テラーノベル
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始まりの記憶は、淡く薄い。
親に捨てられた私には、家族も身内も存在しなかった。
世間一般的に「孤児」と分類される人間だ。
そんな私に、神様は何を思ったのか更なるハンデを与えた。
「障害」というハンデを。
生まれつき目が見えない。それは果てしなく不安で、恐怖だった。
そんな中で、今も生き続けていられているのは奇跡に近い。
でも、私が今生きているのは奇跡や偶然でもあり、必然だとも思う。
「大丈夫かい…?」
あの日、先生の一言に私は救われたのだから。
その声はとても優しくて、孤独な心を埋めてくれるようで、
それはとても心地よく、温かかった。
あの日から、私の人生は大きく変わることになる。
何もない、何も感じない。
ここはどこだろう。もう、大分と歩いた気がする。
痛い。お腹が空いた。
静かなこの場所には、腹の虫がよく響く。
ただ、ひたすらに歩いた。歩いて、歩いて、時に走って。
そんな足ももう限界で、感覚は疾うの昔になくなり、歩みを止めると痛みが走る。
何かに足先が触れた。かと思えば体が宙に浮き、鈍い音がする。
転んだらしい。後から痛みが押し寄せてくる。
なんとなく、もうダメなんだと思った。
意識が遠のいて、全身の力が抜けていく。
そんな中で、遠くからゆっくりとこちらに向かってくる何かの足音と気配を感じた。
また何かの動物かな…食べられちゃうのかな…。
でも、そんなことどうでもいいくらいに、私の小さな体に蓄積された疲労は限界に達していた。
近づいてくる何かはゆっくり、そして徐々に早く、私に向かってきている。
「君!こんなところで何をしてる?!」
その‘何か’は獣や野生動物などではなくて、酷く焦った声をした人間だった。
「大丈夫かい…?」
優しく、柔らかい、安心できるその声で。その人は私にそっと触れた。
温かい。始めて人の体温を感じた気がした。
何を言っているのか理解できたわけじゃない。それなのになんで。
涙なんて枯れるぐらい流したはずなのに、また冷たいものが頬をつたう。
緊迫の糸が切れた様な安堵が私を包む。
「え!えあ、えっと…どうしたら…と、とりあえず立てる?」
何を言っているのか分からなくて、何もできずにいるとその人は更に戸惑い、慌てる。
「あ、あれ?ど、どうしよ…でもこんなにボロボロだし立つのは無理だよね…そもそも何でここに子供が…この子は一体…?もしかして迷子?」
なんてブツブツ独り言を言い始めた。しばらくその状態が続き、やがて吹っ切れたようにまた上から声が聞こえる
「よし、ちょっと触るね。」
そう聞こえた瞬間ふわりと体が持ち上げられ、何が起きたか分からなかった。
「とりあえず、僕の家行こうか。その感じだと何日も食べてないでしょ?ご飯ならあるからね。」
すぐそばから声が聞こえる。心休まるような、本当に優しい声。
そのまま、体が浮く感覚に違和感を感じながらも、抵抗する力も残っていない私は、温かい体温と揺れに身を委ねて静かに意識を手放した。
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