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「まな板の上の」
🟦🏺
「で、反省した?」
青井が文字通り鬼の形相でつぼ浦に迫る
「わかんねぇっす」
口をとがらせたつぼ浦が不満そうにそれに応える。
場所は本署の駐車場。遠巻きに署員が対応課の仕事を眺める中、つぼ浦は地べたに正座させられていた。その前に腕組みをする青い鬼が立っていた。
「自分がなにしたかもう一度最初から言ってみて」
「んだよ、半チャーハンの車をちょっと小突いただけって言ってるだろ」
「ヴァンさんの車を理由もなく突然バットでボコボコにした、な。それから?」
「神崎が邪魔なところに違法駐車してたからどかしてやったぜ」
「救急隊の車、しかもライデンを盗んでヴァンさんからの逃走に使用。治療行為を妨害、ね。それと?」
「なんだよ、さっきから人の善意を罪みたいに言いやがって」
「罪なんだよ!器物損壊、公務執行妨害、あとなんだ?神崎が轢かれたって言ってたからプレイヤー殺人も入るな?そのあと病院の入口をグレで爆破したのはなに?なにがお前をそんな駆り立ててんの??」
まだなにかクドクドとお説教をしてくる青井の言葉をつぼ浦は無心で聞き流す。正義は常につぼ浦にあり、つぼ浦にしてみれば悪を退治しただけだった。青井のほうがよほど特殊刑事課の公務執行妨害だ。反省の色など一つもないまま、アスファルトの上で正座する足の痛みのほうが気になって仕方がなかった。
飼い主が留守中のいたずらがバレた犬のほうがまだ後ろめたい顔をするだろう。反省の色が1ミリもないつぼ浦を見て、青井は盛大に溜息をついた。
「ア、溜息つくと幸せが逃げちまうぞ」
「お前が逃がさせたんだよ!ったく、これだからつぼ浦はさぁ……!!」
ついに堪忍袋の緒が切れた青井はつぼ浦の襟首を掴んで身体を引き起こした。そして鬼のマスクが鼻先に触れるほど顔を近づける。
「二度と悪さできないように、足腰立たなくなるくらいガタガタに抱いてやる」
「へ、え……ッ??」
怨嗟の声を叩きつけられ、つぼ浦の背筋がゾクリと凍った。黒い鬼の目の向こうも闇のように真っ暗で、青井の猛禽類のような爪だけがつぼ浦の首筋にしっかりとかかっていた。
「覚悟しろよ、今日という今日は許さん」
「エッ、イヤ、待てよ落ち着けって、んなことしたら……」
殴る蹴るの暴行ならまぁまぁ許せてもこれにはさすがのつぼ浦も動じずにはいられなかった。腹の奥がきゅうっと締まるような気配を感じて無意識に唾液を飲み込んだ。
普段のセックスではつぼ浦のほうが先にへばってしまうことが多く、それがつぼ浦にとっては悩みのタネでもあった。一度だけ青井が満足行くまで抱いてもいいぞと許可したことがあり、……その時どんな目にあったのかを思い出して身体が勝手に熱くなってきた。
しかしここは衆人環視の只中だ。さすがの青井もなにかするわけがない、いやここまでブチ切れているならなにをするかわからない。その瀬戸際でつぼ浦は唇をわななかせた。
右手で襟首を掴んだまま、青井の左手がつぼ浦の頬に触れそうになった。その瞬間通知音が鳴った。ユニオンヘイストの通知だった。
『らだお、ヘリ出せる?』という無線に青井は二つ返事で答える。急に手を離されてつぼ浦はドサリと投げ出された。
「くっそユニオンかよ……いい?またなんかやったらもっとブチブチにしてやるからな」
つぼ浦のことを強く指差しながら青井は署内へと立ち去った。駐車場で遊んでいた他の署員たちも足早に消えていき、情けなくへたり込んだつぼ浦だけが残された。
「ガタガタ……って、ブチブチ……って」
青井の吐いた擬音が頭の中をぐるぐる回る。
地下ガレージから出てきたパトカーに追い立てられ、つぼ浦はのっそり立ち上がって場所を譲った。ほどなく屋上からヘリが一機飛び立った。迷いのないスムーズな飛行は青井のヘリだろう。
