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深い薄暗い森林の奥深く、たま~には見廻りにでも行って来いと叱責された為。凜々と煌めく満月の下、私は独りで歩いていた。
暫く代わり映えしなかったが、1000年以上生きる大樹の根本に何か蠢く物が有った物で、好奇心ながらに近付いてみた
「君、お父さんとお母さんは?」
近くで見てみると其れは人間の少年の様で、初めて見たであろう龍人の私をただ見つめていた。
「居ません。捨てられて此処に来ました」
「うーん、でも此処に居るのは危ないからなぁ、
あ!!!じゃあ家来る?」
少年は顔を上げ、目を密かに輝かせた
私は少年に手を差し伸べ、手を繋ぎ共に帰った。
「そう言えば君何て言うの?」
「ヒョードル・ドストエフスキーです」
「ん〜じゃあドス君だ!!私はニコライ・ゴーゴリ!!何て呼んでもいいよ」
ドス君と言う愛称が気に入ったのか少年は少しほっこりしたような笑みを零す
私はそれに応える様に微笑み返した
帰宅し、茶室に入るや否や彼、シグマ君は目を丸くしてドス君をガン見していた。
「ニコライ。何だそれ!?」
「クイーズ!!この子は何でしょう!!ヒントは人間!!あ、答え言っちゃった!
この子と一緒に暮らしたいな〜な~んちゃって!」
「はあああああああ!!!!!!??????」
シグマ君は十秒くらいフリーズした後、今迄に聞いたことの無いような大声で驚く
「ドス君、先に紹介しとくね〜このツートンカラーが私の番、シグマ君だよ」
「誰がツートンカラーだ!!!!!!!!」
「おぉ、怖い怖い。子供も居るんだしもう少し優しくしなよ〜」
「余計な御世話だ!!
、、、、、、、、フョードル君、私達は人間では無いんだ。
申し訳ないが、家に帰った方が良い。お父さんとお母さんが心配するだろう?」
シグマ君が申し訳無さそうに眉を下げる
「母さんと父さんは僕を此処の森に捨てたので、問題無いと思います。」
淡々と自身の生い立ちを語るドス君を憐れに思ったのか、暫く沈黙が走る。
その沈黙を最初に破ったのは、シグマ君だった。
「そうか、、、、、、ニコライ今回だけだぞ。」
「やったー!!!っていてててて、じゃ、私はドス君の布団を出してくるね!!」
シグマ君が日頃の腹いせなのか頬を抓って来るが、構わず言葉を続ける私を不思議な顔でドス君が眺めていた。
「僕も手伝います。」
ドス君は私達の寝室から少し離れた和室で寝ることになった。
夕食を終えた後
ドス君を風呂に入れ、シグマ君と寝室に入る
不幸中の幸いドス君に虐待されていた様な痕は無く、恐らく口減らしだろう。
安心したのも刹那
二人きりの寝室には重い空気が巡っていた。
先程シグマ君が言ったように、そもそも私達とドス君では種族が違う
そして、私達の食事は
その事がドス君に知られて仕舞うと私達は龍人狩りによって殺されかねない
それでも僕はドス君を拾った
「久々にしよ?」
僕は彼を、シグマ君を受け入れた。
「シグマ君、ちょっとお手洗い行って来るね!!」
「ああ、体調は大丈夫そうか?」
「全然?大丈夫だよ!」
そんな訳無い、今にも苦しくて吐き出しそうだ。
「う”ぇ”っ”、、、、、」
ほんの一瞬の快楽だけを求め続け、獣の様にシグマ君を求める。そんな自分が僕は大嫌いだ、
「ぅえッ、おぇ、、、、、、、」
口の奥に指を突っ込み食べ物を出す、
暫く繰り返している内に、誰かが背中を擦っている事に気付いた。
角張った筋肉質な大きな手、シグマ君か
「ごめんね、シグマ君、」
迷惑掛けて
今から数百年前の事。
ニコライは人間を酷く恨んでいた。
元々私達は集落の中心にある神社に住んでいて、
それは住民達が建ててくれた物だった。
毎年元旦になると普段色々手伝いしているお礼なのか、御供物を貰い、私達はそれで生活していた
ある日、神社にある子供が遊びに来る様になった
私達は子供が居なかった為、ニコライはその子供を酷く可愛いがっていたフョードルに似て、とても頭の良い子で毎日の様に神社を尋ねていたのに、ばったり来なくなった。
ニコライは「思春期だから仕方が無い」と言いつつ、少し寂しそうだったのを憶えている
その晩、ニコライが御供物を貰って来た
どうやら料理らしく有り難く頂く事になった。
が、早速食べてみたニコライの様子が可笑しい
元々白い肌が青白く変色し、料理を戻してしまった
御手洗に行って来るとだけ言ってニコライは何処かへ行ってしまい、私だけ取り残されてしまった
何と無くその料理が気色悪く思ってしまい、申し訳ないが屑箱へ投げ棄てた
其れが正解だったのか、ニコライは殆ど自室に籠もってしまった
ノックをして入ろうとするがニコライに阻まれてしまい、ここ2週間程顔を合わせていない
数千年、いやもっとあいつと一緒に居るが、こんな事はたったの一度も無かった。
こうなれば強硬手段に出るしかないと思い息を殺し、障子に手を掛けた。
その瞬間ドン!と何かが倒れる様な音がして勢い良く障子をこじ開ける
「ニコライ!!!!」
この光景は本当にこの世の物なのだろうか。
綺麗に纏められていた書物は見るも無惨に散乱しており、血液やら胃液やらが部屋中を汚しいる
その中心に変わり果てた姿でニコライが倒れていた
私達は不老不死なので死ぬ事は無い。が、骨と皮しか無い上、自傷の傷だらけで血の海が出来ていた。
そんなに私が頼り無かったか、?
