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6.行方


「世一、やっと見つけました。 」

「ネス、ごめん風呂入ってた。」


脱衣所から出るとすぐのところでネスとぶつかった。


「怪我は…大丈夫なんですか…?」

「うん、俺は大丈夫。」


ネスらしくない。焦っているのか俺の足を見ておろおろとしているようだ。


「お前、根はいい奴だもんな。」

「…それは煽りですか。僕の気持ちに気づいてる癖に、意地が悪いですね、世一は。」


ネスは顔を真っ赤にして咳払いをするとすぐに冷静な顔つきに戻った。


「え、…あ、…」


氷織とネスが話していたことにまだ確信がついていた訳ではなかった。

でも試合中にふと目が合った、俺と話す時にカイザーと俺を見つめる寂しそう表情、俺が話しかけると嬉しそうに微笑む様子。

考えてみれば合点は上手くいった。

否定はできない所まできてしまったんだ。


「…否定はしないんですね。やっぱり話の内容、聞かれてましたか。」

「俺の、せい…だよな。カイザーと上手く行ってなかったの。」

「ほんと、変な所で敏感になるんですよね。いっつも鈍感男の癖に。」


ネスは「場所を変えよう」と行って俺に手招きをした。

黙ってネスの背中に着いて行く。


「僕は弱い人間なんです。その弱さで人を傷つけて、カイザーを巻き込んだ。世一が今話している僕は偽りの完璧な僕です。」

「…ネス、違うだろ。お前は優しすぎた。だからカイザーへの忠誠を破る事に躊躇して、黒名の想いに応えようと考えて、考えた結果俺と向き合おうとしてくれてる。違うか?」


ネスは足を止めた。

廊下は誰もおらず物音もしないせいで俺たちの声がよく響いた。

時刻は午後7時30分。今頃部屋のモニターで今日の試合映像が流れてるはずだ。

カイザーとボールを奪い合うシーンも俺がネスを見つめてしまっているシーンも。

みんなが気づく。

俺の気持ちに気づいてしまう。もういいだろう。いっそのこと吐き出してしまいたい。

ずっと、そう思っていたんだから。


「僕は、優しくなんかない。カイザーの影でしか輝けない弱い灯りなんです。」

「じゃあ…俺がカイザーから奪ってやる。何度でもお前が嫌になるくらいに追いかける。だから…ッだから…そんなに追い込むなよ。」


きっと酷い顔をしている。

乾き切っていない髪から水滴が落ちる。

ネスがゆっくりと振り返った。

その行方すら目で追えないほどにネスから目が離せなかった。

目を見開いて口が少しだけ空いてしまって。

今にも倒れてしまいそうなほどに顔を真っ赤にしている。


「それって…」


ネスが弱くそう呟いた。


「俺も好きだよ、好きで好きで苦しくて…弱いのは俺なんだよ。ネス。」


段々と声が出なくなった。

足の怪我はやっぱり痛いし、サッカーもお預けだろうか。

蜂楽に合わせる顔もないし申し訳ない。

けど…幸せで仕方がなかった。

ネスが小さく微笑んで俺に抱きついてきた。

それだけで満足してしまう、そんな単純な男だと再認識させられた。

やっと自分に正直になれた。

蘭世から託されたこの想いも、氷織から言われた選択肢も、ネスが選んでくれたからこそ感じられる幸せも。

顔がニヤけてしまうのを抑え切れない。

ネスの頭にそっと手を乗せた。

泣いているのか嗚咽をもらしながら何度も肩を弱い力で叩かれた。


「ばか世一…ずるい…ずるいんだよ…ッ」





「終わった…な。」

「終わりやない、始まったんやろ。」

「ネスは潔とくっついた。俺が望んだ結末なんだから終わりだ。完結、完結。」


偶然通りかかった廊下の曲がり角から2人の声が聞こえてきた。

試合映像が流れることを知らせに行く為に黒名と脱衣所に向かっている途中だった。

出ていくわけにも行かずネスが抱きついたタイミングでそっとその場を離れた。

黒名はいつもよりずっと真顔だったが、強がっているのか表情も固かった。


「自分の事、もう分かったんやろ。なら始まりや。人の幸せの為に動ける人なんや、黒名蘭世っていう人間は。」

「…もういいんだ。満足、満足。」

「なら…なんで泣いてんの。」


ジャージの袖で蘭世の涙を拭った。

今まで人に興味がなかった。

自分が一番になれば両親は喜んだし、友達だってサッカーの為だけの関係。

自分にとって情はなかったし、どうでもいい。

このブルーロックの奴らだって自分にとっては諦める為の理由にすぎなかったのに。

なんでこんなに悔しんやろうか。

黒名の泣きそうな表情を見るのが痛いのか、自分にはまだ分からんかった。

どうでもいいはずなのに切り捨てられない。

ほんとに弱いのは自分やったんや。


「ありがと、黒名くん。自分も分かったわ、自分のこと。全部黒名くんのおかげやで。」


泣いていて何も言ってくれない。

でも心が満たされていく。

こんな黒名蘭世を知っているのは自分からだけなんだと思ってしまう。

また新しい感情に出会ってしまいそうだ。

この恋、魔法のせいにして。

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