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(死ん、だ……?)
その言葉の意味を理解して、さーっと血の気が引いていく。
「――ご、ごめんなさいリュー! 私、」
お父さんが亡くなっていたなんて知らずに軽率な発言ばかりしてしまった。
罪悪感で頭が真っ白になる。
でもリューは笑顔で首を振った。
「いや、謝ることはない。俺もコハルに言わなければと思いながらなかなか言い出せなかった」
5年前ということは、私がこの世界を去ってから2年後ということだ。
魔王から解き放たれたリューのお父さんは、私にも「ありがとう」と言ってくれた。
そのときのリューに少し似た笑顔は、まだ鮮明に覚えている。
「やはり魔王に操られていたことが大きな負担になっていたようでな。コハルが去った後、臥せがちになって……」
そう話してくれたリューを、私は強く抱きしめていた。
「コハル……?」
「ごめんなさい」
あんなにお父さんに憧れていたリューが、ショックを受けなかったわけがない。
きっとすごく辛くて寂しかったに違いない。
そんなリュー皇子を想像したら、たまらなかった。
「ごめんなさい、リュー」
――そのとき彼の傍にいられなかったことが、酷く悔やまれた。
「コハルのお蔭で、なんとか頑張って来れたんだ」
「え?」
見ると、リューは優しく微笑んでいた。
「当時はさすがに落ち込んだが、コハルをこの城に迎えなければならないからな。そのためにコハルにも皆にも認められるような竜帝を目指してきたつもりだ」
私は目を見開く。
「コハルの存在が、いつでも俺の支えだった」
そうして彼は私の両手を握り、言った。
「ありがとう。コハル」
「コハルさま~~!」
内扉から隣の自分の部屋に入った途端、メリーがもの凄い勢いで飛びついてきた。
「もうお身体はなんともないですか? もう一度癒してさしあげますか!?」
「ありがとう、メリー。もう大丈夫」
笑顔でお礼を言うが、メリーはまだ心配そうに首を傾げた。
「でもなんだかお顔が赤い気が」
「えっ」
ぎくりとする。
先ほどのリューの言葉に全身が熱くなった自覚はあったけれど、顔にも出てしまっていただろうか。
「ううん、本当に大丈夫! メリーの癒しの魔法のお蔭。いつも本当にありがとう、メリー」
「それなら良かったです~!」
嬉しそうに笑ったメリーが可愛くて、私はそのもふもふな身体をぎゅーっと抱きしめた。
と、そのときトントンと扉がノックされて顔を上げる。
「はい、どうぞ」
ゆっくりと扉が開き、その向こうに立っていたのは。
「アマリー!」
私がその名を呼び駆け寄ると、彼女は真っ赤な顔で私を見つめた。
「コハル様……先ほどは、本当に申し訳ありませんでした!」
アマリーは深く深く頭を下げた。そして。
「私などのために、本当にありがとうございました!」
その言葉で、リューが先ほど言っていたことは本当だったのだとほっとする。
「ううん、私こそさっきは驚かせてしまって本当にごめんなさい」
「いいえ! コハル様はなにも……全ては私の不注意が招いたこと。それなのに……っ」
俯き肩を震わせた彼女に、私は笑顔で言う。
「これからもよろしくね、アマリー」
「! ……はい、コハル様っ!」
彼女は顔を上げ、涙を拭ってから可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「アマリー、良かったわね」
そう優しく言ったのは後ろに控えていたローサだ。
「これからもコハル様に誠心誠意お仕えしましょう」
「はい!」
そうして微笑んだローサに、私は早速お願いする。
「ローサ、もう一度着替えと髪を整えてもらってもいい?」
「え……ですが、もうお身体は良いのですか?」
「うん、メリーのお蔭でもう全然平気!」
腕の中のメリーは得意げな顔をした。
先ほどリューにも今日はこのまま休めと言われたけれど、朝セレストさんから聞いた話では午後も何かと予定が詰まっていた。
私のせいで、これ以上スケジュールを狂わせたくはない。
「だから、お願いします。アマリーも」
するとローサもアマリーも笑顔で「はい」と頷いてくれた。
と、そのときだ。
「陛下!」
ローサが慌てたように廊下の脇に避け頭を下げた。
見れば廊下の向こうからリューがひとりこちらにやって来る。
アマリーもそちらに身体を向け先ほどのように深く頭を下げた。
「陛下、先ほどは大変失礼いたしました!」
「あ、あぁ」
リューはそんな彼女を前に最初驚いた様子だったけれど、その後ちらりと私の方を見た。
(え……?)
そして彼はひとつ咳ばらいをすると、アマリーに声をかけた。
「これからもコハルのことをよろしく頼むぞ」
それはもう、めちゃくちゃ良い笑顔で。
「――っ!?」
そのキラキライケメンスマイルをまともに喰らったアマリーはひゅっと息を吸ってそのまま固まり、余波を受けたローサも目を丸くし顔を赤らめた。
メリーだけが私の腕の中で「うげぇ」と小さく呻いていた。
リューは「これでどうだ」と言わんばかりの得意げな視線を私によこし、言った。
「コハル、また後でな。無理はするなよ」
「は、はい……」
リューが去ってしまって、まだその場に呆然と直立したままのアマリーにローサが心配そうに声をかける。
「アマリー、アマリー?」
(確かに、優しい竜帝陛下になって欲しいとは言ったけど……)
ローサに肩を揺すられても固まったまんまのアマリーを見て、これはこれでちょっとマズイかもしれないと、思ったりした……。
新城かいり
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#上司×部下