テラーノベル
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監獄ダンジョン・カルケル第11層。
そこではウォーロストから脱出して来たZナンバーおよび囚人が続々と回復を終え、戦いに備えていた。
「2番様! 是非とも侵攻作戦の責任者にはわたくしを!! このZ3番、あなたのお役に立って見せましょう!!」
「その意気込みは買うが、少し落ち付け。お前がウォーロストに送致されてから20年近い時が流れている。戦闘の感覚を取り戻すには時間がかかるだろう」
「で、ですが!」と食い下がるZ3番に2番は言う。
「せっかくこうして再会できたのだ。そんな旧知の仲であるお前を、私はすぐに失いたくはない。お前の技術力は現在のアトミルカでも重宝するだろう。今は待つときだ」
「に、2番様がそう仰られるのならば……! このZ3番、ご命令に従います!!」
2番が「ああ」と応じたタイミングで、通信機が緊急事態を告げるために鳴く。
「こちらは3番です。どうしましたか、10番くん」
「3番。スピーカーにしろ。私も聞くべき報告のはずだ」
3番は速やかにスピーカーフォンに切り替える。
『こ、こちら! カルケル地上です! 探索員協会の監察官が多く乗り込んできておりまして!! その、何と申しましょうか!!』
「落ち着け。2番だ。端的に事実だけを報告しろ。お前に責はない」
10番は一度深呼吸をして、努めて冷静に現状を報告した。
『囚人のピータン・スリッピーは倒され、姫島幽星も苦戦を強いられております。さらに、5番様が敗れました! 自分を逃がすために……!! 戦いもせずに情けないご報告をするこの10番をお許しください……!!』
2番は「ほう」と言って、顎髭を触った。
これは彼の考える時に出る癖である。
「どうやら、探索員どもも頑張っているようだ。第11層には煌気の遮断膜があるせいで、地上の状況は分からぬからな。10番。よく生きて報告してくれた」
『も、もったいなきお言葉……!!』
2番はどうしたものかと思案する。
既に手持ちの【転移白石】は使い切ってしまったゆえ、移動手段は徒歩しかない。
例えば、自分のみの単独行動であれば数分ののちに地上に出られるが、そうなれば囚人やZナンバーを指揮する者が3番だけになってしまう。
3番は他の構成員と折り合いが良くない事を理解している2番。
ベストなパターンはこの場の全員が一度に地上へ向かう策だが、時間がかかり過ぎる。
かと言って、便利な転移スキルを持っている者もいない。
「……なるほど。少々厄介だな。時間をかければ、地上の敵は更に増えるか」
そこに忍び寄る、太った男が1人。
体から発する香りは濃厚な豚骨スープを想起させ、大半の人間に嫌われる。
「あのぉ。よろしいですかねぇ。あ、2番様ぁ! お久しぶりでございますねぇ!」
「誰だお前は。脱獄者のリストにも載っていないな?」
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「い、嫌ですねぇ! ボクですよ! アトミルカの、そしてぇ! 2番様の忠実なる下僕! 8番・下柳則夫でございますからねぇ!!」
豚、どさくさに紛れてウォーロストからの脱出を果たしていた。
「8番……。ああ、思い出した。考えられんミスを繰り返して、最後はアトミルカの内情を知っている限り敵に漏らした、あの8番か」
「ひ、ひえっ! 違うんですよねぇ! これも、敵を欺くための演技だったんですよねぇ! 信じてください!!」
「私が信じる者は私が信じた者だけだ。お前はそうではない」
取り付く島もない2番だが、下柳も勝算がなければこんな怖いおじさんの前にノコノコやって来ない。
彼は、囚人服の下にある三段腹をちぎり取って、2番に差し出した。
「これは? なるほど、今すぐ私に殺されたいのか?」
「ひぇぇ! 違うんですよねぇ! これは『脂肪隠蔽』と言うスキルでして!!」
下柳は脂肪の塊から黒い石を取り出した。
それは、まごう事なき【稀有転移黒石】だった。
