窓から差し込む太陽の光が俺の目元を照らした。眠くて動かない重い瞼をなんとか開き、いつも見る白い天井が目に映し出される。 横を見れば隣で眠ってる彼はいない。
そうしてると部屋の扉が開かれる。そちらに視線を移せば、仕事着をきているすちの姿があった。
🍵「!暇ちゃん、おはよ」
🍍「…ぉぁよ…」
🍵「ふふっ、まだ眠そうだね。」
そう言って俺の頭を撫でる。彼の温かい手のせいでなんとか開かせた瞼がまた閉じてしまいそうになる。
この感覚は、俺を慰める度に撫でてきたあいつの手の温かさに似ている。
🍵「…暇ちゃん、良かったら飲みな?」
そう言って彼が渡してくれたのはマグカップで、中身を見れば暖かそうに湯気を立ててるホットミルクがあった。
🍵「いつも飲んでるもんね?」
そう言い優しく笑うすちを見て、俺は口をつけた。ほんのりとした甘さが口全体に広がっては消えていく。
その味はあの時作ってくれたホットミルク、
それ飲んだら寝ろよ___
には、似ていない。
分からない。違う、こんな味じゃない。やっぱり薬を持ったに違いなかったんじゃんか。
🍍「……ッ、ぃるまっ…」
🍵「ッ暇ちゃん…?」
🍍「ッ!」
うっかり彼の名を口にしてしまった。
あの時、すちに襲われた時にも彼の名を口にしてしまい泣いた事があった。 あの時の事はちゃんと謝った。それでも何かされると思っていたが、すちは笑顔で了承してくれた。
でも、それから彼は心の底から笑ってくれることが少なくなった気がする。俺の前では明るく振舞っているけれど、俺が居ないとこでは暗い顔をして溜息を吐いてばかりの彼になってしまっていた。 それに、何かと彼は口癖のようにこう言ってる。
🍵「…暇ちゃん、ごめんね」
何故謝るのか分からなかった。特に怒るような事もされてないし、彼にイラつくような話も仕草もない。むしろ、いるまの時よりは快適に暮らせてると思ってるのに。
こんな時まで、彼を思い出してる俺が謝るべきなのに。
🍵「…暇ちゃん」
🍍「ぇ、あの、ごめんッ、」
🍵「俺が帰ってきたら明日の式場でも見に行こっか?」
頭を撫でていた手を今度は俺の左手を握りしめた。俺が他の男の名前を出して怒られて当然なのに、彼の手はまだ温かいままだった。
🍍「…ッわかった」
🍵「うん、ごめんね」
またそう言う。きっと、俺が口癖にさせてしまってるんだ。でも こんな俺でも、すちはちゃんと愛してくれている。そんな彼に俺もちゃんと応えなきゃいけない。
言いなりに、ならなきゃいけない。
あの時の、楽しかったあいつとの暮らしが俺にとって理想になっているから。
🍵「…暇ちゃん、俺仕事行ってくるね? 」
🍍「…ぅん…いってらっしゃい…」
そう言って俺の額に軽いキスを落とし、部屋から出て行った。部屋から出る際にも俺に見えないと思っていたのか、また暗い顔をしてるのを見逃さなかった。
そんな彼とさっきのやってしまった言動に朝から悩まされ、それからも俺はベッドから出れないでいた。
さっき言われた式場。
そろそろして 俺たちの 婚姻の時がやってきた。母の指摘で髪を伸ばし、身体の管理として食事の軽減もして、とにかく“綺麗”に、すちに似合う花嫁になりなさいと言われてきた。きっとウェディングドレスを着させられるんだろう。 夕方から日没後にかけて挙式・披露宴を行うナイトウェディングに決めたため、夜に誓いを告げる。
でも…
🍍「……いるま、」
俺の中には、まだ彼が居座ってるらしい。
彼の家にあった本を同じものを購入して読んでればどこか落ち着きが出てしまって、
料理をする時も彼が好きだと言ってくれたものを、彼の好きな味に作っていて、
夜眠れない時は、ホットミルクを作っては彼と違う味に少し悲しんでしまう時もあって。
今はそんな彼がいない。
まだ彼に、告白をしていない。 きっと、いや、絶対に繋がれてたと思う。
🍍「いるまッ……」
今、どこにいるの? 何をしているの?
