コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
黄の家には、ふわっと落ち着いた木の匂いが漂っていた。
リビングの照明は少し暗めで、桃、青、黄、赤の四人が円く囲むローテーブルの上には缶チューハイとおつまみがずらっと並んでいる。
桃は缶ビールを持ったまま、隣の青をちらっと見る。
今日の青は、いつもより表情が柔らかかった。
理由は簡単──飲む前から、桃の隣に座るときに、ほんの少しだけ服の裾を掴んできたから。
(……可愛いな、今日)
桃がそう思っている間にも、青の缶はすでに一本空く。
赤が呆れるように笑いながら指摘する。
「青ちゃん、今日は気合い入りすぎじゃない? ペース早いよ?」
「ん……気合いじゃ、ない……っす……」
青はもう、すでに目がほんのり赤い。
黄が首をかしげて、卓上の缶を見つめる。
「青ちゃん、これ……三本目じゃないですか?」
「へーき……へーき……僕、お酒、強い……っ」
その言い方が、すでに強くなさすぎた。
桃は心配そうに青を覗き込む。
「……おまえ、本当に大丈夫か?」
青は桃の顔をまじまじと見て、
ゆっくり、ふにゃっと笑った。
「ももくん……かっこいいねぇ……」
桃「……っ!? 急になんだ」
頬が熱くなる。
赤が手叩いて笑い転げる。
「桃くん、完全に惚気られてるじゃん!」
黄も笑いを堪えている。
「青ちゃんの酒癖……なんか甘えん坊路線ですね今日は」
青はふらふらしながら桃の肩に頭を預ける。
「ももくん……すき……」
桃は一瞬固まる。
(……これ、やばいパターンのやつだ)
青の酔い方には種類がある。
泣き上戸、笑い上戸、甘え上戸──
そして最悪のやつ。
“キス魔”
桃は青をそっと起こそうとするが、青は目を細めて言う。
「ねぇ、ももくん……ちゅ~したい……」
桃「はっ……ばか……っ、二人の前だぞ!!」
赤が吹き出した。
「出たよ! 青ちゃんのキス魔モード!」
黄も慌てて立ち上がる。
「青ちゃん落ち着いてください! 桃くん困ってる!」
しかし青は完全に桃にロックオンしていた。
青は桃の胸に体重を預けたまま、
ゆっくり、桃の頬へと顔を寄せ──
ちゅっ。
それは、思った以上に音がした。
桃「っっ!!??」
リビングが一瞬静まり返る。
しばらくして赤が爆笑。
「いや音デカすぎ!!! 可愛い通り越して犯罪だよそれ!!」
黄も顔を真っ赤にして笑っている。
桃は青の肩を掴んで言う。
「おまえ……っ、酒臭い……!」
「えへ……ちゅ~……しちゃった……」
青は幸せそうに笑い、
桃の首に手を回して身体を引き寄せた。
「もっかい……したい……」
「だめだって言ってるだろ!」
青は眉を下げて、今にも泣きそうな顔をする。
「なんで……? ももくんは、僕のこと……すきでしょ……?」
桃(心臓止まるだろこんなの……!!)
赤「もうしちゃえば? 桃くん、軽いやつ。ほら。青ちゃん泣くぞ?」
黄も苦笑しながら肩をすくめる。
「ちょっとくらいなら目つぶりますんで……」
青「……ちゅ~しないと……泣く…っ…!」
本当に涙が溢れてきていた。
桃はため息をつくしかなかった。
「……少しだけだぞ。いいな?」
青はこくこくと頷く。
桃は青の頬を両手で優しく包み、
そっと、指先で触れるように唇を触れ合わせた。
——ちゅっ。
青の息が震え、
身体がくたりと桃に預けられていく。
「ん、っ……もっと……っ」
青の手が桃の胸をぎゅっと掴む。
そして、桃の唇に深くいこうとした瞬間——
「絶対ダメ!!! 舌はダメ!!」
桃が押し返す。
青はぴたっと動きを止めた。
そして次の瞬間——
「うぁああぁああああん!!!」
ギャン泣き。
赤「うわっ始まった!!」
黄「桃くん! もう無理です!! 部屋使ってください!!」
黄と赤はバタバタと部屋を出て、
リビングには桃と青だけが残された。
桃は泣き続ける青の肩を抱き寄せる。
「青……落ち着け、ほら……」
「ももくんが……ちゅ~……してくれない……っ」
「しただろ。さっき」
「たりないの……っ…!!」
青は涙で顔を濡らしたまま、桃の胸に顔を埋める。
その必死さが痛いくらい可愛い。
桃は青の背をゆっくり撫でる。
青は涙で濡れた目で桃を見上げた。
桃は青の頬を指でなで、
静かに唇を寄せる。
最初は浅く。
青が震えるたびに、少しずつ深く。
音は静かで、
とろ、とろ……と溶けるような呼吸だけが混じる。
青の指が桃の服を掴み、
身体が熱くなっていく。
「んぅ…っ……ぁ…♡」