「いつかアトミルカのお役に立とうとですねぇ! 収監される前にお腹の中に忍ばせておいたんですよねぇ!! ぼ、ボクはカルケルに来た事がありますのでねぇ! 転移座標も把握しているので、皆様で一気に転移が可能なんですよねぇ!!」
カルケルのセキュリティは万全だが、ウォーロスト送りが決定している囚人についてはその鉄壁の検閲がやや緩くなるきらいがある。
「どうせ2度と出て来られないし、煌気も封じられるし」と、刑務官の警備意識が低くなっているのも事実。
その隙をついて、下柳は【稀有転移黒石】を持ち込んでいた。
当然だが彼の封じられた煌気ではウォーロストで何度試しても発動しなかった。
が、世の中なんでも備えてみるものである。
巡り廻って、今、この瞬間。
下柳則夫は間違いなくアトミルカのキーマンになっていた。
「……いいだろう。……何と言ったか。名前は忘れたが、8番。お前の口車に乗ってやろうではないか。ただし、失敗したら分かるな?」
「ひぇっ! も、もも、もちろんでございますからねぇ! そもそも、この下柳則夫、ミスは少なく成功は多くがモットーでございます、ふ、ふひひっ!」
2番は3番に「この豚の煌気を回復させろ」と命じる。
3番は「荒っぽくなっても構いませんか?」と確認するが、2番は無言だった。
「了解しました。こっちに来なさい、豚柳くん」
「下柳ですけどねぇ! あ、痛い! え、ちょ、なにを! ぶひぃぃぃぃぃぃっ!!」
2番は豚の悲鳴を聞きながら、眉間にしわを寄せた。
間違いなく、この豚は自分が在任している間のシングルナンバーで1番の失敗作であると。
◆◇◆◇◆◇◆◇
こちらは日本探索員協会本部。
雨宮順平上級監察官と木原久光監察官を戦場に投入し、無事に成果を上げている様子を見て、彼らは次の作戦に動き出していた。
上手くいっているとは言え、敵の数はまだ多く、その上強い。
雨宮は酔っ払いであり、木原は煌気を封じられている状態。
楽観視などできようはずもない。
「南雲。大丈夫なのか? 誰かがやらねばならん事だとは分かっている。だが……。いや、いかんな。私とした事が、私情を持ち込んでいる」
探索員装備の白衣に袖を通して、『双刀』と『双銃』を携えた南雲修一がそこにはいた。
彼はいつになく凛々しい表情で五楼に向かい敬礼する。
「南雲修一監察官! これより逆神六駆救出作戦のため、ドノティダンジョンへと潜ります! ご安心ください、必ずやり遂げてみせます!!」
ドノティダンジョンは、監獄ダンジョン・カルケルの横にある。
現在は緊急時の連絡通路として使われている、双子ダンジョンの片割れ。
そこに単身で向かい、第11層まで一気に到達したのち逆神六駆および他2名を異世界・ウォーロストより助け出す。
これは南雲自身が計画立案したものであり、ならば適任者も自分であると立候補した。
「五楼さんが指揮を執ってくださるおかげで、私は自由に動けます」
「良いか。無理はするなよ? お前は強い。だが、実戦続きだった探索員の職から離れて久しいのだ。……頼むから、生きて帰って来てくれ」
「五楼さん……!!」
「帰ったら、肉を食いに行こう」
山根健斗Aランク探索員が【稀有転移黒石】の座標をドノティダンジョンに設定し終える。
「熟年カップルのお二人! 準備できたっすよ! あっ! もう少し準備しといた方がいいっすか!? じゃあ、もう少し準備しとくっすね!!」
「やーめーろーよぉー! やーまぁーねー!! 変な空気にするなよ! 私、これからモンスターも普通に出るダンジョンに単身で挑むんだぞ!?」
「もういいから! 【稀有転移黒石】ちょうだい!!」と山根からそれを奪い取る。
南雲は速やかに転移して行った。
まずは時間との勝負。
南雲修一のダンジョン攻略が始まった。
コメント
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わあ、第395話お疲れさまです!「復活のデブ」ってタイトルに思わず笑っちゃいましたが、読んでみたら下柳さんがまさかのキーマンに!お腹に隠したブラックストーン、ウォーロスト脱出の伏線がここで効いてくるんですね。2番の「豚」呼ばわりと3番の乱暴な煌気回復のくだり、コメディと緊張が絶妙で大好きです。南雲監察官の単身突入も熱くて、次が気になりすぎます!