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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.21 別々
《🎼🍍side》
その日から。
父さんは、入院することになった。
🎼🍍「またね、父さん」
🎼🍵「おやすみ、ひまちゃん」
🎼🍍「………うん、おやすみ」
病室の中。
白いカーテンと、機械の音。
その中で交わす「おやすみ」は、家で言うそれとは少し違って聞こえた。
静かで。
少しだけ、遠くて。
扉を閉める。
カチャン、と小さな音。
その音が、やけに響いた。
扉の横にあるプレート。
“苗暇”
俺の苗字。
そこに、父さんの名前がある。
ここに、父さんがいるって証拠。
……なのに。
なんか、遠い。
🎼🌸「なつ、そろそろ行くぞ」
後ろから、らんの声。
🎼🍍「うん」
振り返って、歩き出す。
父さんが入院してから。
俺は自分の家じゃなくて、らんとみことの家に泊まることになった。
少し前を歩く、らんの背中。
その後ろを、ついていく。
少し離れた場所にある待合スペース。
🎼🌸「みこと」
らんが声をかける。
🎼👑「……あ、なっちゃん!」
ぱっと顔を上げて、みことが走ってくる。
🎼🍍「帰ろ」
🎼👑「うん!」
ぱたぱたと、軽い足音。
🎼🌸「みこと、病院は?」
🎼👑「……走らない」
🎼🌸「大正解」
らんが、くすっと笑って頭を撫でる。
……いいな。
なんか、 普通で。
自然で。
俺も、ああいうの。
───いや。
ダメだ。
父さん、今大変なんだから。
俺がちゃんとしないと。
🎼🍍「……行こ」
小さく言って、歩き出す。
◇
病院の外。
夜の空気は、少し冷たかった。
車に乗り込む。
エンジンの音。
シートベルトの音。
ドアが閉まる音。
全部、やけに大きく聞こえる。
でも。
その静けさを壊すみたいに。
🎼👑「ねぇねぇなっちゃん!」
みことが身を乗り出してくる。
🎼👑「今日さ!学校でね、算数のテストあったの!」
🎼🍍「へぇ」
🎼👑「でね!ぜんぶできたと思ったのにさ!」
🎼🍍「うん」
🎼👑「全然できてなかった!」
🎼🍍「元気に言うことかよ」
🎼👑「えー?!だってできたと思ったんやもん!」
にこっと笑う。
その顔は、心の底からの笑顔で。
🎼👑「あとねあとね!体育でさ、ドッジボールやったの!」
🎼🍍「また?」
🎼👑「また!」
🎼🍍「好きだな」
🎼👑「だって楽しいもん!」
楽しそうに、ずっと話す。
今日あったこと。
友達のこと。
先生のこと。
給食の話。
止まらない。
でも。
その声を聞いてると。
なんか、少しだけ。
楽になる。
🎼🌸「なつ、夜何食べたい?」
らんが前から聞いてくる。
🎼🍍「なんでもいい」
🎼🌸「いちばん困るやつな」
🎼👑「ハンバーグ!」
みことが即答する。
🎼🍍「おー、いいなハンバーグ」
思わず、俺も乗る。
🎼🌸「…じゃあ、夜はハンバーグな」
🎼👑「やったぁー!!」
車の中に、明るい声が響く。
……本当に。
普通だ。
◇
家に着く。
らんの家。
少し広い玄関。
知らない匂い。
自分の家じゃない空気。
靴を脱ぎながら、ふと思う。
……父さんがいない家。
その代わりに。
らんと、みことがいる。
独りじゃない。
だから、 まだ。
まだ、マシ。
🎼🌸「手伝ってくれる?」
キッチンから、らんの声。
🎼👑「はぁーい!」
🎼🍍「うぃー」
みことと一緒に返事する。
台所。
三人で並ぶ。
玉ねぎを切る音。
フライパンの音。
油の弾ける音。
🎼👑「なっちゃん!これなにやるの?」
🎼🍍「それ混ぜるやつ」
🎼👑「こう?」
🎼🍍「そうそう」
🎼🌸「お、うまいじゃん」
らんが笑う。
🎼👑「そうでしょ!」
みことが嬉しそうに笑う。
🎼🌸「なつ、パン粉そこ取って」
🎼🍍「はい」
自然と手が動く。
自然と会話がある。
……あったかい。
でも。
その中に。
ひとつだけ、足りないものがある。
父さん。
🎼🍍「……」
一瞬だけ、手が止まる。
でも、すぐに動かす。
……大丈夫。
大丈夫だよ、 父さん。
俺、 ちゃんとやれてる。
今はまだ。
大丈夫だから。
《🎼🍵side》
白い病室。
静かすぎる空間。
カーテンを少し開ける。
夜風が、すっと入ってくる。
空は、曇っていない。
星も、少し見える。
機械の音。
一定のリズム。
点滴の滴る音。
自分の状態が、全部数字で見える。
血圧。
心拍数。
呼吸。
全部。
“生きてる”ってことが、可視化されてる。
皮肉だな、って思う。
薬のおかげか。
呼吸は、少しだけ楽だった。
背中を枕に預ける。
ゆっくり、息を吐く。
🎼🍵「……ひまちゃん」
名前を呼ぶ。
誰もいないのに。
あの日。
聞かれた。
『病気なの?』
『がんなの?』
泣きながら。
震えながら。
それでも、ちゃんと聞いてきた。
『嘘つき』って。
『大丈夫じゃない』って。
……ほんと、その通りだ。
大丈夫じゃない。
全然。
むしろ、どんどん悪くなってる。
もっと、ちゃんと隠せてたら。
……いや。
違うな。
隠せても、なかった。
咳も。
薬も。
通院も。
全部、見せてた。
気づかない方が無理だった。
🎼🍵「……ごめんね」
小さく呟く。
あの子に。
ひまちゃんに。
ちゃんとしたこと、何も言えてない。
守れてない。
安心させてもあげられてない。
父親なのに。
🎼🍵「……はは」
小さく笑う。
情けないな、 本当に。
ふと、天井を見る。
白い。
何もない。
ここで、あとどれくらい過ごすんだろう。
どれくらい。
ひまちゃんと離れてるんだろう。
🎼🍵「……やだな」
ぽつり、 本音が落ちる。
離れたくない。
まだ、一緒にいたい。
もっと、見たい。
笑ってる顔も。
怒ってる顔も。
泣いてる顔も。
全部。
全部。
🎼🍵「……もう少しだけ」
願う。
誰にでもなく。
ただ、 静かに。
🎼🍵「時間、作らないとね」
その言葉は。
夜の中に、溶けていった。
next.♡1000
コメント
2件
離れてても心はひとつって、こういうことなんだ😭 続き、楽しみにしてるねん🫶🏻💕︎︎🙂🎐
やだぁっ、😭😭 親いるのに泣きそう... えぐい、🍵く~んっ… 頼むから、頑張ってくれ