もう、とっくに怪我なんて治ってるよね?
俺の事、探してるの?
もう好きじゃなくてもいい、付き合わなくてもいいからせめて、俺のウェディング姿くらいは見て欲しい。
あの優しい目で、俺にしか向けてくれない笑顔で、「かわいい」って言って欲しい。
あと、1回だけでもいいから、会わせてよ。
🍍「ッ…ぅ゛う゛っ…」(ポロポロ
ねえ、いるまッ……
🍵「暇ちゃん?」
🍍「っ!ッ、すちっ…」(ポロポロ
🍵「ど、どうしたの?!怪我とか?!」
気づけばもう夕方になっていた。俺を置いて時間は刻刻と過ぎていく。俺はただ惨めに泣くことしかできない。
🍍「ッな、なんでもないッ…行こっ…」
🍵「っ、なんでもなくないよッ!何か話せるのなら、話して!」
立ち上がって外に出る準備をしようとしても、すちは俺の腕を掴んで離さない。彼の目を見れば真剣な顔で、俺のことを心配してる様子だった。
彼なら、いるまの居場所が分かるのかな
🍍「…式場、行かないで…」
🍵「えっ?」
🍍「いるまに、会いたいっ…」
そう言うと、すちはおもむろに驚いた顔をし、すぐに苦虫を噛んだような顔をしていた。何年も彼を見てきたから、ほんの少しの自信なだけかもしれないけど、
いるまの居場所が分かってる気がする。
🍍「ッ最後にするからっ!」
🍵「………」
🍍「いるまのとこに行くのはもう諦めてるッ…!帰ろうなんて1ミリも思ってないッ! 」
🍵「っ……」
🍍「でも、せめてっ!最後に会わせて欲しいッ!1分でも10秒でもいいッ!お願いだからッ、話をしたいんだッ…!」
そう言っても顔を下に向けて何も喋らないすち。
🍍「ッすちッ、お願いっ…!もう、関わらないからッ、何もしないからッ!!」(ポロポロ
🍵「ッ暇、ちゃんっ…」
🍍「会いたいッ、お願いッ…1回でいいからっ…!お願いッ!!」(ポロポロ
🍵「っ!、紫燈いるまはッ!!」
🍵「俺が、殺した」
🍵「もういないよ、
死んだから…」
🍍「っ____」
その言葉に、全身が冷たくなった気がした。
俺の中の優しくて、怖くて、暖かかった笑顔も、思い出も全て崩れたように壊れた。
頭が働かなくなって、立っている感覚もなくなる。
🍍「嫌だっ…嫌だッ…」
嘘だって言って欲しいのに、けど今冷たい目になっているすちを見てて嘘をついてないことが分かってしまう。
俺の記憶にあった彼の顔が、全て崩れていく。
やめて、消えないで。
もう、とっくに彼の声なんか忘れてしまって、「なつ」って呼ばれてた記憶しかなかったのに。
本も、料理も、ホットミルクも、全て俺の悪あがきで、無駄だったことになってしまう。
🍍「っ嫌だ嫌だ嫌だッ…嫌だッッ!!!」
🍵「暇ちゃん…」
涙を流してしまったら彼の顔を忘れてしまう気がする。涙を流したくないのに、ぼやける視界には床に落ちてく水滴しか見えなくて、それでも必死に縋るしかない。
何も動けなかった自分が情けない。
🍵「…式場は明日、早めに行こっか」
すちの顔も見れないまま、彼はリビングから出て行ってしまった。
それから長い時間がたった。
あれからどれくらい泣いたのだろう。
時計を見ればもう朝方になっていた。目元が腫れてしまっていて、泣き叫んだからか喉も動かない。電気もつけないでうす暗い部屋の中、壁を手探りで探しては無い力で立ち上がる。
顔を上げれば窓の外には夜空に浮かんだ点々とした星がある。
🍍「…ぁの中に、いるまはいるのッ…?w」
目の前にある黄色い星を見つけて、つい手を伸ばしてしまう。そうすれば、自分も彼のところに行けるのではないかって思ってしまったから。
