__2024年、8月。
今年の夏も相変わらず気温が高く、嫌な暑さが人々の体に纏わりついていた。
「こんなあっちぃ日は、冷房をガンッガンに付けた部屋でアイス食うに限るよなぁ……」
皆が部活や仕事で汗を垂れ流している中、彼女は一人、少し肌寒い部屋でアイスを頬張っていた。
右手にはアイス、左手にはスマホと、随分だらけているようだ。
「そんなにアイスばっか食ってたら腹壊すぞ」と、彼女とグループ通話をしていたとある男が忠告する。
はいはい、と軽くあしらった彼女だったが、ふと、腹部に違和感を覚えた。案の定腹痛だ。
「冷たい物ばっかり食べてるからネ。漏らされても困るし、早くトイレ行って来いヨ。」
同じくグループ通話に参加していた彼女の友人が、早く便所に行けと面倒臭そうに言う。
「うぇ〜ん」と泣き真似をしてから、馬鹿な彼女、雪はそそくさと便所へ向かうのだった_。
「ねぇ、夏祭り行かない?」
便所から戻ってきて開口一番、雪はそう提案した。
その後に「ただいま」と告げ、とあるポスターをスマホに映す。
「見て、夏祭りのポスター。今夜!」
目をキラキラとさせて反応を待つ雪に、呆れた様に暁は言った。
「お前、あんなに暑い暑いって言ってたのに、外出するつもりか?」
「夜なら、少しは涼しくなってるんじゃない?俺は全然賛成だよ! 」
「私も、ランネ様が行くなら……。浴衣姿のランネ様を見たいので……。」
七緒と希李菜は、夏祭りに行くのは賛成らしい。
口々に夏祭りの良さを語り出す3人の熱意に押された暁は、心底怠そうにため息を吐いた。
「ワタシも全然おっけーネ!今からでも行けるヨ!!」
「僕も、夏祭りに行くのは賛成だぞ!夏休みに入ってから、全然外に出ていないし、少しは歩かないとな!」
ランネとアビスも賛成の意を示す。
味方が居なくなったと気付いた暁は、渋々降参し、夏祭りに行く事を約束してくれた。
「よっしゃ!皆浴衣着てきてね!約束!」
スマホの画面に向かって小指を向ける雪に、皆楽しそうに小指を差し出す。
「ゆーびきーりげーんまん、うっそつーいたらはーりせーんぼーん……」
「のーます!」
「ゆーびきったっ!」
エア指切りげんまんをしてから、雪はアイスの袋に手を伸ばす。
「ストップ。流石にもう辞めておきなさい。またお腹壊しますよ?」
「ちぇー。」
希李菜の言葉に止められ、雪は拗ねたように手を引っ込めた。
そんな雪の様子に皆苦笑しながら、それぞれ退出ボタンを押す。
今夜の夏祭りの準備である。
「あー、楽しみだなぁ。」
皆が抜けた事を確認し、雪も通話を終了した。
スマホを枕にぶん投げ、のそのそと立ち上がり、タンスに近付く。
「浴衣、持ってたっけ…」
制服や私服を退けて、奥の方まで見てみる。
どうやら浴衣は持っていないようだ。
「買いに行くしか無いか…、お金、あんまり無いんだけどなぁ……。」
もういっそ、友人の夏希に浴衣を借りようかと思っていた、その時。
ふわふわの枕に沈んだスマホに、何件かのメールが来ていたことに気が付いた。
「あ…ひぎちんと、月海ちゃん?舞ちゃんからのメールも来てる。 」
皆のトーク画面を開き、未読の部分を確認する。
皆、「夏祭り、一緒に行こう」という内容の物だった。
「そういえば去年、皆に『来年は一緒に行こうね♡♡♡』って言ってたんだっけ。」
去年の自分も気持ち悪い発言に吐き気を覚えつつ、雪はどうしようかと考える。
「…もう、どうせなら友達全員誘って行こうかな…。うん、もうそれでいいや。」
考える事が面倒臭くなったのか、はたまた真剣に考えた結果がこれなのか。
馬鹿みたいな事を思いつつ、雪は財布を手に取って家から飛び出した。
続く
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こうして遠足が始まったのであった……
雪ちゃんのこう言うノベル新鮮で嬉しい めっちゃ大変そうだけど頑張ってね〜!