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目が覚めたら、元いた世界。なんていう瑠美の理想は、目覚ましの音で消え去った。
「うぬぬ。この目覚ましとやらは何故こんなに喧しいの…。」
目覚ましだからである。
昨日と同じく、着替えと朝ごはんを済ませて、さっさと学校へ向かう。
(流石に1日も経つと、かえって落ち着くものですが、やはり慣れないのも事実。この現状をどうにかしない限りは、また物語を書くのは許されまい。)
「せめて筆と紙を用意しておいてほしいもの。」
「なーにがー!?」
「ぬあっ!?」
後ろからいきなり抱きついてきたのは、瑠美のギャル友である、由美ことユーミンである。昨日は風邪で休んでいたらしい。
「で?筆がどーしたって?」
「…昔話に興味はお有りですか?」
「敬語やめてもろてー。マジ堅いの無理だからー。」
(話が噛み合わない…)
瑠美にとっては苦手な部類のようで、顔をしかめながら低い声で言う。
「昔話に興味はあるか?」
「うーん。読まないけど、嫌いじゃないかな。それで?」
「物語が書きとう思うてな。」
「なーるー。それで紙と筆かー。でもさールルミンって中学の時に、習字セット捨てたって言ってなかった?」
「はぁ!?ふざけておるのか!?そのような所業!」
(あ、記憶にある。そーいや此奴の記憶に残っていた…。)
「クーっ」
「まあまあ落ち着こ?なんならウチの親から貰ってこよか?」
「…何故?」
「だってウチの親、書道家だもん。」
そう、ユーミンの父は有名な書道家であり、家もなかなかな大きさ。ユーミンが戯けた性格になった要因の一つと言えよう。
学校帰りに、瑠美はユーミンの家へ寄ることにした。
「マジデカいから!ウチの家!腰抜かさないでよ?」
「案ずるでない。京以上に大きな屋敷があるものか。」
「なんて?」
そうこうしているうちに、二人はユーミンの家へと着いた。ユーミンの言った通り、大きく仕切られた壁・見上げると首が痛くなりそうな屋根・はるか遠くまで見える庭。まさしく豪邸だった。
「ね!大きいでしょー。」
「フッ。京には及ばぬ。」
「だからなんて?」
中に入ると、ユーミンの父が待ち構えていた。中々の親バカのようで、大切な娘の友達ならと高級な紙や筆を大量に持たせてくれた。その上お茶菓子まで出る始末だ。
「ふふふ。この手触り、まさしく職人技。ユーミンとやらに貸しをつくった位では足りぬほどの代物に違いないな…。」
お茶菓子に目もくれず、ただ筆と紙を撫で回す。
「いい目をしているね。それは特注で作らせている紙なんだ。無くなったらまた貰いにおいで。」
ユーミンは苦手だが、ユーミンの父とは話が噛み合うらしい。楽しそうにくっちゃべった後、ルンルンで家に帰る。
ウキウキと自室で紙を並べ、筆と見比べながら鼻歌を歌う。もちろん現代風の曲などではなく、和楽器で演奏する調べのようなゆったりとした曲だ。
「確かにいい紙と筆だが、材料だけではいけない。この時代の言葉遣いに、物の存在など、調べなければ。知識は書き物において必要不可欠である!」
「あんたいつまで起きてんの!さっさと寝なさい!明日学校でしょうが!」
それを聞いた瑠美は急いで紙と筆を机にしまい、バタバタと床を踏み鳴らす。
瑠美は母親が苦手であった。