「……チクショウ、どうすりゃいいんだ?」
つぼ浦にとって自分の命は掛け金にもならない。しかし青井しか暴いたことのない、身体の一番深いところを掴まれてどうしたらいいのかわからなくなってしまった。
逃げても無駄だろう、青井はどこまでも追ってくる。同様に隠れても無駄だ。つまりつぼ浦は料理されるのを待つまな板の上の魚だった。
所在なく駐車場を歩き回るつぼ浦の耳に銀行強盗の通知音が聞こえた。しばらくしてからキャップの大声が無線から響き渡った。
『つぼつぼ、いるか!?ちょっと来てくれ、埒が明かない!』
『……アー、なんすか?』
『スドバ横だ!早く来い!』
まったく気が向かなかった。しかし上官命令なら行かないわけにもいかない。なにしろこれ以上青井の機嫌を損ねることをしたらどうされるのかわからないのだ。
ガレージから自分のジャグラーを出し、つぼ浦はゆっくり安全運転で銀行へと向かった。
*
銀行前は騒然としていた。犯人が人質に取っていたのはキャップだった。
「キャップぅ!大丈夫ですかー!!」
ジャグラーから飛び降り、心にもない心配のセリフを吐きながらつぼ浦は両手をフラフラ上げた。ピースサインをつくってやろうかとも思ったが青井の鬼のような顔(※比喩ではない)を思い出して思いとどまった。
「つぼつぼ、私ごと撃ちなさい!お前ならできるだろ!」
「アァ?!何いってんすか」
「逃がすよりマシだ、こいつ埒が明かないんだよ!」
なるほど、交渉の余地がないから自分が呼ばれたのか。つぼ浦は一瞬でキャップの意図を汲み取った。おもむろに背中に背負ったロケランを構える。
「キャップを人質にとったのが間違いだったなァ!!」
指が引き金にかかる。その瞬間、青井の言葉が脳裏をよぎった。──これ以上正義(悪事)を働いたら自分はこのあとどう料理されてしまうのだろうか?
銃声が響く。ぶち抜かれたのはキャップだった。ぶち抜いた犯人が銃を片手に威嚇射撃をしながら車に飛び乗り逃走していく。呆然とロケランを肩から下ろし、つぼ浦はなぜか高鳴ったままの心臓を持て余した。
「な、なにやってんだつぼつぼ?!」
「キャ、キャップ~!!大丈夫ですかぁー!!」
「お前だよ!私ごと撃てと言っただろう!」
「命を粗末にするのはよくないっすよ!チクショウ、やられちまいましたね」
「イテテテ、だからお前だっつーの!ていうか追いかけなさい!」
「イヤ、その……」
犯人の車は通りの向こう、どこの角を曲がったのやらとっくに見えなくなっていた。
チェイスをして、もしいつものように事故を起こしたら?市民の車に突っ込んでクレームが入ったら?つぼ浦は犯人を追いかけるべきかどうかもわからなくなってしまった。
何しろ今人質に取られているのはつぼ浦自身の身体なのだ。青井の機嫌次第でどんなところまで暴かれてぐちゃぐちゃにされるかわかったものではない。
青井はセックスのときはなんだかんだつぼ浦を優しく扱っている。気遣い抜きで犯されたら自分はどうなってしまうのか。たまにしかされない、でも死ぬほど気持ちいい瞬間を思い出してしまい、腹の奥深くがキュンとして思わず口から「あ」と声が漏れた。
「あれーつぼ浦さん、加勢に来たけど遅かったっすか?」
背後から声をかけられてつぼ浦の肩が大げさなほどビクッと跳ねた。
「な、なんだカニくんか。オウ、もう片付いたぜ」
「片付いてないだろ?!早く救急を呼びなさい!」
つぼ浦の足元でギャンギャン怒るキャップを見て成瀬はゲラゲラ笑っている。つぼ浦は二人から顔を背けて汗ばむ手で救急無線に入って救助を要請した。まかり間違ってもなぜ汗だくなのかを悟られたくなかった。
「か、カニくんはユニオン行かなくていいのか?」