🍍「あははっ…」
俺は、馬鹿なんだな。
もう失ってしまったのに、まだ縋ってる。
神様なんて、ずっと昔から俺なんかに味方してくれなかったのだから。
母親から虐待されて、手のひらで転がされてたのも気づかないで生きてきたんだから。
伸ばした手をそのまま降ろして、キッチンに行き、コップと冷蔵庫から牛乳を出してはまた作ってしまっていた。
1口飲めば甘すぎず、美味しくて。彼の作ってくれたものとは全然違うくて。
🍍「ッ…」(ポロポロ
もう涙を流していい。もう顔を、彼の笑顔を忘れちゃったから。ただ、黄色いお月様みたいな瞳と、立っていたアホ毛しか覚えていない。
このホットミルクも、罪深い味だと、思ってしまうしかなかった。
翌日、風が吹く窓際で景色を働かない頭でぼーっと見つめてた。下から聞こえる声に目を向ければ、こちらを見ながら帰宅する学生や止まった車から降りる知らない人達、それらを見ながら今日も平和そうだなと心の中で適当に感じとく。
🍵「目、なんとか大丈夫そうだね?」
🍍「…ぅん」
後ろを振り返ればもう着替えたのか純白なスーツ姿のすちが立っていた。
🍵「よく治まったね?どうやったの?」
🍍「…別に、冷凍庫に入れてたタオルを当てただけ」
こんな方法も、俺が泣いてばっかの時にあいつがやっていたんだっけ。朝仕事に行く前でも、一緒に眠ったあの夜の時も。
🍵「暇ちゃん、着替えて?もう両親に会う時間が来てるからさ」
そう言って部屋から出て行った。
式が始まるまで残り3時間、俺は椅子に座ったまま、あの時の優しかった彼の事を思い出していた。
自室からノック音が聞こえ、目を向ければスタッフの姿と白いドレスがあった。
着ていた服を脱ぎ、重たい自分の髪の毛を落ちないように持ちながら、スタッフに次々と下着や服を着せられていく。隣を見れば真っ白いシンプルなウェディングドレスがある。
こんなもの、初めて見た。きっと母さんとすちが選んだものなんだろう。
「キツかったら言ってくださいね? 」
笑顔で言ってくるスタッフを横耳に着々とドレスを着ていく。
きっと、死んでいなかったら、俺の姿を見て笑っては「久しぶり」って言ってくれたのだろうか。
俺が、もう戻らないと言えば怒りながらまた連れて行くのだろうか、いや、あの人なら俺の意見に尊重して笑顔で送り出すかもしれない。本当は、昨日の夜に会って、答えを聞きたかったのに。先に居なくなるなんて卑怯だ。
🍍「…俺って、可愛いですか?」
「?はいっ!とてもお綺麗ですよ!」
1晩経って、涙も出なくなり、何も残っていない今、もう彼を忘れてしまった方が楽だと思ってしまっている。 もう声も忘れてしまってるし、顔も曖昧になってしまってる。
でも、何故かまだ心の中には“好き”だって気持ちが残ってる。何もなくなった俺の中に、まだ思い出となるもの1つだけが残ってしまっていた。
それが、俺を苦しめてるんだろう。
🍍「…捨てれねぇなっ…w」
彼は空の上で、俺の姿を見ているのかな。
「かわいい」って言ってて欲しいな。
「できましたよ!」
そう言うスタッフの声が聞こえて、前を見れば鏡には真っ白いドレス姿の俺が写ってる。自分では綺麗とも可愛いとも思わないけど、あの人が言ってくれるだけで本当なんだと感じた時だってあった。
🍵「…綺麗だね?」
🍍「!、すち…」
後ろにはまた、すちが立っている。ニコニコと笑う彼を見て、もういるまがいないのならば、優しく笑う彼に好意を向けなければならないと、彼に悪い事を考えてしまっていた。
