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玄関のチャイムが、二度、三度、鳴る。そして家の前に鍵を落とす音が私の耳の中に響く。
『 …マスターだ。 』
そう思い胸が高鳴りながら玄関の鍵を開けて差し上げた。
優しさで黒く染まりきらなかったような茶色の髪、その暗闇で何もかも飲み込んでしまいそうな真っ黒な目、そして高く、スマートに立ち振る舞われるマスターは私を少し見下している様に見えたが、「ただいま、ニョン」と一言 。
その言葉に魔法を掛けたように甘く、優しさで包まれた声色で私に言葉を送る。
この言葉は私だけのものだ。
『 meow… 』
嬉しい反面、マスターのその声に惚れ惚れしてしまい、弱々しくそう鳴いた。
ニコっと私にそう笑いかけると私はボンっと漫画の効果音が出たかのように一気に顔が熱くなって、汗の量もいつにも増して尋常ではなかった。
その様子を見てマスターは私の性格を全て知り尽くしているかのように軽く顎を撫でては指先で顎を上げた。
長い間じ、と見詰められて期待と少しの恐怖で目を瞑ってしまった。
しばらくすると、
「Hmmm……」
とマスターは唸った。ダメだったか?怒らせてしまったか?そう考えがよぎり、恐ろしくなった私は勢いよく目を開けた。
そうすると、マスターと目が丁度合い、さっきとは違う少し意地悪のような笑みを私に向けた。
・・・急過ぎて驚いた、いつも優しさで溢れているマスターからあの顔を向けられたのが。
汗が滝のように流れてくるのが分かる、顔もマスターから見たらやかんのような顔になっているだろう。
この感情をうまく言葉にできなくて、ただただ固まっていた。マスターはるんるんと軽い足並みで洗面台に向かって行った。
初めて見る顔だった。もしかしたら私がマスターとの交流が少ないだけでニェンやランダルは見ているのかもしれない、そう考えると少し苛立った。
そんなことを考えている自分を一瞬客観的に見て自分でも珍しいと思った。
マスターも手を洗ったんだし、私も少し水で顔を洗って頭を冷やした方がいいだろう。