「あのらだお先輩が、空の悪魔が研修ついでに新人連れてるから俺はクビっすよ。ていうかつぼ浦さん、探してたんっすよ!」
「どうしたんだ?」
「ギャンブルっすよ、ギャンブル!どうっすか?MOZUの奴らとこのあと勝負するってふっかけてきたんすよ、俺だけだと心細いんで」
「そ、そうなのか」
MOZU、という言葉を聞いて半チャーハンもといヴァンダーマーの顔がつぼ浦の頭の隅を駆け抜けた。続けてムシャクシャしたからボコボコにした高級車、埒のあかない口論、次見つけたら沈めてやる!というヴァンダーマーの遠吠えが耳元をかすめた。
「どっすか?つぼ浦さんもMOZUの財布空っぽにしてやりたいっしょ」
「そ……うだな、悪いな、俺はパスだ」
「えぇ?!どしたんすか、腹でも痛いんっすか?!」
「か、金がねぇんだ。掛け金がなきゃ勝負にもならないだろ?」
「なに?!つぼつぼお前、また経費申請ちょろまかしたって聞いたぞ?もう使ったのか?!」
上司からのいらない援護射撃が入ってつぼ浦は息を飲んだ。つぼ浦としては真っ当に生きているつもりなのに不思議なことに叩くとすぐにホコリが出てしまう。
「アー、き、寄付!寄付したんでスッカラカンっすよ!」
「なんだ寄付って?!」
「デスマウンテンの頂上の賽銭箱に、警察の繁栄を願って全額突っ込んだんで金ねぇんっすよ」
「つぼ浦さん、どうやって銀行残高を賽銭箱に突っ込んだんですか?あ、もしかしてブラックマネー……」
「お前、まさかマネロンしたんじゃないだろうな?!」
「チクショウ、なんもしてねぇっす!俺はなんもしてねぇんだ!!」
つぼ浦は思わず頭を抱えた。口から出たでまかせなのになのにありとあらゆるつぼ浦の「前科」がそれを勝手に補強する。今日だけは潔白でいないといけないのに過去の経歴が全力で足を引っ張ってくる。
混乱する只中に救急隊の赤いヘリが舞い降りた。降りてきたのはよりにもよって神崎だった。つぼ浦を見つけるなりとんでもない形相で指をさしてくる。
「お、お、お前ェ?!こないだの俺の治療費と玄関の修理代払えよ!」
「な、なんのことだ?」
「とぼけるんじゃねぇ!俺だけならまだしも病院の入り口までぶっ飛ばしやがって」
「まだしもならお前は良かったってことだな」
「よくねぇよ!何聞いてんだてめぇ!病院のほうもなんとかしやがれよ」
「建付けが悪かったから直してやっただけだぜ」
「こいつ、ああ言えばこう言いやがって……!じゃあ給料から天引きしてください、そういうのできますか?キャップ」
「ああ、いいぞ。警察は救急隊の味方だからな」
「キャップぅ……!?」
迷いのない返答につぼ浦は情けない声でキャップにすがりついた。しかしキャップの治療を始めた神崎にあっさり引っ剥がされる。
「これもどうせお前が撃ったんだろ?!大変でしたねキャップ、今治しますからね」
「んだとコラァ……!?」
怒りが頂点に達してつぼ浦は再びロケランを担いだ。いつものように目障りな連中にロケット弾をぶちかましてやろうとして、しかし青井の言葉がそれを引き止めた。
「うおお何だお前!?」
「癇癪はやめなさいつぼつぼ!!?」
「ッ……!命拾いしたなァ!!」
今はつぼ浦がなにかするたびに、つぼ浦の身体がより一層ぐちゃぐちゃにされる未来が迫るだけだった。
どうあがいても逃げられない。神崎の罵声を聞き流しながら、つぼ浦は身体がうずくのを感じた。
*
その後、つぼ浦はなるべく波風を立てないようにコソコソ立ち回った。事件対応を終えた青井と遠くで目があうこともあったが、まだ忙しいようですぐに行ってしまった。
青井に成瀬が近づいていき、なにか会話しているのをつぼ浦は駐車場の植え込みの陰で見張っていた。なにかチクられているのではあるまいか?青井の怒りゲージが増えているのではないか?不安になればなるほどそれとは裏腹に、つぼ浦の身体はモゾモゾ、ジワジワと落ち着かなくなってくる。