🍵「家族のとこに行こっか」
差し出す手を見て、震える手ですちの手を取った。
部屋から出て数メートル歩いてると、すちのご両親やみこととこさめ、もちろん母親の姿もあった。 すちはそのまま自分の両親の元へと行き、軽い挨拶と話をし始めた。
🦈「!お兄ちゃ…ほあぁ…✨️」
👑「ぅえ!…ふえぇ…✨️」
🍍「…みこと、こさめ?w」
かわいい蝶ネクタイをつけてる大切な弟達からのキラキラとした輝く熱い視線がこちらに向けてくれている。
🍍「…お兄ちゃん、綺麗?」
🦈「めっちゃ綺麗!!✨️」
👑「ものすごくかわいい!✨️」
無邪気な笑顔を見せてくれる弟達を見ていて、さっきまでの暗い気持ちが光を差し込んだみたいに少しずつなくなる感覚があった。こんな俺にも、笑顔で答えてくれる弟2人に有難く思いながら頭を撫でてあげた。
「なつ、準備できたわね?」
🍍「!」
可愛い2人に気を取られてたか、前にいる自分の母親に気づかなかった。嫌に豪華なドレスに濃いメイクをして、鼻に刺さるような香水をつけてる彼女に睨みつけたいがそうしてられない。
🍍「…はい、母さん」
弟達の頭を撫でていた両手は次第に、俺が前に躍り出て彼女を遠ざけようと後ろへ促すようにと優しく押してあげた。
そう思ってると彼女は俺の傍に行っては俺の耳元で弟達に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「…下手な真似はするんじゃないのよ?」
🍍「…はい」
こんな人に負けてしまうのが少しだけ悔しい気持ちだ。 やっぱり、俺って馬鹿なんだな。
今は19時。
外はもう薄暗く、静かになっていた。
そこからはもう覚えていない。
親族にご挨拶をして、また最後の準備と取り掛かるために自室に行ってはメイクや髪型を変えて。
気づいたら扉の前で立っていた。
その時の俺は、久しぶりに動いたからか疲れてしまってるのが6割、まだ頭と心の中に住み着いてる恋心の苦しみが4割だった。
でも、今から式が始まる。早くこんな恋心を忘れてしまいたくてしょうがない。
「…花嫁の入場です___」
そんな声が聞こえ、俯いてた顔を前へ向ける。
((パタンッ
扉を開けられ、目の前に広がるのは知らない人達の目線。すちの親族や仕事仲間の人達なのか、俺の家族までもがこちらを見ている。 どう見られてるのか分からない、こんな、中途半端な俺を見透かされてるみたいで。
怖いと、 無意識に思ってしまった。
🍵「…暇ちゃん、焦りすぎっ…w」(コソッ
早足になっていたのか、前にいるすちに笑われ、小さく呟かれた。逆に彼の近くにいた俺の母さんはこちらを睨みつけている。
こんな時でも、俺の周りにいた人達が脳裏に出てくる。俺のご飯を用意してくれたり俺の仕事を手伝ってくれてたいるまの部下達。
出会った時は銃を向けられ俺の事を睨んで怖かった思い出があったとしても、一緒に居て楽しかった、いるまがいない時にいつも俺の傍に居座って慰めてくれたらん。
あの温かくて楽しかった場所が大好きだった。
🍵「……暇ちゃん…?」
思わず、歩いてた足を止めてしまっていた。動かない俺に周りは疑問に思ったのか、コソコソと話す声が聞こえてきていた。
🍵「ど、どうしちゃったのかな…?」
「っなつッ!早く歩きなさいっ!」(コソッ
前からすちの心配そうな声と、母さんの怒号が混じったような声が聞こえてた。
でも、俺の足は動かなかった。
俺は、ここに居ていいのだろうか?
