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時代は巡り、令和。
そして、時は流れ──平成9年(1997年)。
鹿児島県霧島市、「上野原遺跡」。
テクノポリス造成工事に伴う発掘調査の最中、赤土の層からついにあの遺物が掘り起こされた。
この世紀の発見のニュースを、地元の鹿児島の大学で考古学を学ぶ一人の青年が、食い入るように見つめていた。
名を、蓮(れん)という。
彼こそが、昭和の空に散った拓海の生まれ変わりであり、同時に、アギが昭和の動乱の中で命がけで育て上げた、あの我が子の「血を引く子孫」であった。
しかし、その時、世界の裏側では、人類滅亡への秒読みが始まっていた。
アメリカのNASAおよび天文学者たちが、驚くべきデータを弾き出していた。
15,000年周期で外宇宙から放たれ、地球へと飛来する、世界を塵に帰すほどの超巨大隕石が、確実にこの星へと接近していたのだ。
地球規模の現近代科学力を結集しても迎撃は不可能──絶望するアメリカの科学者たちだったが、彼らには秘密裏に進めていた、ある極秘調査があった。
それは、地球の歴史で、鹿児島が「信じられない力」で守られてきたという、痕跡だった。
アメリカの科学者たちは、量子コンピューターの弾き出した予測から、──「与論の巫女」であるという衝撃の答えを導き出す。
事態は一刻を争う。
アメリカ政府から緊急の連絡を受けた日本政府、そして日本の宇宙開発の最前線であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、極秘の合同調査団を結成して上野原へ急行。
JAXAの科学者たち、そして魂の呼び声に導かれて上野原へやってきた大学生の蓮。
JAXAの科学者たちは、上野原遺跡で発掘された【双子壺】に最新の量子測定器を向け、驚愕の声を上げていた。
壺の底に残る、翡翠色に仄かに輝く「神の水」。
それは現代科学の常識を遥かに超えた、未知の高エネルギー粒子を今なお放ち続けていた。
「間違いない……。かつてアメリカ軍が爆撃を試みても届かなかった鹿児島の絶対障壁、そのエネルギー源はこれだ。
時を同じくして。
テレビのニュースで双子壺の大規模調査が上野原で行われていると報じられ。
画面に映し出されたその壺の映像を見た瞬間、蓮の身体に電流が走り。
彼の脳裏に、夢の中の少女が強烈に蘇った。
「あの夢の女の子は、上野原にいる」
そう確信した蓮は、大学を飛び出して上野原の大規模調査の地へと原付を走らせました。
蓮は一心不乱に原付のアクセルを捻り続けていた。
ヘルメット越しに吹き付ける鹿児島の風が、火照った顔を冷ましていく。
脳裏に焼き付いて離れない、あのニュース映像の双子壺。
そして、幼い頃からずっと夢に見てきた、あの美しい少女の瞳。
「待っていてくれ……今、行くから!」
上野原の広大な大規模調査地に到着した蓮を待っていたのは、異様な光景だった。
遺跡の周辺一帯には「立ち入り禁止」の厳重なフェンスが張り巡らされ、そこかしこに黒いスーツを着た政府関係者や、JAXA、さらにはアメリカ軍と思わしき物々しい制服の男たちが鋭い眼光を光らせている。ただの発掘調査ではない。
国境を越えた、何かが起きている。
普通の大学生ならここで引き返すしかなかった。
しかし、蓮の身体は勝手に動いていた。
不思議なことに、厳重に巡らされた警備の隙間、誰も見ていない死角となるルートが、まるで光の道のように蓮の目にははっきりと見えていたのだ。
拓海の生まれ変わりであり、アギが命がけで繋いできた我が子の血を引く蓮の肉体は、双子壺が放つ翡翠色のエネルギーに無意識に同調し、導かれていた。
蓮は原付を草むらに隠すと、何かに吸い寄せられるようにフェンスの破れ目をくぐり、鬱蒼とした木々が囲む遺跡の最奥、まだ誰も立ち入っていない未知の発掘エリアへと迷い込んでいった。
15,000年前の超古代、そして昭和の激動期から、何一つ姿を変えていない不老の少女──アギ。
蓮はアギを見つけた。
「蓮! ああ、本当に、本当に私を見つけてくれたのね……!」