絶対に逃げられないし、回避も不能なおしおきがすぐそこで待っている。それがいつ振り下ろされるのかわからない。青井の手が空き次第、自分はいつでもガタガタにされてしまうのだろう。
つぼ浦はソワソワしたまま署内に入ってオフィスの隅にでも隠れようとした。しかし角を曲がった瞬間、他ならぬ青井とはち合わせた。
「ア、アオセ、ン!?」
「あーつぼ浦、後でね」
それだけ言うと青井は足早にいなくなってしまった。「後で」という言葉だけがつぼ浦の腹に突き刺さった。
「あと、って、いつ……どこでだよ」
身体が一気に熱くなって、つぼ浦は更衣室に駆け込んだ。奥の鏡には真っ赤な顔で冷や汗をかいている自分の姿が写っていた。
つぼ浦は急に思い出した。ここで青井にキスをされたことを。いつ人が入ってくるかもわからないのに体中まさぐられて、耐えられなくなったつぼ浦は青井にお持ち帰りされたのだった。
「グッ……!!だ、だめだ、ろくでもねぇ!!」
今思い出してはいけないことだった。むやみに沸き立つ身体を押さえつけ、つぼ浦は更衣室を飛び出していつもの二階の休憩所に駆け込んだ。
ここはつぼ浦の安息の地だ。呼吸を落ち着かせようと努力しながらソファーに座る。見慣れた自販機と、低い地鳴りのような動作音。ふう、と息を吐いたつぼ浦の脳裏をなにかがよぎった。
また思い出した。ここで寝ている自分にキスをして、あまつさえ寝顔を録画までされたことを。ドアのある更衣室よりよっぽど人が通ったら言い逃れができない。見られるかもしれない恐怖を強引に快感に変えられて、イチャイチャ唇を重ねたことを思い出してつぼ浦は猫のように飛び上がった。
「チ……クショウ!!なんでだよォ?!」
どこにいても青井の鉤爪が身体にかかっていて、いつでもギタギタにされる恐怖がつきまとう。
あれだけ怒っていたのだから人前でされるかもしれない。反省しましたと言うまで許されないし、あられもなく謝る姿をこれみよがしに録画されるかもしれない。
青井ならやりかねない。背筋が凍るのと同時に身体の奥がじんじんして、つぼ浦は何度も首を振った。
*
あらゆる業務を無視してつぼ浦が二階の使われていない倉庫に立てこもって数時間。大型対応も落ち着きチルタイムになった頃、つぼ浦のスマホが鳴った。青井からだった。
『つぼ浦ー、どこいる?』
『お、おう、どうした?』
『んー、いろいろ終わったから帰ろうよ』
覚悟を決めて出たというのに電話の向こうの恋人の声はいつもと変わらない呑気なものだった。帰ろう、つまり青井の家に来いと言われてつぼ浦は小さくうめいた。
『ん、グッ……い、いいぜ』
『駐車場で待ってるね、じゃあね』
ブツッ、と通話が切れて初めてつぼ浦はすごい力でスマホを握りしめていたことに気づいた。
ついにきた。まな板の上の魚が美味しいお造りにされる時が来た。自分から捌かれに行くのは滑稽だろう。しかし逃げればもっとろくなことにならないのはつぼ浦にもわかっていた。
何度も深呼吸をして、一歩一歩階段を踏みしめて、つぼ浦は牛よりも遅い歩みで駐車場へと赴いた。青井のイグナスが停めてあるのを見て喉から小さく悲鳴が漏れた。それでも唇を食いしばって車の横へと足を進めた。
「……なに?乗っていいよ」
助手席の前で立ち止まるつぼ浦に青井は怪訝そうに言った。つぼ浦は「ア」とだけ声を絞り出して車に乗り込んだ。
「今日もお疲れ、行こっか」
「ハイ」
震える声のつぼ浦を乗せて車は走り出した。
走り出してすぐに青井は鬼のヘルメットを脱いだ。あらわになった顔は少し疲労感があり、すわった目のまま前方を見据えている。たまに青井がため息をつくだけで会話はなく、淀んだ空気が車内を流れる。
これからなにをされるのか、口の中に湧き上がる唾を飲み込んでいると車が妙なところで止まった。つぼ浦の心臓が跳ね上がる。