好きでもない、親友だと思っているすちと、こんな形で繋がっていいのだろうか。
彼は、本当に死んでるのだろうか。
今になって、逃げ出したい気持ちが 出てきていた。彼に、会いたくなってきていた。
🍵「っ…暇ちゃん?大丈夫?」
前を見ればすちがこちらへ歩み、迎えに来てくれていた。彼はまた、俺に右手を差し出した。
🍍「っ…すち、ごめッ…」
🍵「暇ちゃん?」
🍍「俺ッ、俺っ……」
いるまに、会いたいッ…!!
🍍「っ…!!」
頭上からガラスの音がした。
上を見てみれば、綺麗に光っていたステンドガラスが割れて散っている。1枚だけじゃない、隣にあったステンドガラスも、その隣のものも、順々に割れては散っていく。
敵襲が来たのかと思ったが、割れたステンドガラスからは誰も侵入してこない。
「なっ、何事だッ!!___」
「地震!?とにかく避難して___」
会場にいる親族達は大騒ぎになっている。
🍵「っ…皆さんッ!落ち着いて!」
🦈「ぅわあああぁぁぁん!!」(ポロポロ
👑「怖いッ、怖いよぉっ…!」(ポロポロ
🍵「っ…みこちゃん、こさめちゃん、大丈夫だから落ち着いて?」
「っどういうこと!?式の邪魔をしたのは誰よッ!!」
すちは会場の人たちを抑えこむように促し、母さんは怒ってる姿がある。こさめもみことも泣きじゃくっている。
そんな中でも俺は割れたステンドガラスにしか目を向けれなかった。キラキラと割れたガラスが散って落ちてくだけなのに、目を背けれなかった。
すると、割れたステンドガラスの隙間から人影が見えた気がした。
🍵「…!誰だッ…!!」
すちも気づいたのかボソッと呟いた。
でも、あれは、敵襲なんかじゃない。
“あの人”なんだと、そう感じてしまった。
🍵「っ暇ちゃんッ!危ないから逃げよ」
🍍「っ、すちッ…!」
俺の手を掴もうとしたすちの手を避けた。彼が驚いてるのも気にせずに、俺は彼に向かって口を開いた。
🍍「ごめんッ、すち、ッ気づいてたかもしれないけど、俺はお前に答えられないやッ… 」
🍵「…あ…」
そう言えば彼はおもむろに傷ついた顔をしている。心臓が締め付けられるように痛いが、言いたいことを口に出していく。
🍍「っごめんッ…友達としか、見れなくて、俺が弱くって、ごめんなさいッ… 」
🍍「俺はやっぱ、みんなを、いるまを忘れられなくてッ、ずっと苦しかったっ…」
🍵「っ…でも、あいつはッ…!!」
🍍「死んでるんだろッ?でも、あいつの顔を見てから答えを知りたいっ、死んでいてもいいからっ!あいつに会いたいんだッ」
口を開けばどんどん本音が吐き出されてく。吐き出されると共に、彼に会いたい気持ちが少しずつ芽生えていく。
🍍「っ…ごめんな、すちッ…」
🍵「っ、暇、ちゃんッ…」
🍍「ッごめんっ…」
すちは苦しそうな顔をしては俯いた。俺を掴もうとした手は俺の目の前でぶら下がったように落ちていく。
全て吐き出し終えた俺は、後ろの入場口に向かって走った。左右から聞こえるざわめく人声なんか気にもせずに、邪魔なドレスを持ち運びながら。さっきの人影が向かいそうなところを頭に思い浮かばせて走った。
「なつッ!あいつッ、何をしてやがるッ!」
「すち君ッ、ごめんなさいねっ、早く追わなきゃっ…」
🍵「お母様、もういいですよ」
「はっ…?」
🍵「…もう、大丈夫ですからっ」(ニコッ
🍍「はっ、はっ、はっ…!!」
体力がなく、重いドレスを持ち上げながら廊下をひたすら走る。誰だかさっぱり分からないが、ずっと思い焦がれてたあいつだと信じて走り続けた。 後ろからは母親の怒号と、親族らしき人達の声が聞こえてくるが気にも止めずに走り続ける。