「もっとぉ……♡」
青は自分から舌を絡めてくる。
「くちゅっ…♡……んっ…はぁ…っ」
「……ももくん……すき……」
「はいはい……もう、いいから……寝ろ」
桃の声は呆れ半分、甘さ半分。
青は唇を離したあと、
桃の胸に顔を埋めて──
すう……と、小さく寝息を立て始めた。
桃は青の頭をそっと撫でながら、
小さく笑う。
「……ほんと、おまえ……酒弱いくせに飲むんだから」
その声は、とても優しかった。
青が寝落ちしたあと、
桃はしばらくその寝顔を眺めていた。
青は泣き腫らした目で、
それでも安心したように胸に頬をすり寄せて眠っている。
(……まったく。やっぱり可愛すぎだろ、お前)
桃は静かに息を吐きながら、
青の頬についた涙の跡を親指でそっと拭う。
青の呼吸はしっかりしているし、
顔色も悪くない。
ただ、酔いでぐったりしていただけだ。
桃は青を起こさないように抱き上げる。
軽い。
あまりにも軽くて、胸が苦しくなる。
(こんな細いのに……俺にあんな顔してキスねだって……)
思い出して軽く頬が熱くなる。
青は桃の腕の中で、
くすんと鼻を鳴らした。
「……ももくん……」
寝言。
桃の胸が跳ねる。
「……っ。……はいはい。ここにいる」
桃はそっと答える。
青は安心したように、またすぅ……と寝息を立てた。
桃は微笑みながら、 青の髪を軽くかきあげる。
青の頬はほんのり赤い。
唇は少し腫れている。
桃が、泣く青を落ち着かせるために
何度もキスしたせいだ。
(……キスだけ、なんだけどな。あれ以上はさすがにムリだろ……)
酔った青の身体を抱いてしまったら、
きっと後悔させてしまう。
桃は頭を振った。
(大事にしたい。ほんとに)
そう思うからこそ、
青が寝ている間にキス以上をしようなんて
一瞬も思わなかった。
……ただ、
「……ん……ももくん……」
寝ながら名前を呼ぶこの可愛い生き物は
桃の理性を何度も折りにくる。
青の手を軽く握る。
青の指は桃の指に、
きゅ、と絡んできた。
寝ているのに、桃を離さない。
(……無自覚でやってるんだよなこういうの。ほんと反則)
そのまま見つめていると、
胸が苦しくなるほどに好きが溢れた。
桃は青の額に軽く口づける。
音はない。
空気の中に静かに触れるだけの、
穏やかなキス。
「ばーか」
囁くように言うと、
青はまた小さく指を握り返した。
数時間後。
カーテンの隙間から差し込む光が、
青の頬を照らしていた。
青はゆっくり目を開ける。
「……ん……?」
頭が少し重い。
喉も乾いている。
それよりなにより──
(……なんで僕、黄くんの家に……?)
寝ぼけた頭で状況を理解しようとした瞬間、
ぎゅっ
腰に桃の腕。
青「……っっ!!!!」
声にならない叫び。
青の顔は一瞬で真っ赤になる。
(え、え、は!? なにこれ!? なにがあったの!?)
心臓が跳ねまくる中、
ゆっくり桃が目を開けた。
「……お、起きたか……」
寝起きの低い声。
少し掠れている。
青の心が崩れる。
「もも……くん……っ……///」
桃は青の必死な顔を見て、
一瞬で昨夜の酔い方を思い出した。
「……青。覚えてないのか?」
「な、なにを……?」
桃は額に手を置くようにして言った。
「……おまえ、キス魔だった。泣きながらキスねだって、大変だったんだぞ」
青の脳がフリーズする。
「え……っ」
桃は真顔で続ける。
「黄と赤もドン引きしてた」
青の顔が真っ白になり、
次に真っ赤になる。
「うそでしょおおおおおお!!!!???」
桃は肩をすくめる。
「ほんとだ。泣きながら『なんでちゅーしてくれないのぉぉぉ!』って」
青「やめてぇぇぇぇ!!!」
桃は笑いを堪えながら、
青の頭をぽんぽん叩く。
「まぁ、かわいかったけどな」
青はギャン泣き寸前の顔で叫ぶ。
「かわいくない!!!!!」
桃「かわいいよ」
即答。
青「!!!!!!!!」
青の脳が沸騰する音がした。
桃は青の頬をつまんで言う。
「もう酒は控えろ。次泣いたら青壊れる」
青は顔を真っ赤にしながら、
「……じゃあ……次は……桃くんが、いっぱい……ぎゅ~してくれるなら……」
ぼそっ。
桃の目が一瞬で優しくなる。
「……ああ。するよ」
青は胸に顔を埋めた。
(好き……好き……好き……)
昨夜と違って、
しらふの青は涙が出るほど幸せだった。
青と桃がようやく落ち着いたころ。
桃の部屋のドアが、コンコンと軽くノックされた。
桃「あー……来たな……」
青「っ!? だ、だれ……?」
桃「黄と赤」
青「むりむりむりむりむり!!!!!!」