「……アオセン、まさか……」
「ん、なに?ガソリンないから入れてくね」
「お、おう、なんだよ」
車はUターンして最寄りのガソリンスタンドへと進路を変えた。──このまま暗がりにでも入って車の中でされるのかと思った、という妄想をつぼ浦は唾といっしょに飲み込んだ。なにしろ前科がある。青井ならやりかねない。
給油を終えた車は普段とは違う道を走っていく。この先にある街区を思い出してまたしてもつぼ浦の心臓が爆発しそうになった。
「アオセン、その、行くんすか……?!」
「はぁ?どこに?」
青井は疲れ切った怪訝な顔をしている。車は角を曲がり、いつものルートに戻った。
道の先にあったのはいわゆるホテル街だった。ホテルなら色々揃ってるし、処理も楽だ。何度も使ったことのあるネオンサインがちらりと見えた。いつも以上にギタギタにされるならここなら充分だろう、というつぼ浦の妄想はまたしても胸の中にしまわれた。
ということはやはり家で「おしおき」されるらしい。つぼ浦が両手を膝の上でそろえてぎゅっと握っているうちに車は慣れ親しんだ愛の巣、青井の家についた。
「あぁ~~疲れたぁ、マジで疲れた」
玄関を開けるなり倒れ込むように青井がうめいた。
「お疲れ様、です」
緊張のあまり敬語が飛び出すつぼ浦の腕に青井の白い手が触れた。ついに来た、つぼ浦は肩を震わせた。
「先にご飯にする?どうする?」
「た、食べてから……するのか?」
「シャワー先でもいいよ。てか俺先に入りたいかも、疲れたわー」
ベストや手袋をポイポイ椅子の上に脱ぎ捨てて青井はぼやいている。つぼ浦は気まずそうにモジモジして腕組みする手を何度も組み替えた。
「俺、後でいいぜ。準備……するし」
「ふぅん……?なにが?」
「だ、って、するんだよな?」
「え、なにを?」
「だから、お……おれの足腰、立たなくなるくらい、ギタギタに……」
自分で自分の処刑方法を改めて言うと火が出るほどに恥ずかしかった。Tシャツの裾を掴んで顔を真っ赤にしているつぼ浦のことを、しかし青井はぽかんと眺めた。
「なんだっけそれ」
「アァ?!あ、アオセンが言ったんだろ?!俺に、お、おお、おしおきするって!」
「ええ?ああ……あれそんなに気にしてたの?」
青井の驚愕の声がつぼ浦の頭をひっぱたいた。半日分の苦悩が、羞恥が、期待が一瞬でぶち壊された。
「チクショウ、ジジィの記憶力舐めてたぜ!!」
「あぁ~?!誰がジジィだって?!」
つぼ浦は恥ずかしさを怒りに変えて青井にぶつけた。色んな場所で色んな方法を想像してドキドキしたのがあまりにも恥ずかしい。サングラスの向こうの目がちょっとうるんでるのに気づいて青井は声を出して笑った。
「なにお前、あれでおとなしくなってたの?あんな脅しひとつで?いいこと知っちゃったな」
「チクショウ、詐欺だぜ、詐欺罪だ!!」
「でもその気になってたんでしょ?逃げてもよかったのに」
「……逃がすわけないだろ、アンタ」
「それはもちろん」
すっと伸ばされた青井の手がつぼ浦の襟首を掴んだ。
「言葉だけで大人しくなるんなら、ちゃんとおしおきしたらもっと従順になるのかな?つぼ浦は」
茶番の空気を打ち消して、途端に真剣な気配を感じてつぼ浦は襟元を押されるままに一歩一歩下がった。
青井の青白い顔は人を食う鬼のようだった。うまく笑い話にできたはずなのに、ここにあるのはつぼ浦の半日分の妄想の続きだった。
「お前、快楽慣れしてないからいつも抑えてんだけどさ。毎日立てなくなるくらいブチ犯したらさすがに大人しくなるよねぇ?」
「アオセン……っ」
「腰もガタガタになってさ、お腹ん中気持ちよくて歩けないくらいいっぱい突いたら俺の頭痛の種も消えるかな」
つぼ浦の足がソファーにぶつかった。それでも胸をぐいっと押されてそのままソファーに押し倒される。つぼ浦にのしかかる青井の顔は愉悦そのもので、嗜虐心を隠さずにつぼ浦を見下ろしていた。