着いたのは自分が使ってた自室。そこに入り、誰も入らせないように内側から鍵をかけては、使っていた椅子を扉の前に2、3脚かけて閉じ込めさせた。
すると、窓からノックの音がした。目を向けてみれば、そこに居たのはステンドガラスを割っただろう犯人の姿。
開けてくれ、と言ってるのだろう。
窓の傍に行って鍵を開けようとするが鍵を回す構造になっている。スタッフの人達が閉めたのだろう、その鍵はきっとスタッフが持っているに違いない。
🍍「っ…お願いっ、待っててッ…!」
聞こえるか分からないけど、その人影に声をかけては扉の前に置いた1脚の椅子を持ち、窓ガラスを割ろうとぶん投げた。だが、そんな簡単に割れなくて、何度も何度もぶん投げる。
🍍「っ早くッ、早くっ…!!」
そうしてると窓の外にいる人影が窓に手をつけた。ゴツゴツとした角張った大きい手、すると手を動かし始める。親指を立てたり、大きく開いたりと何かを伝えるように。
俺の頭の中に思い浮かんだ。
こちらがここの組織共通の暗号となっております___
説明してた、馬鹿みたいに勉強した、あのめんどくさい暗号らを。
もう1回、その人影の手を見ては記憶の片隅に置いてあった暗号を並ばせて思い出す。
→、¥、r、€……?
h、n、l、r……
『は な れ ろ』
頭の中で言葉ができた途端、窓から離れるように後ろへ急いで下がる。
((バンッ!!、バンッ!!
すると窓についてた手が離れ、今度は銃を撃ちつける銃声音が鳴り響いた。窓は少しずつヒビが割れていく。
「おいっ!ここから音がするぞ!」
「なつ!!早くここから出なさいッ!!」
その音を聴き駆けつけたのだろう、母親の声と親族達の声が扉から聞こえてくる。扉を開けようとするが、鍵がかかってありなかなか開かなくて手こずっている。
🍍「っ、お願いッ、早くっ…」
((ガタンッ!!
🍍「うわっ!?」
扉に気を取られてしまったからか、窓を開けようと投げていた椅子が足に躓いてしまい、後ろから倒れそうになる。ドレスもまとめてた髪の毛も重くて立ち直れそうにない。頭から来る衝撃に目を瞑った。
そんな時、前からまた、ガラスが割れた音がした。瞑ってた目を開けてしまった。
まるで世界がスローモーションみたく、目に見えるものがゆっくりに動いてるようだった。
こんな夜でもそよ風が吹いていて、白いカーテンがなびいている。
ガラスの破片が銃と風に吹かれては月に照らされて、昨日見た星みたく光って綺麗だった。
入ってきたガラスの破片と一緒に、 窓にいた人影も一緒に入ってきては、こちらに向かって飛びかかって来た。
倒れそうになっている俺の背中を掴み、支えてくれる。掴んだ手にはあの暖かい感触があり、前からは懐かしい香りがした。
月に照らされて見えるのは、あの時俺が見た狼みたく鋭く光った黄色い瞳。 でも、俺を見る時は、柔らかくて蜂蜜みたいに蕩けるような甘い瞳で。
ほんの少しだけど覚えてた。
俺が、忘れてしまいそうになっている、この、感覚を。
🍍「っ、いるまッ…」(ポロポロ
📢「よっ、なつ___」
そう言って笑う彼に、俺の目からは枯らしたはずの涙が溢れ出てきていた。
🍍「っ、なんでっ、死んだ、はずじゃっ」(ポロポロ
📢「あいつ、俺を死んだと思ってたのかよ…お前を置いて死ぬ訳ねぇだろ?w」
そう言いながら俺を抱きしめてくれた。頭と背中に添えてる手が撫でる度に、俺の目から流れる涙が止まらない。震える手で彼の背中に縋り付き、離さないように服をきつく握りしめる。
🍍「っ会いた、かったッ…」(ポロポロ
📢「俺も、会いたかったよ」
「早くっ!!鍵を持ってこいッ!!」
