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裕哉は夏帆に別れを告げると自転車小屋へ向かった。小屋の前の自販機で麦茶を買って飲んだ。そして小さな籠に大きな鞄を入れるのに梃子摺っていると、小さな足音が聞こえてきた。振り向くと、夏帆が少し俯いて歩いてきていた。そして裕哉の隣の自転車の籠に鞄を乗せた。
「・・・ん?四辻さん?」
「ふぇっ?あ、あ」
「四辻さんも自転車通学?」
「そ、そう、です、はい」
裕哉は夏帆に興味が湧いていた。慣れないが、それっぽく話を振ってみる。夏帆と仲良くなってみたいと思った。何となく、夏帆の家がどこら辺なのか聞いてみた。
「四辻さんって家何町ですか?」
「え、あ、えっと、み、三橋町の竹岩って所です」
「竹岩?」
裕哉は極めて家が近い事に驚いた。町が違うため、中学校区は違うが、町境を跨いで隣同士の地区だった。まさに、すぐそこなのだ。
「本当ですか?めっちゃ近いです」
「・・・え、あ、えっと、どこ町なんですか?」
「菱岡町の波野です」
「ほ、ほんと、お隣さんですね」
「ですね」
裕哉は夏帆の言ったお隣さんという言葉の響きが妙に可愛く感じた。
そうこう話していたうちに、六時半を周っていた。裕哉は家が近くなのを知り、勇気を出して言ってみた。
「あー、家の方角同じだし、一緒に帰りませんか?あ、すいません。嫌なら全然いいです」
「ふぇっ?あ、いや、ぜ、全然いいですけど」
裕哉は夏帆がモジモジしているのを見た。一緒に帰ろう、だなんて早すぎたと後悔した。
「・・・もう遅いし早めに帰りましょうか」
「は、はい」
後には引けないと心に決め、裕哉は夏帆と校門まで自転車を引いて歩いた。生徒指導の森下先生が校門に立っていた。
「暗くなったからな、ライト点灯忘れずにな」
「わかりました。さようなら」
「はい。さようなら」
縦に二人並んで自転車に乗る。黄昏時の風を切って進む。夕方とはいえ、暑い。上り坂に差し掛かり、立ち漕ぎで進む。