ニコライを部屋から引っ張り出し、包帯を傷口に巻く
口に無理矢理入れ続けたせいなのかニコライの右手の人差し指はタコだらけで皮が剥け爛れている
「ごめんなッ、気付いてやれなくて、」
視界が涙で滲み、余りにも泣いたからか嗚咽するが、ニコライは目覚めない
目が覚めると僕の腹辺りにシグマ君が倒れ込む様に眠って居て
ふと、手に目線を向けると不器用ながも包帯が巻いてあった。
、、、、、、、、、、リスカがバレたって事、、?
早く、早く、逃げないと、嫌われる前に
失望される前に、
僕はズキズキと重く響く痛みを其の儘に上半身を起こした。いや起こそうとした
「何処にも行かないでくれ、、、」
シグマ君は僕の上半身を抱き締めた
「シグマくん、シグマくんッッごめんね、ごめん、」
僕はシグマ君を抱き締め返しわんわん泣いた
シグマ君の胸の中は何故か酷く心地良くて、酷く辛かった
ドスくんが来てからたった10年の時だっただろうか
「ニコライ!!フョードルが、」
行方不明その一言で全てが分かった
人里を探しても、何処にもドス君は居なかった
居なかった、
数年後
神社に誰か、若い人が近づいて来た
「ド”ス”君”!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドス君だった
「無事だった?何処にいたの?なんで「煩いですよ」
此方に近づいて来たドス君は
まるで光の無い闇そのものの様だった。厭、元からだったのか。
「ヒュッ」
僕はドス君に押し倒された
「嗚呼、何て素晴らしいのでしょう。」
ドス君はそっと僕の首を絞める
はっと、気付いたがシグマ君は、今日遠い神社に出掛けている
つまり誰も助けてくれない
「ぃや、ぐるじ、ヒュ、」
でも、もう、いいかな、?
「こ、ろ、、、、こ”、ろじ、で、」
嗚呼、やっとまた会えそうだ
「まだ殺す訳無いじゃないですか」
「え、?」
「しっかり耐えて下さいね♡」
神社の奥の数百年使って居なかった物置小屋
シグマ君にも、誰にも会いたくなくて其処に隠れた
昔使っていた簞笥や、破れた障子、それらの中に一つ光る物が有った。目を凝らして見てみると其れは写真立てだった
あの子と私の写った写真。
私は、いや、私達は不老不死だと思っていた。
けれど、
「ニコライ帰ったぞー。、、、、ニコライ、?」
数百年前、引き籠もって居た時から気付いていた
「ニコライ!?いないのか、、、?」
不老不死の龍人が死ぬ方法、それは特別な龍人狩りに殺される事。
それと
「どこにも居ない、、、あの倉庫は、、?」
何もかも食べず餓死すること
「ニコライ!!!!!!!!!無事か!?」
「返事してくれ、、」
「ニコライ、、、」
「おや、彼は自死を選んだのですか」
「お前!?フョードル!?ニコライに何をした!?」
「僕は何もしていませんよ?彼が自死を選択しただけです。」
「それに、数百年間彼の変化に気付かない貴方も貴方では?」
「あ、、、ぁ」
君は誰よりも強いよ。
でもだからって無理しちゃ駄目
平静を保たなきゃ
私にお前みたいに出来る訳ないじゃないか
何で、何で、私だけ、
ごめんね、シグマ君
何故お前たちは私だけ置いて行くんだ、
、、、、、、、、
脳裏に焼き付く死に顔が忘れられない、
どうか、どうか、私を一人にしないでくれ、、
その願いは虚しく消えるだけだった