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なにか悪いことがあると、理由を求めてしまう。二年前、妻が殺された。今でも信じられない。
妻と私は円満で、記念日には花を送り合っていた。しかし、ある日、彼女は自宅の洗面所で亡くなっていたのが報告された。そのとき私は職場に居た。他殺。警察は犯人を掴めず、私は妻を失った理由がわからないまま、時間だけが過ぎていった。
そんなある日、一通の手紙が届いた。刑事の小谷からだった。
「個人的に話したいことがあります。カフェで会えますか?」
私はカフェに向かった。私服姿の小谷が手を振る。
「実は、私、霊感があるんです」
彼女の第一声に、思わず眉をひそめた。
「みゆさん、霊殺された可能性があります」
「……霊殺?」
「彼女の首筋に黒いシミがあったんです。黒魔術による呪いで亡くなる方によく見られる跡です」
私は何も言えなかった。呪い?冗談のような話だが、何かにすがりたい気持ちもあった。
帰宅後、妻の遺品を整理していると、寝室の棚に見覚えのない指輪があった。亡くなる前、妻はやけにスピリチュアルなものを集めていた。妙に機嫌のいい日と、落ち込む日が交互に訪れていたのを思い出す。あれは、何かに怯えていたのか——それとも。
嫌な予感がして、小谷に電話をかけた。
「そうですか……もしかすると、奥さんも呪いを自覚していたのかもしれません」
小谷は当然のように答えた。その態度に違和感を覚えたが、私は何も言わず電話を切った。
翌日、警察署から電話が入った。
「田中です。小谷刑事が亡くなりました」
「……は?」
「小谷は捜査対象になっていました。彼女が受け持った事件のうち、三件の犯人が彼女本人だったと判明したんです。自宅を捜索される直前、海に身投げしました」
私は言葉を失った。
「もうひとつ、小谷の事件の被害者は全員、整った顔の女性ばかりでした」
電話を切った後も、頭が混乱したままだった。小谷は女性を狙って殺していた?そして……私の妻も。
妻の墓へ向かった。墓前に手を合わせ、目を閉じる。すると——
「ふふっ……」
背後から、かすかな笑い声が聞こえた。
妻の声。そして、もう一人の女の声。
私はゆっくり振り向いた。
そこにいたのは——
「気づかなかったんですね。私と先輩が、大学の頃からの関係だったこと」
小谷刑事が、微笑んでいた。
隣には、死んだはずの妻がいた。
「あなた、ごめんなさい。でも私は、この子を選んだの」
——小谷は死んでなどいなかった。
私は警察に騙されたのか? いや、それとも——田中すら、最初から彼女の味方だったのか?
小谷が、静かにナイフを取り出した。
「あなたの奥さんは、最後まであなたに助けを求めてた。でも、あなたは何もしなかったわね?」
妻が目を伏せる。その指には、あの指輪が光っていた。
「さよなら」
視界が、黒く染まっていった。
——全ては最初から仕組まれていた。