窓からの景色は真っ暗で何も見えない。もう夜になってしまったのか。今日もお客さんはなかなか来なかった。お金の計算をしている中、窓を打ち付ける音がする。風がヒューヒューと吹いているようだ。カレンダーをふと見てみる。今日は11月26日。
まだ、11月なのか、肌寒いな。
僕は貧乏だから、ふわふわなコートなんてものは持ってはいない。
震えた手でただただ、貴重なお金の計算をしている。
すると、
「今日はどれぐらい稼げたかい?」
と後ろから母さんの声が聞こえる。いつの間に表に…。
「これくらいです。」
と今数えているお金を見せる。
すると、突然、パチンと共に自分の頬が熱くなる。
今、何が起った?もしかしてまた、叩かれた?
母さんの方を向くと、鬼のような形相で
「これくらい?昨日と変わらないじゃないか。」
と怒鳴り声が店内に響いた。
「申し訳ありません…。」
僕はただ下を向いて謝ることしかできなかった。母さんのあんな顔を見たくはなかった。
「これだから、本当に使えない。夕食は抜きだよ。」
その言葉を聞いて、すぐさま顔をあげて、立ち去ろうとする母さんの後姿を見上げた。
「…そんな。」
「なんだい?何か言い訳があるのかい?」
ギロッと睨む顔を見て、すぐさま
「……いえ、なんでもございません。」
また、下を向いて謝った。涙が出てくる。泣いている顔を母さんには見せたくなかった。きっと怒られる。情けない顔だとまた怒鳴られる。
「まったく」
また、ドアを乱暴に閉められる。店内には沈黙が広がる。先ほどまでの窓も音も今は聞こえない。
昔は明るくて、面白くて、優しい母さんだったのに、とまた過去の記憶に縋ってしまう。もう今までの父さんも母さんもいないのに…。
「ねえ、ハッタ。見て!」
母さんの明るい笑顔に釣られて、僕も笑顔になってしまう。
「どうしたの母さん。」
母さんが僕に見せたのは黒と白のチェック柄が特徴的なチョッキだった。
「これで、少しは寒さをしのげるかなって思って作ってみたの。着てみて」
母さんは昔から編み物が大好きで、よく僕にニット帽やチョッキなどの服をプレゼントしてくれた。
「どうかな?」
照れながら母さんに見せると
「あら?似合っているわよ。良かった、サイズピッタリで…どう?気に入った?」
「うん。とっても。母さんありがとう。」
感謝を伝えると、さらに輝かしい笑顔を見せて
「ううん。いいの。気に入ってくれてうれしいわ」
と優しい声で言った。
今ではそんなプレゼントもない。あの時貰ったチョッキもタンスの中に大事にしまっている。ボロボロにしちゃうのは嫌だから。となかなか着れずにいる。多分、母さんも父さんも今はそんな思い出なんて忘れちゃっているのだろう。僕だけが、暖かい思い出の余韻に浸っている。僕だけが思い出に閉じ込められている。
僕だけが、孤独に感じている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!