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単行本3巻 第18話 刀の重さから、にお視点で始まります!
目が覚めたから慌てて起きると、そこは僕も含め壬生浪士組の皆さんが、身を置かせてもらっている八木さんの家だった。いつもは賑やかしい畳の上がシンと静かで、川で倒幕の志士・木村寿太郎と戦って気を失ったことなんて夢みたい。いや、夢じゃない。現実じゃないか。倒幕の志士の思想。エゲレスから入ってくる阿片。沖田さんの背中。目の前で斬られた木村さん。彼の仲間の京四朗さん。ちゃんと….覚えてるじゃないか。
木刀を腰に刺して縁側に出ると、土方さんが刀を手入れしていた。志を述べても、土方さんの仏頂面は変わらない。だけど、刀をくれた。
「お、重い…!」
「その重さの分だけ みんななにかを背負ってるってことだ。お前も大事なものを背負ってる。忘れるな。その重さを常に感じておけ。お前の重さはなんだ?」
「町の人が夜 安心して歩ける世の中にしたい」
「そうだ」
「子どもが安心して泣ける世の中にしたい」
「そうだ」
「弱いものが虐げられない世の中を作りたい!」
「そうだ」
「やっぱりあの人たちを止めなくちゃいけません!人を殺して世の中を変えようだなんて間違ってる!」
僕は土方さんの向こうにしていた目線を土方さんに移してお礼を言った。
「刀、ありがとうございます!大切に使わせていただきます!」
「両方持つのか?邪魔だぞ?」
「こっちを使います!こっちは魂です!使いません!」
僕は木刀と真剣を交互に掲げた。
「まぁいい。行くぞ」
「えっどこに?」
「決まってんだろ。小僧のところだよ」
東の空にある太陽の日差しを受けて、土方さんの美しい顔の輪郭が強調される。僕も続こうとすると、くぅ、とお腹が鳴った。
「ぁ…」
気にしないでください、と続けようとすると、襖がスッと開いて、見慣れない人がお膳を片手に現れた。
「それなら精をつけて行かないと。におくん、昨日の夜も朝餉も食べてないでしょう」
黒い髪を後頭部でひとつに束ね、肩のあたりまで伸ばしている。後れ毛が左右の耳より少し長めにあり、前髪は眉毛が見える長さで切られている。眉毛は可愛らしい顔と対照的に凛々しく、奥二重の向こうの瞳は光の加減によって紫に光っている。涙袋の下に除く影は、クマではなくただの影だと思いたい。上唇の色は、下唇の色より暗い赤で、桃のような肌の上に乗っている。左耳にふたつの黒子と、右側のこめかみに見えるのは…痣だろうか。身長も僕とそう変わらず、高い声でゆったり話す彼女は….
「どなたですか…?八木さんの子ですか…?」
「そうか。初対面か」
土方さんが間に入ってくださる。
「彼はゆうだ。江戸から京に来る間の東海道で拾った。まぁ….仲間さ」
「はじめましてにおくん。ゆうです。仲良くしようね!」
「は、はい、」
彼…ってことは男の子か。小柄で綺麗な髪で可愛い顔立ちだからつい女性かと、
「騙されるなよ、にお。こいつは二十歳(ハタチ)だ」
「えっ?!」
「若々しいって言われるんですぅ」
「幼いの間違いだろ」
「えぇ、いいじゃありませんか。どうぞにおくん。早く行きたいだろうと思っておにぎりにしたんです」
「あ、ありがとうございます、いただきます、」
お膳を受け取って縁側に腰掛ける。綺麗な白米で握られたおにぎりがふたつと、爪楊枝の横に少しのお漬物があった。
「ゆうさん、このところ外出していらっしゃったんですか?お顔をお見かけしなかったような…..」
「そうなんですよぅ」
ゆうさんは僕の横にしゃがんで、柱に少しもたれかかった。
「近くの定食屋さんで情報収集してる時があってね。におくんが来た時、僕は屯所にいなかったんだと思うよ」
「はぁ、それで」
にこーっと笑っているゆうさんを見る。さっきより近いこともあって、下唇のホクロに気がついた。
「僕は皆さんみたいに剣が上手じゃないから、情報収集をしてたんだけど、君が来てくれたならお役御免かな」
「え、いやいや、」
「よく言う」
はっ、と吐き捨てるように笑ったのは、後ろに立ってる土方さんだ。
「にお、ここ数日の素振りもいいが、剣ならこいつも教えられる。俺たちを目標にするより、もっち近い目安として指導して貰え」
「あっ、はい!よろしくお願いします、ゆうさん」
「僕でよろしければいつでも」
「っご馳走様でした!お待たせしました土方さん!」
「ん」
土方さんの早足に着いていくため小走りで縁側を通る。土方さんが1度足を止めて、ゆうさんを振り返った。同じように僕も振り返ると、ゆうさんはお膳を下げて襖を開け、僕たちの視線に気づいて手を振ってくださった。….さぁ、目指すは世都くんのいる二条通りの鶴屋だ!