数千年の時を越えた奇跡の再会に、二人は言葉を失い、強く抱き合おうとした。
しかし、その感動の再会を阻むように、JAXAの科学者たちがアギと蓮を取り囲む。
「君は一体何者だ!? なぜこの立ち入り禁止区域に……待て、その首元にある星砂の首飾り、そして量子データの波形……まさか、君がNASAの予言した『与論の巫女』なのか!?」
科学者たちが突きつけたのは、宇宙から迫り来る巨大隕石のデータと、地球滅亡まで残り僅かという残酷な現実だった。
「頼む、巫女様! この双子壺の力をどうすれば解放できるのか教えてくれ! このままでは地球は塵に帰る!」
迫り来る地球の危機、JAXAの必死の訴え、そして生まれ変わって目の前に立つ最愛の男。
すべてを取り囲まれたアギは、蓮の手をぎゅっと握りしめ、覚悟を決めたようにその瞳を真っ直ぐに科学者たちへと向けた。
アギの胸元の『星砂の首飾り』が、宇宙の危機に呼応するようにこれまでにない激しい翡翠の波動を放ち始める。
アギの脳裏に、15,000年もの間、彼女の身体に刻まれてきた星砂の記憶──超古代の真実が、鮮烈な映像となって一気に呼び覚まされていく。
アギの記憶が、驚天動地の真実を告げる。
地球を救うための「防衛拠点の根幹(指令室)」は、地球上ではなく、月面にある。
そして、アギが持っているオーパーツ『星砂の結晶』こそが、その月面施設を起動させる唯一のマスターキーだったのだ。
猶予は残りわずか。
隕石激突まであと数ヶ月。
大隅半島にあるJAXAの「内之浦宇宙空間観測所」を世界共通の総司令部(地球防衛の頭脳)とし、JAXAとNASAの共同開発による「人類史上超巨大のスペースロケット」が、実用ロケットの聖地である鹿児島の「種子島宇宙センター」へと搬入された。
この人類の命運を賭けた機体の最上部、コックピットシートには、宇宙飛行士ではなく、緊迫した面持ちの青年・蓮と、数千年の時を生き抜いてきた不老の少女・アギの二人が深く腰掛けていた。
月面にある地球防衛拠点を起動させるためには、アギの持つマスターキー『星砂の結晶』と、神代の力を宿す蓮の存在が絶対に不可欠だったからだ。
「蓮、怖い?」
アギが隣のシートの蓮を見つめる。
蓮は昭和の特攻の記憶を胸に、今度は絶対にアギの手を離さないと誓うように、彼女の手を強く握りしめた。
「いいえ。あなたと一緒なら、宇宙の果てまでだって行ける」
世界中の祈りと期待を背負い、種子島から打ち上げられた近代科学の結晶たる超巨大ロケット。
『カウントダウン最終秒読みを開始。……5、4、3、2、1。メインエンジン、点火!』
地を揺るがすような凄まじい轟音とともに、超巨大ロケットの底から目を灼くほどの白熱光と白煙が爆発的に吹き荒れた。
数万トンの質量が、重力に抗うようにゆっくりと、しかし確実に上昇を始める。
「上がった……! いけ、人類の希望を乗せて突っ走れ!」
種子島を包む青い空へと吸い込まれていくロケットの軌跡を見上げ、世界中で沸き起こる大歓声。
内之浦の総司令部でも、科学者たちが互いの手を握り締め、打ち上げの成功を確信しかけていた。
──だが、運命はあまりにも残酷だった。
高度数万メートル、成層圏へと突入せんとするその刹那、内之浦の管制室の全モニターに、血のように赤い警告アラートが激しく明滅した。
『警告! 第一段ブースター、右舷第3・第4メインエンジンに急激な圧力上昇! 推力が異常低下しています!』
「何だと!? バランスを崩すぞ、すぐに自動制御システムを起動させろ!」
『ダメです、制御不能! 出力が暴走しています! カウンター圧力が隔壁を突破、燃料ラインへ逆流を始めました!』
静寂は一瞬にして悲鳴へと変わった。
画面に映し出されたロケットの機体は、目視でも分かるほど激しく異常振動を始め、強烈な摩擦熱と内部圧力によって、白い機体の一部が歪に赤黒く変色していく。緊迫したオペレーターの怒号が響く中、メインコンピューターが冷徹な電子音を告げる。
『燃焼室の温度、限界値を突破。──機体構造、維持不可能です』
次の瞬間、青空の彼方で、太陽がもう一つ生まれたかのような大爆発が巻き起こった。
ドォォォォンッ!!!
