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しめさば
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その瞬間、私は思わず目を伏せてしまった。
距離があるとはいえ、シルヴェスターが放った強力な斬撃――
エミリアさんの支援魔法があったとしても、その防御力には限度がある。
限度を超えた強い攻撃を受ければ、当然のようにダメージは入るし、下手をすれば死ぬことだって――
「うにゅ……」
「――っ!!」
微かに聞こえてきたのはリリーの声だった。
そういえばエミリアさんの横にはリリーが一緒にいたはず……。
私が慌てて顔を上げると、倒れているエミリアさんの前で、リリーが彼女を護るようにして身体を張っていた。
服は破れ、怪我もしているようだ。しかしその目は、シルヴェスターを強く睨みつけている。
「リリー!! 大丈夫っ!!?」
「ママ……。お姉ちゃんは……護ったの……」
リリーはそう言うと、そのままエミリアさんに覆いかぶさるように倒れてしまった。
「リリーっ!!」
私が慌ててリリーの方に向かおうとすると――
「アイナ!! 今は、そうではない!!
お主のやるべきことを、しっかり考えろ!!」
――っ!!
……グリゼルダから叱責されてしまった。
確かに今、私がやることはリリーの元に駆け寄ることではない。
でも、でも――
……いや、それなら手早くシルヴェスターを片付けて、リリーの元に駆け寄るのみ!!
ルークの方を改めて見ると、引き続きシルヴェスターと戦っている。
しかし一瞬の隙を突いて――
「弾けろッ!!!! 『重爆響崩撃』ッ!!!!」
ズゴオォオォオォオオオォォオオオンッ!!!!!!!!
ルークの叫びと共に、空気中に凄まじい衝撃が放たれた。
私たちが王都から逃げるときにも使った、ルークの最強の必殺技だ。
シルヴェスターはそれを避けたようにも見えたが、しかしそのまま、海の方向に吹き飛ばされた。
そして飛ばされた海の方には、大量の水の塊が宙に浮いている。
その下にはマイヤさんがいるから――
……浮いている水は、マイヤさんが魔法で作り出したものなのだろう。
あんなにも大量の水が一気に襲い掛かれば、誰であろうと隙くらいは生まれるはず――
「急ぎましょう! このチャンス、逃がすわけにはいかないっ!!」
「うん!!」
「うむ!!」
私とジェラード、グリゼルダは海の方へと走り出した。
今がチャンスだ。ここで一気に決めなければ――……もう、これ以上のチャンスは来ないかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私たちが海――シルヴェスターが落ちた場所に近付くと、宙からいくつもの水の塊が降り注いでいた。
マイヤさんが怒りの形相で、何度も何度も、魔法を繰り返し使っている。
魔力を無造作に使いすぎてはいるが、しかしそのおかげで、このままシルヴェスターに近付くことができそうだ。
「アイナ様、このままでは濡れてしまいますが――」
「ううん、大丈夫。今はそんなことを言っている場合じゃないから」
「……そうですね、失礼しました」
私たちは、水が容赦なく降り掛かる海の中へと入って行った。
でも、せめて靴くらいは脱いだ方が良かったかもしれない――
……いや、その間にシルヴェスターが復活してしまっては元も子もない。
今は1秒でも早く、この局面を何とかしないと……。
「――よし、射程に入った!
それじゃ早速……!!」
海の中を進み、海面が荒れる中で神剣デルトフィングの場所を捕捉する。
ここまでくれば、いくら神器であろうとも――
……。
……あれ?
神剣カルタペズラのときと同じように錬金術を使うも、何の反応も無い。
何だか嫌な予感がする。
今の行動結果について、鑑定スキルで状況を把握してみると――
──────────────────
【錬金術の実行結果】
特殊な力による阻害、失敗。
成功確率が1%に低下中
──────────────────
――……何てこった。
鑑定スキルでもたまにあったけど、高レベルのものに対しては、スキルが上手く働かないことがある。
『特殊な力』というのはきっと、『螺旋の迷宮』の力――
……しかし確率が1%というのであれば、錬金術を使っていけばいずれは成功させることはできる。
シルヴェスターは海に拘束されているような状態だから、今のうちに回数を試行すれば――
――そう思った瞬間、周囲の水が大きく弾けた。
海水が上に横にと吹き飛び、少しあとには雨のように、海水が空から降ってきた。
「アイナ様!!」
「だ、大丈夫! 一体何が――」
「シルヴェスターがやったのだと思います!
ここは一旦、下がりましょう!!」
ルークは一時退却を求めた。
海の中ではシルヴェスターの動きは遅くなるが、こちらの動きだって遅くなってしまう。
マイヤさんについては海の方が速いだろうが、それは特殊な例なのだ。
「分かった、全員戻りましょう!
マイヤさんも――」
「それだけは聞けないわ!
こんなやつ、私が――」
ザシュッ……!!
「――ッ!!」
マイヤさんの言葉の途中で、彼女の肩から突然血が噴き出した。
それと同時に、シルヴェスターがゆらりと海の中から立ち上がる。
……海の中といっても、まだまだ浅い場所。普通に立てば、普通に足がつく程度の深さなのだ。
「マイヤさんっ!!?」
「うぅ、くそ……っ、こんなやつのために……。
み、みんな……ごめ……ん……」
……彼女は酷い形相を浮かべながら、浅い海の中に沈んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――まずは距離を置かなくては。
マイヤさんを助けたくはあったけど、そもそも私たちの安全を確保しなければいけない。
私たちは陸に上がり、エミリアさんとリリーの元へ走った。
ずぶぬれになったため、身体は冷えるし、靴もじゃぶじゃぶとしていて気持ちが悪い。
……しかし、今は不満は置いておこう。
今はそれどころではないのだから……!
「エミリアさん、大丈夫ですか!?」
「は、はい……。リリーちゃんも……何とか無事です!」
「本当っ!?」
リリーはエミリアさんに抱かれて、ぼんやりと半目を開けているような状態だった。
傷は多少残っているものの、大半はエミリアさんが癒してくれたらしい。
しかしほっとする時間は無い。再びシルヴェスターが、こちらに猛進してくるのだ。
彼の目は、まだ正気を戻していない。
本当に私たちを全滅させるまで、この状態で戦うものなのか。
……近付きされすれば、神器を消滅させることができる。
そう信じて戦っていたものの、それはあっさりと済ませることができない。
上手くいけば一瞬で終わるかもしれないが、その確率は1%――
無くは無いが、確実を望むのであれば、それはとても少ない数字だ。
今はルークとジェラードが戦ってくれている。
ジェラードは海には入っていなかったから、ずぶ濡れのシルヴェスターを相手に、今は上手く立ち回っている。
さて、ここからどうしたものか――
「ママ……」
「リリー! エミリアさんを護ってくれて、ありがとうね。
今はまだ、ゆっくり休んで――」
「……ううん。ママ、私がやるの」
リリーが真面目な顔でそう言った。
やる……? え? 一体、何を……?
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