そう言ってる間にも、扉の向こうにいる人達は中へ入ろうと必死に動いている。
📢「そろそろ、行かないとだな」
いるまはそう言うと、俺の右手を掴みキスを落とした。彼の行動に俺の顔が熱くなる。
📢「丹波那津、お前を攫いに来た」
あの時の冷たい視線じゃない、今は優しくて暖かい視線でこちらを見ている。
🍍「っうんッ…」(ポロポロ
📢「一緒に、来てくれねぇか?」
🍍「っなんだよッ…俺が、告白するって約束だったのにっ…!!」(ポロポロ
📢「あ、ごめん忘れてたw」
こんな時でも呑気に笑ってる彼にムカつくが、心が暖かくてまた、涙が流れそうになってしまう。
目の前の彼は、もう答えを知ってるかのように笑いながらこちらを見ている。
🍍「っ…俺も、アンタに攫われたいっ…」
掴まれた右手で、彼の掴んでいる手を握りしめた。
🍍「一緒に、行きたいッ…!」(ニコッ
📢「…決まりだな」
すると、彼は反対の手からナイフを取り出しては、また俺を抱きしめた。
まとめていた俺の髪を解いては1つに纏めて掴み、
シュッ!___
ナイフで切った。
切られた長い髪が風に吹かれてなびいて落ちていく。
つけられてた足枷が取れたように、今まで重かったものが、彼によって心も身体も軽くなった気がした。
📢「…こっちの方が、俺の花嫁みてぇで可愛いわ」(ニコッ
🍍「っ…/////」
ロング髪からベリーショートみたくなった俺の姿を見ては、満足したような顔をする。言いそうな事を、言って欲しかった言葉を言ってくれた。顔が熱いのは、涙が出そうになってると思い込んどいた。
ナイフを投げ捨てた後、背中と膝裏に腕を通され、簡単に俺を持ち上げる。身体半分から伝わる彼の体温が、俺の心臓を鳴らし、苦しませる。
🍍「…いるま、」
📢「なに?」
🍍「帰ったら、また、伝えたいっ…」
📢「…あぁ…その前に6ヶ月分…いや、数年分のエッチしてからでいい?w」
🍍「最っ低ッ…w」
そんな話をしながら、彼は窓の傍で1歩踏みしめた。
バンッ!!___
🍵「……」
「っ、おい!誰もいないぞ!!」
「なつ!!どこに行ったのよ!!」
親族たちの後ろで俺は暇ちゃんが使ってた自室を見つめる。
鍵をかけてあった窓は壊されていて、下には窓ガラスが割れて散っている。離れた場所にはナイフと長い髪の毛が落ちており、髪の毛は茶髪と少しだけ赤色の髪の毛が混ざって落ちていて、彼のものだと分かった。
🍵「やっぱり、アイツだよな…」
あんなヘラヘラした奴に、俺は負けてしまった。でもそんな彼が、暇ちゃんは大好きで、おそらくついて行ったのだろう。
「俺はまた、彼奴を攫いに行く。」
🍵「…ッは…w」
宣言した通りの事を、やってきやがった。
悔しい。けど、かっこよくて心底ムカつく。
🦈「ねぇねぇ、すっちー」
🍵「!」
👑「兄ちゃんは?どこに行ったの?」
俺の服を掴む彼の弟達は、不安そうにこちらを見あげている。そんな可愛い弟達を見ててムカつく気持ちが少しなくなった気がする。
2人の視線に合うようにしゃがみこみ、彼の変わりに2人の頭を撫でてやる。
🍵「お兄ちゃんはね、幸せになったよ?」
🦈👑「「???」」
そう言っても2人とも分からない顔をしている。そんな顔も可愛くて思わず笑ってしまった。
夜空に浮かぶ月を見ながら、 いつかは分かるこの答えを、2人には教えないでおいてあげた。
真夜中に溺れる ℯ𝓃𝒹___
♡2000 → 2人の初デート
♡5000 → お兄ちゃんの答え
♡8000 → 6ヶ月分の、
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完結おめでとうございます!!