大気を引き裂く凄まじい爆発音が、遥か地上の種子島にまで遅れて轟きわたる。
世界中の祈りと期待を背負い、種子島から打ち上げられた近代科学の結晶たる超巨大ロケットは、上昇中に予期せぬエンジン不具合を起こし、爆音とともに空中分解して大破、打ち上げは完全に失敗したのだ
「そんな……嘘だろ……」
内之浦の管制室に響く悲鳴。
世界中の人々がテレビ画面の前で頭を抱え、完全な絶望が地球を包み込んだ。
その刹那、絶望の爆炎を押し返すように、二人の間に置かれていた【星の砂の結晶】が光を放った。
光のなかで、蓮とアギの二人は、光(バリア)に包み込まれていた。
地上の内之浦の管制室で、全滅を覚悟し茫然自失となっていた科学者たちは、レーダーが捉えたその「爆炎から飛び出したのを見て、奇跡の生存に震えながら歓声を上げた。
アギもまた、蓮の胸に顔を埋め、固く手を繋ぎ合わせる。
しかし、人類の最後の希望であるアギと蓮、そして数千年の結晶の光は、まだ死んではいなかった。
二人は光に包まれたまま地上に降り立ち。
蓮の傍らにいたアギが、激しい頭痛とともに脳裏を駆け巡る「一万五千年前の真実の記憶」に目を見開いた。
「……まだ、諦めるには早いわ。鹿児島には、もう一基、月へ行ける『船』が眠っている」
アギの記憶の扉が開く。
かつて超古代文明の時代、月面指令室との往来に使われていた本物の宇宙船──それが、奄美群島の一つである「沖永良部島(おきのえらぶじま)」の、あの広大な鍾乳洞【昇竜洞(しょうりゅうどう)】の最奥部に、秘密ドックとして封印されたまま眠っているというのだ。
上野原で発掘された「双子壺」とは、この宇宙船のメインエンジンのツインコアを模して作られた、超古代の記憶の偶像(インシグニア)でもあったのだ。
「JAXAの皆さん、俺たちを沖永良部島へ飛ばしてください!」
蓮の叫びに応じ、JAXAはヘリを緊急発進させ、蓮とアギを沖永良部島へと運んだ。
島民たちが観光地として親しんできた美しき鍾乳洞「昇竜洞」。
その一般立ち入り禁止区域の、さらに奥深く。
数万年の歳月が作った無数の石筍の裏側に、それはあった。アギが『星砂の結晶』を岩盤の窪みにかざすと、鍾乳石がシステムと同調するように駆動し、15,000年の眠りから覚めた超古代文明の宇宙船が、滑らかな銀色の機体を現した。
近代科学のロケットとは一線を画す、神々しいまでのフォルム。
「動くわ。これで、月へ行く!」
内之浦宇宙空間観測所の管制システムを、超古代の機体の通信回線へと直結。種子島の失敗を乗り越え、今度こそ沖永良部島の「昇竜洞」の大地が激しく鳴動し、洞窟の天井が開口して、銀色の船は一条の光となって月へと一気に飛び立った。
月の裏側にひっそりと隠されていた月面指令室に、蓮とアギはついに降り立った。
中央にある制御台座。
アギは意を決し、15,000年間守り続けてきた『星砂の結晶』を、そのスロットへと力強く嵌め込んだ。
──システム直結・防衛術式起動──
その瞬間、月面から地球に向けて、目に見えない超高周波のリンクシグナルが照射された。
応じるように、日本列島の山頂「古代の台座」や南西諸島の祠のすべてから、一斉にまばゆい黄金色の光を放ち始めた。
誇り高く行ってきたあの「星砂祭」は、地球の大地そのものを巨大な「受電・送電ネットワーク」として維持するための神聖な儀式だったのだ。
日本列島の全霊峰から放たれたエネルギーが一本の巨大な光の柱となり、月に向けてダイレクトに送電された。
内之浦の管制モニターが、月面へのエネルギー充填率100%を表示する。
月面に備え付けられていた超巨大レールガン(質量加速砲)が、轟音とともにその銃身を激しく脈動させた。
照準は、外宇宙から迫る人類滅亡の凶星。
「撃てーーーーーッ!!」
蓮とアギの叫びとともに、月面レールガンから放たれた光速の超質量弾が、宇宙の闇を切り裂いた。
直撃。
大気圏突入を目前に控えていた超巨大隕石は、宇宙空間で一瞬にして文字通り「木っ端微塵」に粉砕され、地球を美しく彩るただの流れ星の群れへと姿を変えた。
世界中の人間が手を取り合い、自らの科学力と、大地に眠る超古代の遺産、そして繋いできた意志で、一万五千年の破滅の運命を完全に打ち破った瞬間だった。
昇竜洞の宇宙船は、静かに地球へと生還した。
全人類を救う大快挙の発信源であり、古代からシステムを厳格に守り、宇宙への道を開き続けた大元──鹿児島(上野原・与論島・内之浦・種子島・沖永良部島)は、名実ともに「世界の救世主」として、地球の歴史にその名を永遠に刻むこととなった。
月面での役割を終え、砕け散った『星砂の結晶』。
アギの解放: 一万五千年間、彼女を縛り付けていた不老不死のシステムが完全に解除され、彼女の肌には温かい人間の血が通い、その心臓がトクトクと「有限の命」を刻み始めた。
未来への歩み: 蓮は優しく微笑み、普通の女の子(人間)になったアギの手を力強く握りしめた。
「おかえり、アギ。一万五千年の旅、ご苦労様。これからは、俺たちの作ったこの平和な世界で、普通の人間として、一緒にこれからの未来を生きていこう」
遠くから響くのは、危機の去った鹿児島の大地を祝う、島民たちの【星砂祭】の誇り高き太鼓の音。
それは人類が自らの力で未来を掴み取った、新しい宇宙時代の幕開けを告げていた。
(『星砂の記憶』──堂々完結──)
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