母や私の名を思わずと言った感じで口にしてしまった父、ナガチカは言葉を改めて口にした。
「こ、これは失礼しましたナッキ殿、思わず公私を混同してしまいそうになりました、がぁっ! 取り敢えず、ここに来るまでに有った水路の魔力、魔力過多の件を何とかさせて頂きますね! ちと、お待ちをぉ!」
そう言うと、妻子の安否を脇に置き、ナガチカは『美しヶ池』の奥へと歩いて行ってしまったのである。
…………ガチャガチャ、ガチャン! ギィギギギギィ! バタンッ!
うん、何か開けたよね? 鍵かな? その後、錆(さ)びてたのかな? 重そうな扉を開いて閉じた、そうだよね? 的な音が聞こえたようだ。
……………………
一向に戻ってこないナガチカに、もうナッキの仲間たちは彼の存在自体を薄っすら忘れかけてしまっていた夜中になって、馬鹿みたいに明るい声が『美しヶ池』に響いた、こうだ。
「はいはーいお待たせしましたねぇ! 水路に有った魔力はこの池の上部に移って貰うように頼みましたよぉ! いやぁ良かったぁ! あの蟹ったらぁ、表面は化石化していましたけどね、話し掛けたら目覚めてくれましたからぁ! まぁーたくっ寝相が悪いんですよね、昔からぁ! もう少し長く固まっていたりしたらぁ、あのお猿を呼んで投擲(とうてき)で崩して貰うしか無かったですからねぇー! 良かった良かったぁ!」
蟹? それにお猿、か……
と言う事はリョウコさんが倒れた後も、あの二匹、いや二柱は現世(うつしよ)に残ったって事かな? ふむ……
「おかえりナガチカ、随分遅かったね」
一応責任者としてウトウトしながらも待っていたナッキの声にナガチカは笑顔で答える。
「ああ、この池の奥に地底湖が有るとペジオが話していた事を思い出したのでね、昔馴染みが住み着いているのだろうと行ってみたらビンゴでしたよ♪ それにペジオが使っていたのでしょう、ラボを見つけましてね、残されていた資料を少し調べてみたんですが、仰っていた『魔力草』、あの草の正体も判ったと思いますよ♪」
「えっ、そうなの?」
「はい♪ ちょっと遅くなってしまいましたけど皆さん集まって貰ったり出来ますかね? ご説明しますよ」
ナッキは覚えたての『存在の絆』経由で仲間達の幹部へ連絡した。
既に充分夜中だが皆起きていたのか、僅(わず)かな間を置いてナッキは答える。
「メダカ達は早寝だから寝ちゃったんだけど他の皆は直ぐ来るって! あと鳥達は夜目が効かないからヘロン一匹だけだけど」
そう言っている間にも、『美しヶ池』に暮らしているメンバーが集まり始めている。