婚は、俺らだけの意思じゃなかった事を忘れたのかよ?』
「……そ、それは……」
『この事、まだ親に話してねぇんだろ?』
「そうだけど……」
『今ならまだ、許してやる。だから帰って来いよ。俺も悪かったって思ってる。反省もしてる。だから、今帰って来るなら俺はもうこの件に関しては何も言わない。全て水に流してやるから』
「……な、何言ってるの? …何でそうなるの? そんな、まるで私が全て悪いみたいな言い方……」
『だってそうだろ? 確かに、女と寝たのは確かだ。それは認めるけど、あれは相手が誘って来たから魔が差しただけだ。本気じゃねぇ。俺が愛してるのはお前だけだよ、璃々子。お義父さんやお義母さんも、俺らが別れるなんて言ったら倒れちまうぞ? な? 考え直せよ』
反省なんてしていない事は分かっていたけど、やっぱり貴哉は何も分かってない。
コメント
2件
魔が指しただけで女と寝るの?凄い言い方よね。 女を馬鹿にしてんの?