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部活。好きなことに集中して取り組める時間。裕哉は部活の時間をこよなく愛している。取り掛かったと思えば、もう部活が終わってしまった、ということもしばしば。好きなことにはのめり込みすぎる性格である。
──チャイムが鳴った。部活終了だ。
チャイム前に片付けをするべきだが、裕哉は、チャイムが鳴ってからやっと描くのをやめた。
「やっべ、片付けねぇと」
裕哉は急いで片付けを始めた。
「四方田くん最後かな?鍵の返却お願いしてもいいかな?ごめんね」
三年の伊藤先輩が、片付けに梃子摺る裕哉にそう告げて帰った。
「えぇマジか」
心で呟き、
「分かりました」
と口にした。
誰も残ってないと思っていたが、前から水道の音がした。裕哉は前方の蛇口を見た。すると、夏帆が筆洗とパレットを洗っていた。
裕哉も道具を洗いに蛇口に向かった。すると、夏帆が俯きながら裕哉に話しかけてきた。
「・・・あ、あの、その、さ、さっきはありがとうございました。あの、良ければ、私、鍵行きましょうか?」
夏帆はもう既に机の片付けは終わり、もう洗うだけだったが、裕哉の机にはまだ画材が残っていて少し時間がかかりそうだった。
「ありがとうございます。でも、僕まだ片付けかかりそうなんで、僕行きますけど」
と言いかけたが、せっかく、話すのが苦手そうな子が話しかけてくれたのだ。か弱い子の優しさを無碍にするのは躊躇われた。結局、
「本当ですか?マジすいません。お願いしてもいいですかね」
「は、はい」
「ありがとうございます。ちょっと待ってください」
「あ、はい」
裕哉は急いで片付けた。絵の具セットを詰め込み、とにかく急いで終わらせた。片付けの間、夏帆は照れ臭そうにこちらをチラチラ見ていた。
「すいません、時間かかって。終わりました」
「は、はい」
「じゃあ鍵お願いします。ありがとうございます。すいません」
「あ、はい」
裕哉は細く、綺麗な小さい手に、無機質な大きな鍵を渡した。