青は布団に潜ろうとする。
桃が首根っこをつまむようにして止めた。
「逃げるな。昨日の被害者だぞ?」
「ひ、ひがいしゃ!? 僕なにしたの!?!?」
青の顔は蒸気が出そうなほど真っ赤。
桃は苦笑しながらドアを開けた。
黄「おはようございます、桃くん。……で?」
赤「青ちゃん、生きてる~?」
ひょこっと赤が桃の肩越しに顔を覗かせる。
青は布団の中で、しゅん……と萎れた小動物みたいに震えていた。
赤「うわ、めっちゃ落ち込んでる!!可愛い!!」
黄は腕を組みながら、低い声で言う。
「ねぇ青ちゃん。反省してます?」
青「……なにを……したの……(震)」
黄は即答した。
「覚えてないですか? “僕にもちゅ~してぇぇぇ!!”って叫びながら赤に抱きつこうとして——」
赤「おい黄くん!!それ言う!?!?」
赤が慌てて黄の腕をつつく。
何かを止めたかったらしいが、黄は気にしない。
青は絶望。
「うそ……やだ……やだやだやだ……!!」
桃が青の背中を撫でる。
「まぁまぁ……実際抱きついたのは俺だけだから」
黄「いや桃くん、フォローになってませんよ?」
赤「むしろ追い打ちだよそれ!!」
青「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!(泣)」
青は桃の腕にしがみつく。
桃は確かに苦笑していたが、
その目の奥はどこか甘い。
(泣いてるけど……こいつほんと可愛いよな……)
黄は淡々と続ける。
「それと、桃くんに押さえつけられてる時、 “ちゅー~してくれないと死ぬぅぅぅ!” とか言ってましたよ?」
青「死ぬぅぅ…って僕言ってない!!!!!」
赤「言ってたよ青ちゃん……めっちゃ泣きながら……」
青「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
布団にもぐり、足までバタバタする青。
桃はその布団の塊を抱えて、
ぽんぽんしてやる。
赤「てか、青ちゃんってさぁ、酔うとキス魔なんだね」
黄「桃くん以外にはキスしてませんけど」
赤「あー……それで桃、“深いキス”までして寝かせたんだ?」
桃「おい赤、言い方ァ!」
青「ももくん!?!?!?深いキスしたの!?僕!?」
桃「……落ち着かせるためにな……」
青「あああぁ……ぁあ……」
声が裏返る。
赤「あっ、でも、舌は入れようとしてたよね?青ちゃん」
青「入れてない!!してない!!僕そんなえっちなこと……!!」
黄「いや、してたよ。桃くんが止めたんです」
青「………っっ」
桃は苦笑しながら青の頭を抱き寄せた。
「……いいだろ、別に。あれくらい」
青「よくないよぉぉぉぉ!!恥ずかしすぎる……!!」
桃は優しく言う。
「でも……可愛かったけどな、お前」
青「!!!!!!」
青の理性が崩壊した。
黄は肩をすくめる。
「……じゃ、そろそろ僕ら出ますね。空気が甘すぎてむせるので」
赤「うん。ここにいると僕らが邪魔者になる……らぶらぶだ……」
黄と赤が退出しようとすると、
青が弱々しく言った。
「ご、ごめんなさい……変なことして……」
赤は微笑んで青の頭を撫でた。
「いいんだよ青ちゃん。むしろ可愛かったし」
黄もうなずく。
「桃くんが止められなかったらアウトでしたよ」
桃「おい黄」
黄「事実じゃないですか」
青「うぅぅぅぅ……///」
赤「じゃあ、ごゆっくり! ね、桃くん?」
赤がニヤッとしながらウインクして、
2人は部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
しん……
青は真っ赤な顔のまま、
桃の服をぎゅっと掴む。
「ももくん……僕……もう外歩けない……」
桃「歩けるって。誰も怒ってないし」
青「恥ずかしい……死んじゃう……」
桃は青の頬を両手で包む。
「死なねーよ。俺がいるから」
青は涙目のまま桃を見つめた。
「……ほんとに……?」
「ああ」
桃は迷いなく答え、
青の眉間にキスを落とす。
青は一瞬でとろけた。
(あ……好き……)
桃は青を抱きしめながら、
耳元で囁いた。
「……次酔ったら、俺以外にキスしようとすんなよ」
青「し、しないよ……!!」
桃「ならいい」
桃は青の頭を撫でながら、
ぎゅっと抱きしめた。
青は胸の奥が温かくて、
幸せで泣きそうになる。
(好き……好き……桃くん好き……)
二人の朝は、
まだじんわり熱を残したまま続いていった。
久しぶりに書いたから完成度びみょーかも
リクエストあったらください‼️