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「水戸くん。少し良いか?」
「川端さん! すみません、ストウェアの煌気エンジンの調整をお任せしてしまい! 本来ならば若輩者の自分がやるべきですのに!」
「気にしなくて良い」
「本当に雨宮さんとは大違いだな、川端さんは! 爪の垢でも飲ませてやりましょう! 上級監察官殿に!」
彼は川端一真監察官。
45歳で独身を貫く、日本探索員協会で最後に顔を出した監察官。
非常に寡黙な事で知られており、下手をすると1日一緒に過ごして彼の声を聞かない事があるほどに、その口は重い。
だが、仕事はきっちりとこなすし、さらに丁寧に仕上げる。
その様子から「職人」と呼ばれており、「彼に任せておけばミスは起きない」と盤石の信頼を得ている男である。
その寡黙さが災いするとは、なんと皮肉な事だろう。
「水戸くん」
「はい、何か問題がありましたか? 珍しいですね、川端さんがこんなに自分の名前を呼んでくれるなんて! はは、ちょっと嬉しいです!」
「そうか」
「あれでしたら、一緒にお昼ご飯でも行きますか? まだですよね、今までストウェアの動力室におられたのですから」
「そうだ」
「でしたら、是非!」
「水戸くん」
「はい?」
「死んでくれ」
「はっ? ……うわぁっ!?」
川端一真監察官の右腕は、異形の凶器に変異していた。
一見すると鎌のようにも見えるが、その右腕は確かに生物として存在しており、太い紫色の血管が浮き出ていた。
両肩には巨大な宝玉のようなものが光っており、彼の攻撃を寸でのところで躱した水戸は混乱する頭で状況を認識する。
その宝玉には見覚えがあった。
アトミルカが使う、怪物に変異するためのイドクロア加工物。
『幻獣玉』であった。
それが2つも、しかも通常の3倍はあろうかというサイズのものが川端監察官を蝕んでいる。
すぐに水戸は気付いた。
「川端さんは操られている!」と。
次に水戸は考える。
一体、いつから川端監察官は正気を失くしていたのかと。
昨日はいつも通りの様子に見えたが、川端と言う男は感情が顔に表れない。
確信をもっていつから敵の影響下にあったのか、水戸には判断が出来なかった。
よって、若き監察官は最悪の想定をする。
「コンラルフ基地司令!! 今すぐにストウェアの動力を切ってくれ!! いや、破壊してくれ!! 責任は自分が持つ! 非常事態だ!!」
「ミスター水戸。それはできない。死んでくれ」
水戸監察官の最悪の想定よりも、事態は更に悪かった。
川端監察官に寄生しているアトミルカの非情な罠の名は、『幻獣玉・増殖』と言う。
その腕の鎌で斬られた者は、傷口を介して『幻獣玉』が体内に入り込み、そのまま寄生されてしまう。
解除するには最初に『幻獣玉・増殖』に侵された、親宿主の意識を絶たなければならない。
当然だが、そのような仕組みを水戸監察官は理解していない。
だが、「どうやらこれは人から人へどんどん感染る攻撃らしい」と言う本質的な部分にはすぐに気付く。
水戸はストウェアに警報を出した。
「総員退避。とにかく走って、後ろに誰もいなくなるまで逃げろ」と、サーベイランスを起動させて叫んだ。
「水戸くん。死んでくれ」
「……あとは、川端さんたちの相手か。これは、骨が折れそうだ!」
水戸は腰に装備しているイドクロア製の鞭を取り出した。
彼はこの鞭を煌気で操作して武器とする、ミドルレンジを得意とする戦法の持主。
この点に関してだけは幸運であった。
ある程度の距離さえとれば、水戸信介の実力であれば不意打ちを食らう可能性も万に一つのレベルまで低下する。
「どうにか、五体満足で無力化したいが……!! 『ムチムチ鞭』、頼むぞ!!」
水戸の武器は、雨宮上級監察官が作ったものである。
だから、緊急事態で彼がふざけている訳ではない。
『ムチムチ鞭』とか言う名前を付けた時点でふざけていた、雨宮上級監察官が悪いのだ。
「水戸くん。死んでくれ。『鉄砲水』」
「ちぃ! スキルまで使えるのか!? 『ムチムチサークル』!! ぐっ、さすが川端さん……!! よりにもよって水スキルが得意なあなたと海上戦とは……!!」