「どう?つぼ浦。いや?」
「い……」
「いやじゃないよね?だっておしおきなんだからね」
有無を言わさず青井の両手がつぼ浦の頬を挟んだ。取って食われる気配を感じてつぼ浦は無我夢中で手足をばたつかせる。
「へ、は……ッ、や、いやだアオセンっ、謝るから!!」
「やじゃないでしょ?期待してたんじゃないの?さっきもお尻準備する気満々だったんでしょ。なにが嫌なの?」
「歩けなくなるの、困るだろ!」
「そしたら俺が世話してやるよ。つぼ浦は一日中ずっと気持ちよくなってるだけでいいんだよ」
「よくねぇ!そんなの、へ、変になっちまう」
「変にさせたいんだよ。あーもう面倒くさいなぁ、つぼ浦……」
青井の顔が近づいてきてつぼ浦は唇を噛み締めた。すわった目とその下の色濃いクマがつぼ浦を見つめている。
唇が触れる直前、ぐぅぅっ、という大きな音が響いた。青井の腹からだった。
「ああもう疲れた、無理っ、今日本当にむり」
その音を契機に青井は手を離してつぼ浦の胸元にぱったりと倒れ込んでしまった。そのまま顔を擦り付けてソファーに倒れたままのつぼ浦に抱きついている。
「あ……ああ??」
「ユニオン大変だったんだよぉ……新人もいたし、そのあとリグもアーティもあるし……なんか飛行場すごい歪み方して揉めたし」
鬼のようだった恋人がただの甘えモードになってしまった。つぼ浦はじたばた振り回していた両手の行き場をなくし、しばらく悩んでから青井の背中にすとんと回した。
「おしおきとかする体力ない、無理、本当に無理」
「んだよ、ざまぁねぇな……」
「本当だよ、……だからお前もちょっと加減してよね」
ぎゅうっと抱きしめられてつぼ浦はハッとなった。そもそもこうなったのも全て、つぼ浦のいつもの暴風のような騒動の結果だった。
「まぁ……仕方ねぇな、アオセンがかわいそうだから考えてやってもいいぜ」
「言っとくけど俺は気にしないから。いつでもどこでもお前をギタギタにできるからな」
「お年寄りは無茶しないほうがいいっすよ」
「あぁ~~~!?じゃあ今やったろかぁ?」
青井がイライラと顔を起こすが、またしても腹がぐうと鳴った。つぼ浦は労るように背中をポンポン撫でる。
「飯にしようぜ、とりあえず」
「親子丼がいいー」
「任せとけ、そこで寝ててくれよ」
自分の上から引き剥がした青井をソファーに寝かせ、つぼ浦はキッチンへ向かった。
つぼ浦が二人分の親子丼を手にリビングに戻ってくる頃、青井はソファーの上でいびきをかきながらぐうぐう眠っていた。
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後日一回くらいはぐちゃぐちゃにされたと思います😀
勝手にこの先の期待というか不安というか……で、普段はそんなこと考えないのに色々妄想しちゃうの可愛いですよね
コメント
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ああ、このエピソードめちゃくちゃ面白かったです……!つぼ浦の「逃げられない」感が全編に張り詰めてて、でもそれが期待と恐怖の入り混じった変な高揚感になってて、読んでるこっちまでソワソワしました。特に「ガタガタ」「ブチブチ」っていう擬音が頭の中でループしてるところ、彼のパニック具合がすごく伝わってきて笑っちゃいました。でも最後に青井が疲れて甘えモードになって「親子丼がいい〜」ってなるギャップが可愛すぎて……。つぼ浦が自然に「飯にしようぜ」って受け入れるところも、二人の関係性がよく出てて好きです。設定の積み重ねが効いてる回でした!
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