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心狼@_shiro🤍🐺
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「名刺だけではご不安ですか。……では、これで証明できるでしょう」
琉輝さんが免許証を取り出して叔母に見せる。
すると叔母の表情がみるみるうちにやわらかくなった。
「彼女が返す予定の留学費用の件ですが、僕が立て替えます。翠々さん宛てに送られたメールの振込先でよろしいですよね?」
その言葉を聞いた叔母は満面の笑みを浮かべてうなずいた。貸していたお金が一括で戻ってくるからうれしいのだろう。
だけどそんな話を聞いていなかった私は驚いて、思わず彼のスーツの袖をちょこんと引っ張った。
「琉輝さん……」
「とりあえず俺が返しておくよ」
「でも……」
「さすがですわね! でも、鳴宮財閥のご子息にとってはたいした金額ではありませんわよねぇ」
私の小さな声は、叔母の失礼な発言によって見事にかき消された。
結局琉輝さんに迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。
さらに彼は光永さんの会社との取引状況を何気なく叔父に尋ね、自分が出来ることは協力するからお見合いの件で私をこれ以上責めないでほしいと言ってくれた。
「それと、翠々さんにマンションから出て行くようにおっしゃっていましたが、このまま住まわせてもらえませんか?」
愛想笑いをしていた叔母の目元がヒクヒクとわかりやすく引きつった。
私を蔑み、嫌がらせのように追い出そうとしたことが琉輝さんにバレていると気づいたらしい。
「もちろん! 翠々は私の姪ですもの。だけど結婚したらふたりで新居に移るんでしょう?」
私に金輪際縁を切ると言ったのは、結局口だけだったのかな。
それよりも、結婚というワードが出たので目を丸くして叔母を見た。
つい最近交際し始めたと琉輝さんが最初に説明したはずなのに、どうしてそういう思考に至るのかとあきれてしまう。
「叔母さん、結婚は……」
「あら、しないの?」
「僕はいずれしたいと考えています。しかし翠々さんは社会人になったばかりなので、折を見て」
琉輝さんの力強い言葉に、私だけでなく叔母までうっとりとしていた。
なんだか間接的にプロポーズされたような気持ちになって、私の顔にどんどん熱が集まってくる。
すべて円滑に話が終わり、私と琉輝さんは叔父の家をあとにした。
カフェで私にアイスコーヒーを浴びせるくらい激怒していた叔母が、態度をガラリと変えた。完全なる手の平返しだ。
彼がいなかったら、私は叔母から本当に縁を切られていたと思う。
完全に関係が修復したわけではないけれど、いったんはこれで落ち着いた。
「琉輝さん、今日はありがとうございました。お金は働いて返しますので」
「勝手に言って悪かった。余計なことだったかもしれないけど、早く返済しておいたほうがよさそうだったし」
隣を歩く琉輝さんがおもむろに私の手を取ってギュッと握った。
「翠々は助けて欲しくても我慢するタイプだろ? これからはなんでも俺に言えよ」
もっと頼ってもいいのかな。彼の包容力を前にすると、溶けるくらい甘えたくなってしまう。
「あれも……その場しのぎで言ったわけじゃないから」
「あれって?」
「結婚のこと」
わざと意味深な表情をして顔を覗き込まれたので、私は胸をときめかせつつもオロオロと視線を逸らせた。
「プロポーズはちゃんとするから期待してて。逃げるなよ?」
うれしくてたまらなくなった私はここが路上だということも忘れ、貼りつくように彼の胸にピタリと頬を寄せた。
すると彼は私の頬に右手を添えて妖艶なキスを落とす。
「逃げませんよ。琉輝さん、大好きです」
「俺のほうが何倍も惚れてるよ。もう離さない」
離れられないのは私も同じだ。
こんなに魅力的で、私の心を揺さぶる人はほかにいないから。
これからもずっと琉輝さんと一緒に生きていきたい。
生涯をかけて愛する人に出会えたボストンは、私たちの思い出の場所。
またいつかふたりで行けたらいいなと、彼の瞳に囚われながらそう思った。
――― END.