水戸信介の孤独な戦いが始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
時を同じくして、7番ロン・ウーチェンが率いる潜水艇が人工島・ストウェアに接岸する。
煌気感知システムは川端監察官を操り、既にシャットダウン済み。
「ほお。上手くいったな。動力室の不都合なシステムだけ切断してある。あの川端と言う男、かなり優れた人物だったようだ」
悠々とストウェアの動力室を占拠した7番。
22番が後を追ってきて、「見張りの探索員は4人とも感染済みです!」と上官に告げる。
「よし。では、これよりストウェアを我らアトミルカのものとする。現状、異物は島の上で戦っている日本の監察官。水戸とか言ったか。あいつだけだ。あの若造は情に弱そうだからな。川端を倒せないだろう」
「7番様! 質問よろしいでしょうか!」
「なんだ? お前、結構グイグイと聞きたいこと聞いてくるな?」
「申し訳ございません! 気になったら聞かずにはいられない! それが小官の悪い癖です!!」
「……なんだか、異国の人気ドラマに出て来る刑事のようなセリフだな。まあ、良い。言ってみろ」
22番は敬礼して「ありがとうございます!!」と言ったのち、上官に聞いた。
「川端なる監察官にどうやって『幻獣玉』を仕込んだのですか!? 相手は日本の監察官! よほど油断させなければ不可能かと愚考しますが!」
「ああ、悪くない質問だ。それはな、昨日の夜の事だ。川端はいつも同じバーで晩酌をするという情報は既に掴んでいた。そこに刺客を差し向けたのだ」
「酔ったところを襲ったのでありますか!?」
「そうとも言えるが、自分から墓穴を掘ったのだよ、あの男は」
首をかしげる22番に、7番は答えを提示した。
「行きずりの女に誘惑させた。川端がおっぱいジャンキーだという情報は既に掴んでいたからな。まんまと溺れてくれたよ。おっぱいに」
「……おっぱい。小官、これは聞かなかった方が良かった気がいたします!!」
悪辣な罠のきっかけがおっぱいだった事に、22番は何となくショックを受けた。
それを知ってか知らずか、7番は続ける。
「今頃は、日本の上級監察官も『幻獣玉・増殖』の親宿主になっているだろうよ」
「ま、まさか……! 7番様……!?」
「既に、雨宮上級監察官の元へ新鮮なおっぱいをいくつか送り込んでいる。雨宮がおっぱい、尻、太ももの重篤なジャンキーだという情報は既に掴んでいる」
「尊敬すべき7番様にこのような事を申したくはありませんが! 掴んでいる情報が中学生の猥談のようで、小官は心がモニョっとしております!!」
7番は「くっふっふ」と笑いをかみ殺す。
ロン・ウーチェンは事前に敵の情報を徹底的に調べ尽くす男。
既に、戦いは半年前から始まっていたのだ。
日本から出張していた監察官たち3人の中に2人もおっぱいジャンキーがいたのは、痛恨であった。
「さて、しばらくは動力室から状況を眺めさせてもらおうか」
「7番様! シリアスなトーンでおっぱい連呼した後では、いささか締まりません!!」
7番は椅子に座り、長い脚を組んでモニター越しに水戸の奮戦を眺める。
低ランクのイギリス探索員を逃がしながら、川端監察官とコンラルフ基地司令2名を相手に互角の戦いをする水戸を眺めて、口笛を吹くロン。
「可哀想になぁ。2人が相手ならどうにかなったかもしれんのに」
水戸の背後に、強い煌気を持つ者を見つけた7番は高笑いをした。
それが、おっぱい・尻・太もものジャンキー三冠王。
雨宮順平上級監察官のシルエットだったからである。
コメント
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面白かったです…!「♡♡♡ジャンキー」がまさか敵の情報戦略の根幹だったとは。川端さんの寡黙な佇まいから一転しての凶器変異と感染の仕組み、静かな恐怖がありました。水戸さんが真面目に「ムチムチシリーズ」を連呼しながら孤軍奮闘するギャップがたまらない。そしてラストの雨宮三冠王の登場…これはもう、笑うしかない。伏線とギャグの塩梅が本当に上手いですね。続きが気になって仕方ないです!