スーパーの前は、何故か混雑していた。
人が少ないに対して品揃えの良い活気的なこのスーパーには何度も足を運んでいるが、これほどまで混雑することは一度も無く、ましてやこの商店街にこれほどの人数が住んでいたことに驚きだった。
まだ水溜まりが残るコンクリートの上から溢れんばかりの湿気に見舞われる中、人だかりを避けながらスーパーの前へと足を運んだ。
スーパーの前には長身の面持ちの良い男性が立ち、まだ準備しきれていないのだろう黒い手袋をはめながらスタッフさんらしき人物と話している光景が目に入る。どうやらこの人だかりは彼を見る為に構成されているもののようだった。
あぁ…なるほど。
『俳優』がここにいるということは、”何らかの撮影場所が偶然この場所になった”、という認識が正しいのだろう。
諦めて、再度人混みの中を突き進みスーパーの裏手へと足を運ぶ。途中、背後から何か強い視線を感じた気がしたが、慣れたことなので気のせいだと流した。
スーパーの裏手へと到着する。従業員がいないことを確認し、そっと壁に手を当てる。自身の手が触れた場所に真っ黒な丸い空間が作り出され、その中に躊躇なく足を運べばスーパーの中へと通される。
正直、この能力だけはとてつもなく便利なので結構愛用してる。
カゴに入っていたメモ通りの品物を、途中の道に設置してあった買い物カゴへと放り込んでいく。今晩はカレーなようで野菜コーナーをぐるぐると回る。ある程度品物が揃ったところで帰る途中に飲む水を買いに行こうと飲料コーナーへと向かう。
背後から知らない視線が飛び交う。
幸いにも中は人がおらず…というか、この状況すらも現在俺を狙って来ている奴らの仕業なのかもしれないと勝手な妄想が思考を蝕む。
飲料コーナーは広いもので、多種類の飲料たちが幾度も積み重なって並べられている。横にはまだ運び途中のような巨大なカートが設置されており、そこ上にはダンボールがしりきに積み重なっていた。
ダンボールに2人、天井に3人。
一体どうすれば天井にしがみつこうという発想になるのか自分には分からない。けれど自身を狙っていることは変わりないので、さっさと買い物を終わらせて出ようと水を手に取る。
シュンッ__
真横を何かが通り過ぎたと頭が処理する暇もなく、そいつらは俺を襲って来た。ナイフと思われるそれがいくつも飛び交う中、走って避けていく。なんとか人のいる会計に到着すれば攻撃は止められた。
やっとの思いでスーパーから出ると、あれほどまでに混雑していた人だかりは影一つ残さず忽然と消えてしまっていた。
コメント
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襲撃者怖ッ! 続き楽しみです!