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のんの
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いぶたむ
高校生
放課後の図書室は、驚くほど静かだった。
窓の外からは運動部の掛け声が微かに聞こえるけれど、西日の差し込む最奥の閲覧席は、まるで世界から切り離されたような二人だけの空間だ。
一颯「ほら、これ聴く?」
隣に座る一頭が、いつも通りの涼しい顔で、自分のワイヤレスイヤホンの片方を俺の右耳にぽんと差し込んできた。
一颯は学年一のモテ男子で、いつだって余裕を崩さない。
俺をからかって、顔を赤くするのを楽しんでいる節がある。
今だって、流れてきた静かな洋楽の表で、
「また心臓バクバクさせてるんだろ?」
と言いたげな、意地悪な笑みを浮かべている。
いつもなら、俺はここで俯いて、一颯の思う通りに茹だるような顔をしていただろう。
だけど、今日は少しだけ、いつもの仕返しがしたかった。
たむ「…ありがと。良い曲だね」
俺は逃げるどころか、ふっと微笑んで一颯の顔をじっと見つめ返した。
一颯の端正な眉が、一瞬だけ不審そうにピクリと跳ねる。
それを合図に、俺は一颯が差した右耳のイヤホンの上から、自分の手を重ねてギュッと奥へ押し込んだ。
一頭の左耳のイヤホンと、俺の右耳のイヤホン。
ふたつを繋ぐ見えない電波の距離を物理的にゼロにするように、ぐいっと顔を近づける。
二人の鼻先が触れそうなほどの至近距離。
一颯の綺麗な目が、驚きでわずかに見開かれた。
俺は一颯から視線を逸らさないまま、イヤホンをしていない彼の右耳の裏へ顔を寄せた。
吐息がダイレクトに届く距離で、わざとゆっくり、小さく聞く。
たむ「ねえ、俺の心臓の音、そんなに気になる?」
「じゃあ、もっと 近くで聴く?」
同時に、机の下で動かした俺の左手を、一颯の制服のスポンの上その太もものあたりへ、そっと置いた。
接着面から、じわりと熱を伝えるように、優しくそこを撫でる。
一颯「っ……!」
一頭の身体が、一瞬でビクッと硬直したのが分かった。
いつも涼しげな彼の喉仏が、ゴクリと大きく上下する。
見落とさない。
一颯の耳の付け根が、みるみるうちに鮮やかな赤色に染まっていく。
俺はさらに首を傾げて、下から彼の顔を覗き込んだ。
今や、一颯の瞳には余裕の「よ」の字もない。
動揺と、それから何とも言えない熱い光が混ざり合っている。
たむ「あれ?音楽、全然頭に入ってこないなー」
俺はさらに指先に少しだけ力を込め、一颯の太ももをキュッと掴んだ。
たむ「…ねえ、今度はそっちの心臓の音がうるさいよ、一颯」
一颯「…、、」
次の瞬間、視界がぐらりと揺れた。
一颯が俺の左手首を、乱暴なほど強い力でガシッと掴んだのだ。
机の上に縫い付けられるように固定され、一颯の顔がすぐ目の前に迫る。
一颯「調子、乗らんといて」
低く地を這うような声。
威嚇するような鋭い目つき。
だけど、俺を見下ろす一颯の顔は、耳どころか類まで真っ赤に染まっていた。
呼吸も、いつもの彼からは想像できないほど荒くなっている。
手首を握る一颯の指先は、言い訳ができないくらい熱く、そして、小刻みに震えていた。
たむ「怒った?」
一颯「…怒ってないし、ただ、」
一颯は奥歯を噛み締めると、切なそうに、けれど狂おしそうに目を細めて呟いた。
一颯「…ここでキスされても文句言わんといてね、たむ」
目を塞ぐように重ねられた一颯の手のひらは、驚くほど温かくて、少しだけ震えていた。
いつも優しくて穏やかな一颯が、こんなに余裕をなくして焦っとる。
いたずらが成功した嬉しさと、それ以上の心臓のバクバクで、俺の胸はいっぱいになった。
ゆっくりと一颯の手が離される。
目の前にある一週の顔は、やっぱり耳まで真っ赤だった。
たむ「…一颯、顔、真っ赤」
一颯「誰のせいだと思っとるん。たむ、本当にずるいわ」
一颯は困ったように眉を下げて、ふにゃりと力なく笑った。
怒るどころか、優しく俺の頭をぽんぽんと叩いてくる。
その手のひらの優しさに、今度は俺のほうが恥ずかしくなってきてしまった。
たむ「あはは、ごめんって、いつも一颯が余裕そうだからちょっとびっくりさせたくてさあ」
俺は机の上の手を引っ込めて、わざといつものお調子者っぽいトーンで笑ってみせる。
クラスの連中と話すときの、ちょっとおちやらけた空気。
そうやっていつも通りを装わないと、一颯の真っ直ぐな視線に耐えられそうにない。
だけど、一週は俺の手首を、今度は痛くないようにそっと包み込むように握り直した。
一颯「いつものたむは、クラスのみんなの真ん中におって、面白くて、遠くに行っちゃいそうだけど…」
一颯の綺麗な瞳が、じっと俺を見つめる。
一颯「今のたむは、俺だけのものみたい。…音楽、もう一回一緒に聴く?」
そう言って、一颯は外れかけていたイヤホンを、優しく俺の耳に直してくれた。
耳元に触れる一颯の指先がくすぐったくて、俺は思わず肩をすくめる。
たむ「…うん。一颯の好きな曲、もっと教えて」
今度はからかうためじゃなく、本当に一颯の体温を感じたくて、俺はほんの少しだけ椅子の距離を詰めた。
一颯は嬉しそうに目を細めると、俺の肩にそっと自分の肩を寄り添わせてくる。
流れてくる優しいメロディの裏で、二人の心臓の音が、静かな図書室の中にずっと重なり合っていた。
コメント
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あおいです🤍 第7話、ドキドキしながら読み終えました……! たむくんが仕返しで一颯くんの耳元に寄るシーン、めちゃくちゃ良かったです。あれだけ余裕の彼が「調子乗らんといて」って低い声で制するのに、耳も頬も真っ赤で、指が震えてる——そのギャップに心臓掴まれました。最後、一颯くんが「俺だけのものみたい」って言いながらイヤホン直してあげるところ、優しさと独占欲が混ざっていて宝物みたいな時間でした。図書室の静けさと、二人だけの距離感の描き方が繊細で、何度も読み返したいです。続きも楽しみにしてます🌷