私は、冷たい夜の空気に包まれながら、闇の中に輝く街の光を見下ろしていた。煌びやかなネオンの光が私の肌に淡く映り、無意識に視線が兄の方へと向かう。
「まのん、今日の仕事、よくやったな」
穏やかでありながらもどこか鋭い、兄──煌(こう)の声が静かに響く。彼に褒められるのは珍しくないけれど、いつも心の奥で小さな満足感が広がるのを感じる。でも、それを顔に出さないように、私は冷静を装って言葉を返した。
「ありがとう、兄さん。でも、私にはまだまだ足りないことが多いと思ってる」
「お前は十分強いよ。少なくとも、俺以外の奴には負けない」
その言葉を聞いて、胸の奥に複雑な感情がわき上がるのを感じた。兄は、いつだって私を愛してくれている。それが一方的な愛であることを知っているからこそ、私は兄への気持ちを「愛しているふり」を続けるしかなかった。私にとって、それが一番楽な方法だから。
でも、それでも時々、こうして彼の横顔を見つめると、本当の気持ちを探りたくなる自分がいる。でも、そんな自分を封じ込めて、私はただ無言で彼の隣に立つことを選ぶ。