この物語は、ある少年が男子高校生に頭を下げる事から始まった
「お願いします。お兄ちゃんを…助けてください」
目の前にいる少年に、俺は断る事ができなかった
授業が終わるチャイムが鳴り、教室中が一気に賑やかになった
そんな彼らを横目に廊下へ出て適当に友達と話をして目当ての彼の元へ向かう
「さとみくん」
「よ、莉犬」
幼稚園の頃から一緒のさとみくん
壁に背を預け窓の外を見ていた藍色の瞳が俺を映し出した
俺を見るなり嬉しそうに微笑む彼に微笑み返して隣に行く
「そういえばね、昨日ね、相談されたの」
「ん?相談?なんの」
「なんか、その人の兄の人生、的な」
「なんだそれ」
いちごミルクのパックを片手にさとみくんは可笑しく笑うとストローを咥えた
「てかその兄って誰だよ」
「えっと……あ、あの子」
キョロと辺りを見渡し、丁度見つけた姿に指をさす
「あれって、今年会長になった奴?」
俺の指さす方向に軽く目を伏せて見詰めるさとみくんに頷くとハァ、と溜息を吐かれた
「お前はまた…面倒くさそうなモン受け入れたな」
「あはは、まぁでも最近よくあの子に呼び出されるし、出来る事はやってみるよ」
そう言い切ると共に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた
「赤鬼莉犬」
振り返ると今話題にしていた人物が立っていて俺を見ている
「放課後話があるから生徒会室に来る様に」
そう告げると会長は人に呼ばれ忙しそうに姿を消した
「………さとちゃぁん」
「はいはい…(笑)」
腰に抱きつけば流れる様に頭を撫でられる
「……やだなぁ」
「待っててやるから」
撫でられる所から伝わって暖かく感じる
顔を上げると優しい表情をしたさとみくんがいて、恥ずかしさも感じる
そんな気持ちを胸に抱いているとチャイムの音が聞こえた
「…そろそろ行かなきゃ」
「あぁそうだな」
俺達は幼馴染だからといって同じクラスではない
“私達は幼馴染で一度もクラスが別れた事がない”
そんなアニメみたいな展開はないのだ
「またお昼にな」
ポンポンと頭を叩かれ、さとみくんが離れていく
「うんそうだね」
フリフリと手を振って、俺とさとみくんは各教室に戻った
『____…なんで、俺に言ったの』
『____…貴方の心が、死んでる…から』
『実は……学校の帰り道で、何度か貴方を見かけていたんだけど…その度光の宿らない瞳でジッと時計台を見詰めていたから』
『……凄く失礼だと思うんすけど…兄の心は、まだ死んでないから…その』
『…………成程。つまり、もう死んでるも同然な俺に比べ、兄はまだ死んでいないから、助けられるかもしれない。と』
『………じゃあ、取引、しようか』
少年の瞳が微かに揺らいだ
「____ぬ」
「莉犬」
「………………ん、」
「おはよ。莉犬」
軽く肩を突かれて目を開けると其処には休み時間に話したさとみくんがいた
「お昼だったからさ」
「……あぁ、ごめん…寝てた」
少し感じる頭痛にこめかみを押さえ何度か瞬きをした後さとみを見る
「いいよ、謝んないで。昨日も碌に寝れなかったんだろ」
「…………………」
「お昼どうする?」
「…お腹空いてない」
「そっか。じゃあ屋上行くか」
「…ん」
差し伸ばされた手を取って席を立つ
彼は俺が一緒にご飯を食べる時は中庭、食べない時は屋上と使い分けている
何故かはよく分からないが、別に悪い気はしないから黙って彼に着いて行く
そして屋上の時は決まって俺は彼の膝の上に乗ってお昼寝をし、彼は昼食タイムとなっている
教室を出て階段を登っていく
いつの間にか彼のもう片方の手にはブランケットが持たれていた
屋上の扉を開けると冷たい風が俺たちを襲ってきた
「やっぱさみぃな」
そりゃそうだろう。もう冬なんだから
いつも座っているベンチに腰掛け、彼の膝に乗ればブランケットを掛けられる
「さとみくん寒くないの?」
「莉犬体温高いから」
「そうかな」
ブランケットに体を埋め、掌を見る
「あったかいよ莉犬は」
そう言って手を握るさとみくんの手は暖かくて、俺よりも暖かいではないか、と心の中に思いつつも「そっか」と体重をさとみにかけた
体に伝わる体温が、聞こえる鼓動が心地良くて重くなっていく瞼
「____…おやすみ、莉犬」
遠くなっていく意識の中で頭を撫でられた感覚がした
コメント
2件
雰囲気好きすぎました…🥹🫶🏻