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君と僕と月。
夜じゃない夜がある。そう思ったことがあるのではないだろうか。
寝ようと思っても胸の奥深くがざわめいて寝られない日。
君と出会ったのもそんな日だった。
当時6歳の僕は川沿いにある小さな一軒家のベットでお気に入りのお月さまの絵本を読んでいた。
僕は月が大好きだった。この大きな世界を見下ろしているようだった。
カーテンが開けっ放しの窓から眩しい光が溢れてきた。
もう朝になったのかと驚き窓を覗くとそこには不思議な光景が広がっていた。
光り輝く大人一人分ほどの大きさの釣り針のUの字にヨーロッパの子のような美しい少女が座っていた。
僕は好奇心にかられ、パジャマを着たまま裸足で家から出た。少女の座った釣り針はゆっくりゆっくりと川の橋に降りていった。よく見ると釣り針は細く白い糸が繋がっており、糸は見えなくなるほど天高くまで繋がっていた。少女は同い年くらいで、緩くカールしているブロンドヘアーに釣り針の輝きが反射し、肌は雪のように白かったが不健康さを感じさせないように頬がほんのり赤かった。服は水色のヨーロッパの貴族の子どものようなレースの付いていないドレスを着ていた。
釣り針は橋から1m程上のところで止まり、少女が飛び降りた。
僕は彼女の方へ駆けていった。
彼女は僕に気づき驚いた顔をした。でも彼女は言った。「こんばんは」僕も返した。「こんばんは」
その後彼女と広い草原を駆けた。たくさん遊んだ後鈴虫の鳴る、木の下で寝転んだ。息遣いが激しい。「私ね、月から来たの」「そうなんだ」6歳の僕には信じられることだった。「君の好きな食べ物は何?」彼女はすぐに答えた。「お餅」見た目とは全然違うものだったが僕もお餅は大好きだった。「好きな動物は何?」今度は彼女が聞いた。「うさぎ」「私も!」嬉しそうに彼女は言った。「私ね。生まれ変わったらうさぎになりたいの」「僕も」動いていく美しい星空と輝く月を二人で見つめた。
時が経ち朝日が顔を見せ始めた。それと同時に彼女はだんだん透明になっていった。透けていってしまったのだ。
彼女は唐突に立ち上がり「私もういかなきゃ」と言った。行ってほしくなかった。こんな気持ちは初めてだった。「今度、いつ会える?」僕は後ろから聞いた。「百年後。その時まで待っててね」
彼女はそう言い残して消えた。
僕は消えてしまった後「待ってるよ」と独りでに言った。
朝日が恨めしかった。
百年後、僕は百六歳になっていた。十五夜の日だった。一人でお雑煮を食べていると窓からいつか見たことのあるあの光が溢れていた。
それに気づき真っ先に外に飛び出した。そこに彼女は居た。同じ釣り針に座っていた。彼女は下がっていくに連れて年を取っていった。
しかし、顔にシワが増えただけであの無邪気で好奇心旺盛な瞳や健康的な赤い頬、綺麗な髪は変わってなかった。
僕らは百年の再会を果たした。
あのときと同じように草原に横になった。そしてあの会話をした。
「私ね。生まれ変わったらうさぎになりたいの」「僕も」
そう言って僕は君に抱きついて強く手を握った。まるであの6歳の時にタイムスリップしたようだった。
「「愛してる」」二人の声が重なった。
もう彼女は消えなかった。
それはきれいな月の十五夜の日だった。
次の日、警察官がおじいさんとおばあさんの遺体を発見した。でも顔は良い夢でも見ているかのように微笑んでいて強く手を握っていたという。
次の年の十五夜の日から月にはうさぎが餅をついている姿が浮かび上がるようになった。
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