コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その頃、エルフの里の奥にある儀式用の祠には、リゥパ、ルーヴァ、エルフ数名とリゥパの父、リゥパパパがいた。
リゥパと数名のエルフの服装がいつもと異なって特殊なものである。上は袖口がやけに広く、ひらひらとなるような帯状のものがいくつも付いており、下は足首までの長いスカートのような衣装だった。それはまるで和装、巫女姿のような出で立ちである。
リゥパは最初に祠に祀られている像に深々とお辞儀をした後に、ゆっくりと独特な舞を始める。全体的にゆっくりと緩慢に動きつつも、止まる時はしっかりと指先まで止まるような静と動がはっきりとした舞が見られる。
止まるからといって、決して楽な舞ではない。湿気が少し多い場所での動きは確実に汗が滲むも、彼女は顔色一つ変えず、真剣な表情や眼差しで舞を踊る。
「リゥパはなんだかんだで完璧に舞をこなす。この環境に加えて、舞を舞っている間は魔力がいつもより大量に放出されるにも関わらず、な」
リゥパパパは驚きと嬉しさを綯い交ぜにしたような顔で自分の娘を見る。それは成長を見て感動する父親の目と表情に違いなかった。
「真面目な時のリゥパ様はエルフで群を抜いて一番ですから」
「真面目な時はねー」
「いつもこれくらいならなー」
「だよねー。ムツキ様の所で少しは嗜みを覚えたのかもね」
「そうかもね。ちょっとだけ大人になったのかも?」
「だったらいいよね。おてんば娘だもんね」
「ほんと、ほんと。周りが若いからじゃない?」
エルフ数名は、口々に好き勝手言い始める。リゥパパパもそれに頷く。
「間違いない。真面目な時だけは、な。ムツキ様のおかげだな。早くに嫁がせることになったが、これは正解だったな。私が間違っていた。リゥパはもっと早くに嫁がせるべきだった……悔やんでも悔やみきれない……」
「そうですね。さて、次は私が代わります」
「頼む」
リゥパパパはエルフの一人が交代を申し出ると首を縦に振った。その後、そのエルフが舞をゆっくりと始め、リゥパがゆっくりと戻ってくる。
「あのね? 全員の聞こえてたからね? いくら温厚な私でも怒るわよ?」
リゥパは汗だくになりながら、静かに言葉を放った。リゥパパパやルーヴァ、踊っていないエルフたちが首を傾げる。
「温厚という言葉を知っていたのか……」
「温厚?」
「温厚って誰のことですか?」
「温厚のおの字も迷子でしょ」
「温厚……?」
「え、何て言いました?」
「やーねー、リゥパ、あーた、ボケるには早いわよ?」
リゥパはぷるぷると震えだす。厳かな雰囲気もあり、早く儀式を終わらせたい彼女はじっと我慢する。
「全員、後で【マジックアロー】で射貫いてあげようかしら……」
「あーた、温厚な人はそう言わないの分かるよねー。化けの皮が剥がれてるわよ?」
「くっ……」
ルーヴァに窘められ、リゥパは拳を強く握って震えさせながら我慢している。
「それはともかく」
「いや、適当に流さないでよ……」
リゥパはリゥパパパの強引な話の切り替えに唖然とする。
「今回は何巡目で出てくるだろうか……それによって、この後の予定も変わる……」
そもそも、この儀式はエルフの先祖のうち今年選ばれた数名ほどのための儀式であり、招き入れる、もてなす、見送るの3回も儀式がある。
まずは招き入れるための舞だが、エルフが長命故か、いくら踊っても選ばれた先祖が気付かずに舞を踊りながら待たされることがある。
その後、1日ほど経過して、もてなしの舞がある。これも地味に長く、先祖からの反応があるまで踊りが続く。
最後に、もてなしの舞が終わって1日程度の経過してからの見送りの舞だが、ここでも帰りたくない先祖がいると、これも地味に長くなる。
つまり、この3~4日間は先祖の霊に引っ掻き回されることになるのだ。しかし、先祖を呼ばないわけにもいかず、伝統としてこれは今でも残っている。リゥパは早めの結婚を許された以上、そのほかのしきたりを軽々と破るわけにはいかない様子だった。
「絶対に今日中に呼び終わるわよ!」
「やけに真剣だな」
リゥパの必死さに、リゥパパパは少し感動する。
「リゥパったら、ムツキ様と早く帰る約束しちゃったみたいで躍起になってるのよね」
「そういうことか。できるかどうか分からない約束をしてしまったか」
ルーヴァの話に、先ほど涙が出そうになったリゥパパパの目じりがすぐに乾いた。
「できるかどうかじゃなくて、やるのよ!」
リゥパは全員にやる気を見せた。いつになく真剣な眼差しに彼女の本気度を窺えた全員が唸る。
「そろそろ代わるわ」
リゥパが軽く汗を拭き終わった後にそう言って前に出る。本来はリゥパ、エルフ2~3人、リゥパ、先ほどとは別のエルフ2~3人、とリゥパが多めに繰り返す順番になっている。それは、リゥパがエルフの姫であることの責務だった。
「おいおい。早くないか?」
「本来、私がぶっ通しですれば、すぐのはずよ」
この舞のカギはリゥパの踊っている時間である。そのほかのエルフはただの繋ぎでしかない。しかし、魔力をいつも以上に出し続けながらの舞はそう一度に長く舞えるわけもなく、また、そう頻繁に交代できるものでもない。そのために、交代制を取っているのだ。
「3回もこの儀式があるのだから、1回目から飛ばすと後が大変だぞ?」
リゥパはリゥパパパの言葉に首を横に振る。
「私はムッちゃんの所に早く戻りたいの! それでムッちゃんを独り占めしたいの! イチャイチャして、チューってして、いろいろしたいの!」
「純粋すぎるくらいに、動機がよこしまね、あーた……」
リゥパの力強い言葉に、全員がコケ、ルーヴァが小言を口走る。
「だーまらっしゃい! 行くわ!」
その後、リゥパは周りが限界じゃないかと思うくらいまで舞い続けた。すると、先祖がやって来た印が祠に浮かび上がる。
「おぉ……思ったよりも早くに1回目の儀式が終わったな。次は明日のこの時間だ」
リゥパは肩で息をしながら、全員の方を振り返る。
「ほーんと、執念ね……見直したわ」
「へへへ……ブイっ!」
リゥパの笑顔はとても輝いていた。